百八十八日目 見える人
小鳥ゴーレムは全部で12機。その中でも戦闘用のものがNo.1~3、長距離索敵用がNo.4と5。伝達用がNo.6、その他は情報収集用だ。10、11、12の3機は簡単な術式を仕込んであるから下級下位の悪魔くらいとなら戦えるくらいの戦闘力はある。
だから突然リンクが切れるというのは、ちょっとおかしい。
仮にも戦闘可能な構造だ。そう易々と壊れる作りにはしていない。
そりゃ流石に撃たれたりすればリンク切れるけどさ。
「まさか警察犬に食われてるとは……」
いや、ゴーレムは金属だから食われてるって表現おかしいかもしれないけど。
何故かはわからないが、ゴーレムは警察犬に襲われて今現在警察官らしき人がそれを拾い上げている。
リンクが切れたのは3機。小鳥ゴーレムと蜘蛛ゴーレムだ。蜘蛛の方は、踏んづけてプチッとなったら終わりなので誰かに踏まれたのだろうかと思うだけで特に何かしようとも思わない。
……薄情かもしれないけど、虫系のものってすぐ壊れちゃうからな……米粒並みに小さいし。
でも、小動物系は話が別だ。組み込んである術式や魔力は、かなり相当、滅茶苦茶高等な魔法理論が使ってある。
それを表すのに語彙がかなり減るくらいには、ヤバイ。
暗号化してあるから普通の人間には読めないだろうけど、あれに使ってあることって各国の禁書漁って手に入れた知識がほとんどだ。
王族と仲良くなると国の禁書庫に入り放題だからな。職権乱用とか言うなよ。
多分この世界の人が見ても欠片も理解できないとは思うけど、未知のエネルギーと理論で動く謎生命体(機械)だ。これ以上、この世界の常識を歪めるつもりはない。
……返してもらえないかなぁ、なんとかして。
「おい、君。なにやってるんだそんなところで」
「え? あ、あはは……いや、その、あの、あれ俺のなんですけど……」
背後から別の警察官登場。正直、今見つかるとは微塵も思っていなかった。
軽くだけど隠蔽魔法だってかけてる。気配なんてほぼ完全に消せてたはずだ。
「っていうか、あの、もしかして霊感とかある人です?」
「は? ……ああ、まぁ、無いか有るかと言われたらある方だ」
そういうことか……。霊感ある人って『見えないものを見る力』を持ってるわけじゃなくて『視にくいものを見る力』が備わっている。
だから霊感がない人にも本来『見えないもの』なんてものはない。誰だってちゃんと見えているが、視界の端にある小石が何色かなんて確り見る人は殆どいないように『視にくい』ものは頭の中から除外する。
霊感がない人は『細かいところには特に注目しない』人というわけだ。少なくとも俺の魔法理論ではそうなっている。
……つまりだな、俺は今道端の小石なわけだ。青色の未来道具出す猫型ロボットのなんとか帽子と同じ。
気に止められなくなるというより、気に止まらない魔法。そもそも俺を発見できなくさせる。
極限まで『視にくい』存在でしかない今の俺。霊の真似事で、霊感ある人を騙せるわけないですよね……
「で、なんなんだお前」
「いや……なんて説明すりゃいいんだ……」
明らかに今の俺超怪しい。
事件現場付近で物陰から警察官と警察犬を凝視。
……うん。俺も見かけたら通報するかもしれない。
もっと慎重に行動すりゃ良かった……
「とりあえず、身分証明書だして」
「み、ぶん、しょうめいしょ」
ハッ、あるわけがないっ!
マジでどうしよう。魔法で記憶改竄して逃げ出すのが一番いいが、今ちょっと別の事に魔力回してるから記憶書き換えなんて大技失敗する確率の方が高い。
「今持ってないんですが……」
「んー? ああ、よく見たら君目青いね。外国人? にしては日本人顔だし、ハーフ?」
「は、はは……」
不味い。この人俺の撹乱魔法に慣れてきやがった……!
もう、こうなったら一か八か魔法で記憶改竄を―――
「ツキ!」
「なんで来ちゃったの友里さん⁉」
逃げ出せないじゃん⁉
記憶書き換えの後最高速度で退散する予定だったのに⁉
「ああ、お連れさんですか」
しかもしっかり認識されたー‼
もう無理だ。俺一人の記憶改竄ならまだしも二人の人間の記憶を弄るのは至難の技だ。これでこの人の頭を弄るのは無理になったな……。
「えっと、どういう状況?」
『主人、どうしたらいい?』
二人同時に質問しないでくれ。どうしようか考えてるんだから。
「っ、君今すぐその、お祓いとか行った方がいいんじゃないかな?」
「「は?」」
友里さんに向かってこの警官、お祓いに行ったら? とか言った。
つまりこの人、俺でも見るのに苦労する銀雪が見えてんのか?
「なんか、白いモヤモヤっとしたものが、見えるんだが……」
「そんなにハッキリとは見えてないけど見えてはいるわけか……」
俺も白いモヤモヤに見えるが、一応人っぽい輪郭は見える。見える範囲で言ったら俺の方が見えているだろう。
だが、俺は今節制のスキルで身体能力が格段に落ちる代わりに視力や嗅覚なんかの感覚器官が引き揚げられている。
その俺でさえそこまで大差ない視え方をしているんだから、この人相当見えている。
『ただの人間だな、お前?』
「しゃ、喋った⁉」
「声まで聞こえんのかよ⁉」
いや、それならさっき俺に話しかけてきたときに気づいてる筈だ。今聞こえてるってことは多分『銀雪に話しかけられた』からだろう。
誰かの会話を盗み聞きしているのと、本人と会話してるのでは声の聞こえかたが違うのと一緒だ。
……でもこれでハッキリした。この人を欺いてここから脱出するの、それこそ至難の技かもしれない。




