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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百九十三日目 面白くなってきた

「…………」


 友里さんの視線が、なんか痛い。刺さってる気がする。


「……なに」

「いや……ツキってやっぱり人間じゃなかったんだなぁ、って……」

「今更だな」


 俺と友里さんはパトカーに乗せられてからよくわからん建物に連れてこられ、密室に放り込まれた。


 他の助けた人たちが俺のことを怯えてたからこその判断なんだろうけど。


 羽まで見せてもう隠すことが面倒くさくなったので堂々と輸血パックから血を飲みまくっている。


「それ……美味しい?」

「いや、不味い部類にはいる。苦味と渋味がある上に何故か後味変に甘ったるい。甘いのは好きだがこの甘味は好きじゃない」

「でも飲みまくってるじゃない」

「だから飲めないほどじゃないんだって。飲まなきゃ餓死するから飲むだけだから」


 ……全然美味しくない。


 だが、飲めないほどではない。なんていうか……なんだろう。


 かなり形容しがたい味なんだよ。喉乾いてなかったら飲まないと思う。


「人工血液なんていうから、全く飲めないかと心配したけど、まぁ許容範囲ってところか」

「……飲めないのってあるの?」

「そりゃ味の好みくらいある」


 それより、これちょっと飲みにくいな。パックふにゃふにゃだし。たまにちょっと溢れる。


 試行錯誤していると部屋の扉が静かに開き、制服を着た髭面のおっさんが数人引き連れて入ってきた。


「うわっ、本当に飲んでる……」

「ばか、聞こえるぞ」


 小声で話ながら入ってきた後ろの二人は俺に一歩でも近付きたくないらしい。人間なら聞こえないくらいの声量だが、俺の耳にはハッキリと聞こえてる。


 髭面のおっさんはというと俺の奇行に全く反応せず、それどころか握手を求めてきた。


「鈴木です。よろしくお願いします」

「……どうも」


 手を握り返すとまた後ろの二人が反応した。やけにビビっている。彼らからしたら宇宙人と対面する気分なんだろうか。


 ……俺が宇宙人ってのはなんか嫌だが。


「お話を伺っても?」

「ええ、まぁ、お好きになさってください。ただ、答えないこともありますので」

「勿論黙秘権はあります。言いたくないなら話してくださらなくて結構ですよ」


 ……へぇ。このおっさん、読めないな。


 俺が血を飲んでいることにも一切反応しないし、目線の動きも不自然なまでに平常。観察してくるわけでもなく、全く見ないわけでもない。


 交渉慣れしてる人の顔だ。


「……こういうのは慣れっこですか?」

「どうしてそう思うんです?」

「非常にリラックスしてるご様子なんで」


 フッと鈴木さんが小さく笑う。


 タイミングも、笑いかたもまるで教科書通り。自然すぎて不自然だ。俺がこういうの見抜けるからわかるだけでわからない人の方が多いだろうけど。


「それは、お互いにですか?」

「そうですね。……あなたとは気が合いそうだ」


 血を飲む手を止め、鈴木さんとしっかり向き合う。横では友里さんがおろおろと視線をさ迷わせていた。


 これが普通の反応だ。俺の場合は商談で慣れてるし、鈴木さんの場合は……多分こういう尋問とかの専門の警官なんだろう。そんなのあるか知らんけど。


「あなたは何者ですか?」

「いきなりですね」

「先に知りたいというのが性分でして」


 誤魔化すか、正直に話すか、黙秘するか。


 ……よし。


「何者か、という質問はよくされますよ。どこ行っても異端扱いなんでね。正直なとこ、それ自分が知りたいです」


 この人とちょっと遊んでみたくなった。どう切り込んでくるのか、少し気になる。


「……そうですか」


 表情がわからない。こういうのは俺よりもソウルの方が向いているんだけど、あいつは今ここにはいない。


 俺ができるのは精々が読みあいの真似事にしか過ぎない。


「では、次の質問です。あなたは何をしようとしているのです?」

「なにも」

「なにも?」

「そう、なにも。強いて言うなら観光です。目的もやらなければならないことも特にない」


 今は、特になにもすることはない。帰ったら……予定通りに事が進めば多分俺は死ぬだろうけど。


 こんなことをしていられるのは今だけだ。もう少ししたら地獄へと行かなきゃならない。


「それと、羽が生えているなどとお聞きしましたが」

「生えてますよ。隠してるけど」

「なぜ?」

「扉に引っ掛かるし、なにかと不便だから」


 髭面のおっさんが目を細めた。覚えがある、疑りの視線。


 小さい頃になんども向けられたそれは、馴染み深くも悲しくもある。会ったばかりの人を信じられないのは当然だ。だが、全て頭ごなしに否定するのは間違っていると思う。


 そう思うから、そういう反応されると意外と傷付く。


「では、なぜ人工衛星が降ってきたのか。それはご存知ですか?」

「知りませんね。っていうかあれ人工衛星なんですか。妙に流線的な形だったから隕石かと思いましたよ」

「……そうですか」


 暫く、また沈黙。俺もだがこの人も何か隠している。


 もしかして俺のような人間以外の人の存在を知っているのではないか?


 あまりにも俺に対する反応が薄すぎる。


 これは隠しているというより、本気で興味がないだけなのか?


「こっちからも質問いいですか?」

「どうぞ」

「知ってますよね? こっち(・・・)の住民のこと」

「さぁ、なんのことでしょうな」


 明らかに目が動いた。瞬きの回数も増えたし、右手を強く握りしめている。


 この人、アドリブに弱いタイプか。


「そうですか。じゃあこっちもなにも話すことはありません」

「……そうですね、ええ」


 また来ます、と言って全員引き連れて部屋を出ていった。


 少し手持ち無沙汰になったので血のパックを持って中身をストローで吸う。こうした方が早いことに今気がついた。


「ツキ」

「ん?」

「さっきの人、ツキみたいな人のこと知ってたってこと?」

「どうだろうね。俺はこっちの人じゃないからな」


 でも十中八九、人ならざる者の存在は知っている。


 知っている人が俺にどう対処するのかちょっと気になるかな。特殊な鬼族のデータを欲しがるのか、なにか取引を申し込んでくるのか、それとも不干渉を貫くのか。


「面白くなってきたじゃん」


 人工血液はどのパックも同じ味でひたすら不味かった。

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