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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百八十六日目 やっぱりなにかある

 友里さんの手を引いて監視の目が途切れるところまで進んだ。無料で使えるバス停の近くだったのでそれに乗り込む。


「ちょっと、ツキ?」


 バス内に入ったとたん監視が途切れたのがわかる。このバスには何も仕掛けられてなさそうだし、自動運転だから運転士もいない。


 時間帯の問題か、今は俺たち以外の客が居なかった。


「友里さん、見られてる。今さっきやっと気付いたんだけど」

「はっ⁉ 嘘でしょ⁉」


 多分ないだろうけど盗聴機とかあっても不思議じゃない。俺は口に人差し指を当てて静かに、とジェスチャーをする。


「盗聴機とかあるかもしれないからあまり声は荒らげない方が良い。それよりどうする?」

「どう、って。そりゃもう帰ろうよ」

「ああ。俺もそうしたい。けど」


 連中、そこまで甘いとも思えない。


「俺が確認したのは3人だ。俺達を見張るのより周囲に溶け込むことを優先していたから今こうやって撒けているわけだが」


 わざわざカフェテラスで優雅にお茶してたからな。俺たちがあそこを通ったのは偶然だし、待ち伏せされていたとは考えにくい。


 もしそうなら何らかのアクションはしてくるだろうし、カフェの二階の席で待ち伏せとかちょっと合理性に欠ける。ターゲット見つけても距離があるから襲いかかれないし、なにより飲み物を頼むとか愚策だ。


 中途半端に残すならまだしもいつ来るかわからないターゲットを待って飲み物注文して数秒でターゲット現れたとかなったら手をつけていない飲み物を放置することになる。


 わざわざ金払って頼んだものをほぼ全部残すとかちょっと目立ちすぎるだろう。なにをするにも店員に顔とか覚えられてそうで動きづらいだろうし。


 もしこの辺で事件を起こしたりした時に「なんか飲み物ほとんど飲まずに帰っちゃった変な人がいたんですよ」みたいな証言でもされたら通行人Aとして紛れるのは難しくなる。


「でも、友里さんがここに来るって決めたのって今日の朝だろ?」

「そうだけど、それがどうしたの?」

「情報が完全に漏れてる。キリカが流す筈はない……っていうかそもそもこの世界に疎すぎて流すことはできないだろうし、友里さんも広大さんもない。勿論俺もそんなことしたってメリットないし、どんだけ金積まれても断る。一体どこから……?」


 家周辺は怪しい人がいないかゴーレムたちに警戒してもらっているが、目立たないように動けと指示しているので見落としている可能性も十分ある。


 そこまでしっかり見なくていいから周回範囲を広げろと指示したが間違っていたかもな……。俺はちょっと自意識過剰すぎたかもしれない。


 俺とキリカがいれば大丈夫、なんて保証はどこにもないのに。


「まぁ、今ここで悩んでいてもしかたない。とりあえず逃げれるようなら逃げようか」

「逃げれるようなら、ってどういう意味」

「そのまんまだけど? さらっと逃がしてくれるほど連中優しくないだろうし」


 逃がしてくれるかはわからない。それに不安なのは時間帯と場所だ。


 人が少ないとはいえ夜中でもないし、町中で戦闘とか危険すぎる。なにがどうなってしまうかは正直わからん。流弾が当たったりしたら不味い。


「なんか魔法でできないの?」

「そんな万能な魔法はない。それ以前に俺は今色々あってでかい魔法を使えない。精々が重力を軽く操作できるくらいだ」

「すごすぎて寧ろよくわかんない」


 魔法構築に余裕が出来れば、一時的に過去を書き換えるとか転移とか存在を限りなく希薄にするとかいくらでもやりようはあるんだけど。


 今の俺だと物を浮かせて運ぶとか、簡単な通信とかしか出来ない。中級魔法でさえ手こずるレベルだ。


 初級魔法とボロボロの体でなんとかなる相手だといいんだけど。


「……友里さん」

「なに」

「すごい申し上げにくいんですけど」

「だからなに」

「全く関係ないところで全く関係ない人たちが無駄に規模のデカい強盗してるんだけど、これ今の日本では普通なの?」

「普通なわけないでしょ⁉ っていうかそれどういう状況⁉」


 嫌な予感がしてアニマルたちに警戒範囲を広げてもらったら、変なのが見つかった。


 よくよく見てみると子供が親と引き離されてどこかに連れていかれてる。しかも何人も。子供だけじゃなく大人も居るみたいだけど。


 どう見ても、人質を分けてる行動なんだよなぁ……。


「人質が勝手に逃げないように家族を分けてどこかに連れていっている。なにか通信機で話してるっぽいけど、距離がありすぎて聞こえないな……」


 言葉で説明するの面倒になってきたな……あ、直接見せればいいか。


「失礼」

「?」


 友里さんの額に手をやって魔法をかける。俺の視覚を一時的に共有化するものだ。


「え、なにこれ、景色重なって気持ち悪っ……」

「そんな酔う? でもまぁ確かに」


 常にかなりな数のアニマルと視界共有しているから俺はもうなれたけど、最初は目の前に見えているもの以外のものが見えるのが気持ち悪かった。


 視界が結構動くから余計に。


「……ツキ」

「ん?」

「行こう」

「言うと思った……」


 まぁ、俺もそういうとわかってて話したんだけどね。


「でも友里さん、この案件確実に俺達に関係ないけどそれでも行くの? 狙われてるって自覚ない?」

「それぐらいあるけど……でも困ってる人を助けるのは当然じゃないの?」

「……お人好し」

「それはツキもでしょ。お人好しじゃなきゃ私に伝えずに逃げてたでしょ」


 そうだけどさ。


 首を突っ込むのを本当にやめてほしいと思っているのならこの話は教えなければ問題なかった。


 後々確実に友里さんに「何で報告しなかった」と怒られるだろうけど、俺が今一番優先すべきは友里さんの護衛だ。そっちを本来優先しなければならない。


 俺が助けられる命にも限りがある。


 だが、友里さんは恐ろしいくらい純粋だ。隠してたことが全部知られたとき、友里さんが自分を責めるだろう。


 ……最悪の場合は、友里さん連れて逃げる。人質見捨てても、だ。


 まだなんとかなりそうだから教えてしまったのもある。


「全く……俺もバカだな」


 バスは駐車場のある停留所を通りすぎて、食品を扱う店の並ぶエリアへと向かっていた。今、なにかが起こっている場所。

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