十九日目 今日で17
ーーーーーーーーーー《ヒメノサイド》
待ち合わせ場所に行く前に下見はしておけ。
上司でもありゲーム仲間でもあるルートベルクさんにいわれたから携帯片手に色々見てきた。けど、
「僕が迷った………」
下見で迷うとかどうなの。いや、下見だからいいんだけど。
ギルマスの前だとしないはずの緊張が一人になると高まってしまう。携帯のGPSは全く機能してくれなくて、今僕は北海道にいることになってる。いや、ここ本州だから。
しかも変な道を通っちゃって誰もいない。路地裏ってことならわかる。そんな感じ。
「どうしよう………」
約束時間にはまだ余裕があるけど、帰れない気がする。
前に進んでも戻っても辿り着けない気がしてきた。こんなときギルマスなら屋根の上に上るんだろうけど。あ、勿論ゲームの話だよ? リアルに屋根のぼってたら危ないしね。
でも進むしかない。
三十分さ迷ってやっと大通りに出られた。なんか塀とかよじ登ったりしたからジーンズが破けて穴が開いた。ついでに擦りむいた。痛い。
けど、ようやくわかる道に出れた。時間はギリギリ、走れば間に合うかな。
走ったらギリギリだった。ギルマスはマフラーに顔を埋めて小さく丸まっている。可愛い。
ばれない範囲で写真を撮りまくったあと、ギルマスの所へ行くと、ギルマスが怪訝な顔をしている。遅かったかな。
「ギルマス、お待たせしました」
「いや、それはいいんだけど………どうした?」
明らかに、さっきの穴を見ている。
「え、こういう柄なんですよ」
これでどうだっ!
「擦りむいて血が出てるのもお洒落?」
「う………」
的確に怪我をしているところを突いてきた。
すると突然待ってろって言って駅の中へ入っていった。数十秒したら濡らしたティッシュを持ってきた。
洗い流せないからとりあえず拭くぞ、っていって怪我をしているところを優しく撫でるように拭いてくれた。冷たかったけど、顔は熱かった。
ギルマスの手は今濡らしてきたから冷えきって赤くなっていた。
絆創膏を貼ってすぐ、僕を立たせ、
「新しいの買いにいくぞ」
って携帯で周辺のお店を調べ始めた。すると、
「お兄さん、ちょっとお話ししない?」
「えー? 私としようよ、奢るから」
女性が集まってきて身動きがとれなくなった。こういうの苦手なんだよ、僕………いい思い出ないし。
ギルマスは一瞬こっちを見て見えてないふりをした。酷い。けど、確かに今ギルマスが来ても解決にはならないだろうな。
寧ろ煽りそう。
なんとか帰ってもらってギルマスの所へ行ったけど、
「また………」
寄ってきた。ギルマス。助けて…………はくれないみたい。寧ろ置いてかれそう。僕のジーンズ買いに行くのに………。
撒いてからギルマスの所へ。けど、まだ視線を感じる。
と思ったら一気に減った。掌に冷たい感覚。
冷えきった手が触れているはずなのに、全身が沸騰したように熱くなる。ただ、手を繋いでるだけなのに。
たぶんギルマスは僕のために手を繋いだとかそういう感覚はないだろう。僕が囲まれて足を遅くするからとかそんな感じなんだろう。
それで反応してしまうくらいに僕は恋愛には疎いんだ。
店の前で手が離れた。その瞬間、座り込んでしまった。
「もうこの手、洗えない………………!」
ひとまず落ち着こう。深呼吸だ。
「ふぅ、すぅ、ふぅ」
「なにやってんだ」
ギルマスに見られた。……………恥ずかしい。穴があったら埋まりたい。ギルマスに埋めてほしい。
真新しいジーンズを履いてギルマスに行きたい場所があるかと聞いたら、
「プリン食べたい」
か、可愛いいいいぃぃぃぃ!
ゲームのなかでも無意識になのか、わざとなのか判らないけどギルマスは極度の甘党で知られている。
砂糖そのままいけるんじゃないかって思うくらいにくどすぎるような甘さのお菓子を大量に食べる。
ルートベルクさんにL○NEしておこう。
【ギルマス可愛いです】
と。これでよし。
「おい、おいヒメノ」
「は、はい⁉」
「プリン三種類あるらしいけどどれにする?」
「なにがあるんですか」
「普通のとチョコと苺」
「ギルマスは?」
「チョコ」
じゃあ僕もそれで。そう言ったあとに他のやつ頼んでギルマスと一口交換とかそういう口実を作れば良かったと後悔した。
ギルマスってそういえば何歳だっけ? と思って聞いた。この前高校2年って言ってたけど16歳って言ってた気がする。
「今日って何日?」
今日は17日です。ちゃんとカレンダーにマークして毎日見返してるから。
「今日で17だ」
え? 今日は17じゃなくて今日で17?
問い詰めていくと今日が誕生日だったことが判明。しかもギルマスは誕生日を祝うという概念があまりないらしくしかも欲しいものはなにもないという。
高校生としてあるまじき思考回路だ。
まさかのnot物欲yesゲームまっしぐらだったとは。
これはいただけない。恋人として(OKもらってないけど)こんな大切な記念日をボーッと過ごす訳にはいかない。
ギルマスは渋々だったけど何となく嬉しそうだった。祝われて嬉しくない人なんて早々いないし、祝い事が大好きなギルマスが嫌がる筈がない。
色々回っているうちに見つけた雑貨屋で、とうとうこれだと思えるものを発見した。
ギルマスはなにも持ってないから被りようがないし。
「ギルマスはこれが似合うと思うんですよ」
僕がギルマスに見せたのは淡いパステルカラーのバレッタ。つけるとリボンが髪に巻き付くようなデザインになっている。
「いや、無いだろ」
流石はギルマス。こういう意見はバッサリと切り捨てる。
でもギルマスの可愛い顔に装飾品の1つもないのがちょっと。化粧もしていないみたいだし(ギルマスが化粧してたら驚くけど)最低限の物しか持ち歩いていないみたいだ。
ちょっとくらいお洒落してもいいだろう。
ギルマスに差し出すと、少し目をそらして、
「…………付け方わからない」
ぼそっと言った。恥ずかしがっているその顔を見れなくて反射的に後ろを向いた。………鼻血でてないよね?
ギルマスが可愛い。可愛すぎる。今すぐ抱き締めたい。出きることならキスとかもしたい。ギルマス強引な人嫌いだからやらないけど。
「あっち向いてください」
なんとか表情を取り繕ったら声が低くなった。あ、これバレてるかも。
ギルマスに僕の顔みえないように後ろに回って髪留めをつける。うん。思った通り可愛い。いや、なくても可愛いけど、あるとやっぱりそれが引き立つ。
なんだかんだ言いくるめて僕がお金を払った。ギルマスは渋々って感じを貫いてはいたけど、やっぱり嬉しそうだった。




