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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百八十七日目 俺に出来ないことなんて早々ない

 で、人質の捕まっているところは結構大事になっているらしく野次馬がそれなりにいた。


 邪魔だ。とても邪魔。


「友里さん、どうする? ここまで来たけど」

「なんとかできない?」

「俺に丸投げかよ」

「適材適所よ適材適所」


 助けたいと息巻いたもののノープラン。なんか見覚えがある……ああ。


「姉ちゃんに似てんのか……」


 正直言って姉ちゃんは馬鹿だ。顔がいいから許されているだけで、普通なら社会人失格並のミスを連発する。


 なにも考えず突っ込むのでたちが悪い。そのうえ面倒ごとは他人任せという。友里さんも行動が若干そんな感じだ。


 だから放っておけないのかもしれないけど。


「え?」

「いや、なんでもない。んじゃまぁ友里さんの依頼は中の人質救出でいいんだな?」

「うん。できる?」

「自分で言うのもなんだが俺に出来ないことなんて早々ない」


 ゴーレム達に指示を出し、周辺の警戒に当たらせるものと侵入させるものを分けて行動させる。


 侵入は殆どが虫系のゴーレムだが、サイズからしてどうしても足が遅いので普段はそれほど大量に周囲に放っていない。


 鞄の中を漁る振りをして右手から収納を開いて虫系ゴーレムの入っているポーチを取り出す。


「それなに?」

「多分友里さん気持ち悪くなるから見ない方がいいよ」

「なにが入ってるの」


 わさわさと羽虫が大量に入っております。


 周囲には思ったより人がいる。突然大量の虫を空中に放ったら大騒ぎになるだろうから少しずつ。


 ちなみにこのゴーレム達は小さすぎて自家発電ができない。小鳥くらいの大きさだとある程度は太陽光を魔力に変換させれるんだけど虫となると小さすぎて術式が組めない。


 だから虫タイプは基本俺が直接魔力を充填している。要するに制限時間がかなり短い。一時間もすれば魔力切れになってしまうから使うのは注意が必要だ。


「なるべく早く済ませる」


 野次馬に紛れつつ目を瞑り、ゴーレム達の目線に目を合わせる。


「……視界がブレる……安定しないな……まだ、慣れない」


 苦手なんだよ、多重視界同調……


 頭に地図が浮かび上がってくる。正確には、建物内に入り込んだ虫たちが届けてきた情報から無意識に地図を作っている。


 こういうマッピングは苦手なんだよ……昔からなんか時間かかって仕方ないからってゲームでもこういう仕事は任されなかった。


 ……ギルマスが雑用苦手だとたまに困ることがあったから基本そういう仕事はソウルに任せっきりだったけど。


 だからギルマスとして働くことは意外と少なかった。本当に名前だけだった。


「ちょ、ちょっと⁉ 大丈夫⁉」

「え、なにが」

「鼻血! 鼻血凄いよ⁉」


 鼻血? 鼻に手をやったらベットリと血が付いていた。……しまった。頭使いすぎた。


「ごめん、ちょっと気を抜いた」

「気を抜くと鼻血でるの?」

「正確に言うと、頭の使いすぎでな……」


 やってしまった。周囲の視線がこっちに集まっている。


 突然鼻血ボタボタ垂らしてるやついたらそりゃ見るわな。


 ティッシュで血を拭う。結構な出血量。……勿体無い。いや流石に自分の血を自分で飲むつもりはないんだけど。


 自分の血を飲めないことはないんだけど……妙に恥ずかしく感じる行為。吸血鬼の中で、自分の血を自分で飲む行為は恥ずべきこととなっている。


 なんというべきか……誰もいない場所でノリッノリに鼻唄歌いながらダンスしてたら誰かが最初っから見てた、みたいな恥ずかしさだ。


「で、どうなの?」

「逃がすのはできる。なんなら今すぐここからでも」

「じゃあやって」

「即答だな……まぁいいや、やるぞ」


 一斉にゴーレム達に指示を出す。


 その瞬間、全ての窓ガラスが内側から割れて外に散らばる。音に驚いて周囲の鳥が空に飛んでいった。


「なにしたの⁉」

「ガラス割った。誰も怪我してないから安心しろ。ただの誘導だ」


 誰だってけたたましい音がしたらそっちに目が行く。外に一番近い窓際でなにかが壊れた音がしたら普通はそこに誰かは向かうだろう。


 そしてそれは非常口の逆方向だ。


 ゴーレム達が魔法で扉を開閉する。脱出できる道を最短で通す扉。簡単な空間接続魔法くらいならゴーレムも使用できる。


 ゴーレムを通して人質に呼掛け、外に出てもらえるように誘導する。向こうからすればあり得ない位置に外が出現し、姿の見えない誰かが話しかけてくるという奇妙な行動に戸惑っただろう。


 それでも恐怖が勝ったのか、直ぐに外に飛び出してくれて警察が保護している。


「凄いね、ツキって……」

「だから言ったろ。俺に出来ないことなんて早々ないんだって」


 続々と出てきた人達は、混乱しつつも皆無事だ。家族を二ヶ所に分けられて拘束されていたので二ヶ所同時に魔法を繋げる必要があり、こっちは酷く疲れたけどな。


「あ……怠い……喉渇いた……」


 犯人逮捕は俺の仕事じゃない。警察に任せるとしよう。


 けどやっぱりタダ働きは嫌だったので血をほんの少しずつ犯人からもらってきた。それ専用の……蚊型アニマルゴーレムだからな、本来。


 偵察用じゃなく、食事集め用のゴーレムだ。


 だからあんまり便利とは言いがたい使い心地だったけどね……。


 苦笑しつつ、ゴーレムが帰ってくるのを待つと、突然3機のリンクが切れた。


「っ⁉」


 1機は外で待機させていた小鳥アニマルゴーレム、No.10の神無月。後の2機は蜘蛛型ゴーレムNo.37と41。


「カンナっ⁉ なにが……!」


 強制停止状態になっている。オーナーの呼び掛けにも応じないとなると、誰かに電源切られた可能性が高い。


 だが、魔法生物に近いゴーレムの機能停止方法なんてこの世界の人が知っている筈はない。


「銀雪、いるだろ」

『居る』

「友里さんを死守しろ。以上」

『承知した』


 とりあえず、状況を確認しないことには始まらない。神無月の体も回収する必要がある。この世界には異物でしかないからな。


「頼む友里さん、ちょっと待っててくれ」


 上着のフードを被って目的地に向かった。

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