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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百九十日目 今日は厄日かもしれない

 二百円を入り口にある運賃箱に入れる。ここから先は商業施設というわけでもないから普通にバス乗るのにも金がかかるらしい。


 この車も、浮いている。


「友里さん。なんで浮かせる必要あるの?」

「え? どういうこと?」

「タイヤじゃダメなのか?」

「あー、そういうことか」


 友里さんからすればタイヤで走る車というのは博物館とかでしかお目にかかれない旧時代のものらしい。


 俺の生きていた時代は旧時代なのか。


「だってすり減るし、雪とかだと滑っちゃうじゃない」

「あ、そういうことか」


 なぜか俺もさっきの友里さんと同じ台詞で返してしまった。


「なるほど。じゃあ俺も魔法で荷台とか浮かせる技術考えてみようかな」


 道が整備されてないから馬車で通れない道だって結構あるし、整備されている道でも乗り心地が向上しそうだ。


「王族に売り付ければ金になるかもな」

「ツキって時々凄いこと言うよね……王族とか」

「これでも世界一稼いでるからな」


 主に国同士の取引でガッポリと。


 金はあるだけあって困ることはない。それに俺も情報屋だ。売るだけじゃなく、買うこともある。


「それに、俺たちの業界じゃたった一言に数百万単位で値がつく場合もある。形を売らず信用で商売しているから額は特に大事なのさ。金はどれだけあっても足りないことだってある」


 はぁ、と友里さんがため息をついた。


「なんか、真面目に働いているのにギリギリの私たちとは大分違うね」

「俺が遊んでるみたいな言い方やめてくれ。ちゃんと仕事してる。傭兵業もやってるし、同盟以外の国との戦争になれば俺は同盟軍の指示役になる」


 友里さんが目をぱちくりさせる。


 なにに驚いているんだ?


「軍人さんだったの?」

「有事の際のみな。俺の情報網は大陸全土に広がっている。そこから色々考えて作戦組むんだよ」


 あんまりやりたくないんだけどな。戦争。


 ただ、人間大陸は五大国だけじゃない。小国もたくさんあるし、今休戦してはいるが獣人国だっていつ攻めてくるかわからない。


 魔族とはとりあえず今の魔王様の治世なら大丈夫だとは思うが、下手な小競り合いが大きな問題に発展しかねない。国家問題になる事案はどこにでも転がっているのが現状だ。


「まぁ、本来俺はどの国にも属さない筈なんだけどな」

「なんで?」

「元人間とはいえ今は鬼族だ。鬼って数が少なすぎるのに無駄に戦闘種族というか、かなり種としては強いからな。どの国にも入りたがらないが絶対数が少なすぎて小国も作れない」


 つまり鬼族ってのはやけに強いが領土はない。


 エルフほどではないが長命なやつが多いしな。


「旅人みたいなかんじ?」

「そんなかんじかな」


 実は集落はあるにはあるんだが……ちょっと排他的すぎて俺も行ったことがない。


 鬼はいても吸血鬼はもういないだろうしね。


 ふと視線を窓の外に移すと青色が目に飛び込んできた。


「海、なのか?」

「なんで疑問系なの」

「いや、ここ数年あっちの海しか見てないから」


 こんなに穏やかな海はそう見られない。


「ヒトクイがいない海とか滅多にないしな」

「なのその物騒な名前」

「そのまんま、人を好んで喰らう魚だ。丸飲みされてしまうから脱け出すのって結構難しいんだよ」

「日本生まれ日本育ちで良かったよ……」


 ヒトクイは海にいるんだが、基本ウジャウジャいる。ウジャウジャと。


 群れで生活するから余計に目立つ。だから子供を海で遊ばせてはならないという暗黙の了解がある。


 大人でも引きずり込まれるからな。


 俺も一回食われた。勿論腹裂いて出てきたけど、マジでビビった。


「あ、でも意外と美味しいんだ。身がしまってて」

「あんまり食べたくないかも……」


 友里さんがげんなりした表情になった瞬間、突然氷水をぶっかけられた時みたいな悪寒が全身を襲う。


 普段から発動させているスキル『超直感』が何かに反応した印だ。だが、いつもの比じゃない。


 反射的にアニマル達の映像を確認し、違和感の原因を探した。


 バス、今渡っている橋、海。周辺のあらゆる場所を撮影した物が目に届いている。


 鳥形ゴーレム10番の神無月(警察犬に襲われてたやつ)は返してもらって鞄のなかなのでリンクは当然切れている。


 だからいつもよりひとつ視線は減っているが、十分すぎるほど回りを見れているはず。


「特にない……?」


 おかしい。何もないのにスキルが発動するわけないし、百歩譲って誤作動だとしても悪寒が途切れないのはありえない。


 バスの窓は安全のために基本開かないようにできている。中からは何が起きているか確認しづらい。


「友里さん、なにか変なことはないか?」

「変って?」

「さっきから悪寒が止まらない」

「風邪?」

「そうじゃなくて……嫌な予感のやばいバージョンとでも言えばいいのか?」


 そう考えると変な高性能レーダーみたいだな、俺。


「さぁ?」

「そうか……」


 友里さんは特になにもないらしいが―――


 海の方を見たら、空の真中になにかがうっすらとみえる。


 アニマルの目線を不必要だと思うものは消してゴーグルを取り出してズームしてみる。


「ツキ? なにやってるの?」

「不味い」

「え?」

「運転手さん‼ もっとスピード出せないか⁉」


 叫ぶと、鏡に映った運転手の表情が呆れたものを見る目になっている。


 これは、自分勝手にスピードあげさせようとしているバカな客だと思われてるぞ。


「ツキ、法定速度ってものがあるんだから」

「隕石が降ってくるんだよ‼」

「は?」

「二時から三時の方角、速度からして10秒もかからずにここに直撃する‼」


 俺を落ち着かせようとしている友里さんの表情も固まって空を見る。


「………? なにもないじゃない」

「目が悪すぎるだろ人間がっ!」


 そりゃ人間には見えんわな! かなり遠いし!


「っ、これだから平和ボケしたやつらは面倒なんだよ‼」


 札を張って即座にバスの内部に防護の陣を展開する。


 アニマル達には即座に爆風が来ない位置まで散開させている。


「水の札、二十三ノ型、防水壁」


 展開させた直後、友里さんが血相変えてこっちを見た。


「なんか飛んでくる!」

「そういってるだろ! 全員さっさと伏せろバカッ!」


 隕石はほんの少し進路をずらしたが、少しかすった。俺は陣の維持に全力を尽くす。


 だが俺が守れるのは車内だけだ。バスの外側は抉られ大きく車体が揺れて斜めになっていく。転倒する、それは守りきる自信があるからいいのだが。


「おいおい……」


 そっちは、海なんだが。


 落下したら溺死までは面倒見切れないぞ。


 ……最悪の場合は友里さん担いで逃げようと決めた。

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