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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百八十五日目 見られてる

 紙袋が大量すぎて邪魔なので一纏めにする……ふりをして右手に収納した。だって結構場所とるし。


「次、あそこ」

「ああ、そう……」


 ぐんぐん店に入っていく友里さんの後ろをただボケッとついていく。キリカはこんな面倒な時間を過ごしてくれてたのか……凄いな。俺まだ2時間しかたってないけどそろそろ疲れたよ。


「はい。これと、これとこれ」

「えっ? なにが?」

「なにって、ツキの服」


 ……? 俺の、服?


「俺の選んでたの⁉」

「今更⁉」


 どうやら自分の服を平行して探しつつ俺のも調達していたらしい。器用だな。俺絶対無理だわ。


「まぁいいや。ほらこれ着て」

「え、ちょ、突然⁉」


 新しい服と共にフィッティングルームに押し込められた。


 着替えなきゃいけない感じなので帽子を取って着替えを始める。カーテンの前に友里さんが居るのが気配でわかるから素直に目の届かない場所で着替えられる。


 実はずっと友里さんの姿か気配を感じ取れる位置以外には移動していない。何かあったときに制限された身体能力でも助けられる距離を保っている。


 何故なら、多分俺はこの世界の疫病神みたいなもんだからだ。


 ちょっとあり得ない事が俺の回りで頻発しすぎだろうと流石に思って調べてみたら、どうやら俺たちがここに飛んだ際に色々狂わせてしまったらしく。


 なんていうか……いつか(・・・)起きる筈の事が()起きてしまうという事態に陥っていた。


 人間の感覚ってのは意外と鈍感だ。嗅覚、視覚、触覚。その他諸々の感覚器官は他の動物と比べそれほど鋭くない。


 大した身体能力もなく、五感も鈍く、数だけは多い。


 自然界で言えば最弱だろう。猛獣の餌でしかない。


 それを何とかしているのが経験と知識だ。両方はイコールで繋がることはないが、限りなく近い。


 経験を元に知識が、知識を元に経験が積まれ、そして更に知識として自分以外の誰かに受け継がれる。


 新しい料理が生み出され、レシピとして他の誰かが受け継ぐのと同じだ。人間の強さは受け継げる強さ。自分がダメでもいつか誰かがなんとかできるかもしれないという強さだ。


 そしてそれは人間に面白い能力を備えることになる。


 ……勘、というやつだ。


 なんかあっちの道は行かない方が良い気がする、と無意識に考えてわざわざ別の道を選ぶ。すると元々行くつもりだった道で事故が起きた、なんてことがある。


 勿論そんなことは起きる方が珍しいが。


 人間はそんな曖昧な()に頼る。それを俺がこっちの世界に来たときにちょっと刺激してしまったらしい。


 この世界に来たのは偶然だが、かなり無理矢理通ってきてしまった為に異物(俺とキリカ)を排除しようと世界が動き始めている。


 その結果がこれまでの襲われた経緯。やつらの狙いは基本浅間さん二人だが無意識に俺たちを排除しようと動いている。


 だから本当は俺は友里さんの近くにいない方が良いのかもしれないけど、今はちょっと危険すぎる。俺が居ようが居まいが多分なにかしらあると思う。


 ……そうなるまで俺が刺激してしまったんだろうけど。


「ツキ? 着替えた?」

「あー、うん」


 ちょっとボーッとしていた。慌てて上着に袖を通してカーテンを開ける。


「いいんじゃない?」

「そう?」

「少なくともさっきよりは」


 フード付きの上着に肌触りの良いTシャツ、下はジーンズとスッキリしてシンプルなものだ。靴もスニーカーにした。


 包帯を巻けば魔法をかけるのは上手くいきやすい。なにか媒体があるのと直に認識阻害系の魔法をかけるのは結構仕上がりに差が出る。


 ……だから左足は包帯ぐるっぐるに巻いてあるけどね。パッと見ただけでは足がおかしいことは全く気づけない筈だ。


 そういうのを看破する魔法でも使われない限りバレないだろう。


「えと、ありがとう」

「いいよ、元々ツキのお金だしね。それじゃあなにか食べに行こうよ」


 バスで移動し、食事が楽しめるエリアに来た。


 昼時は過ぎているとはいえ、それなりに人がいる。とはいっても俺の住んでた日本とは人口密度が違いすぎるけど。


 多分あっちだともっと人がいたと思う。こっちは予想の半分くらいだろうか。


 アイスクリームを売っている店を見つけ、友里さんは三段の、俺は一番サイズの小さい一段のものを頼んだ。


 ケチっている訳ではなく、俺の胃袋の問題なんだが友里さんはあんまりそうは思わなかったらしい。


「アイス苦手だった?」

「いや、好きだよ? ただ、俺は種族柄あんまり消化器官が強くないからこれくらいで止めなきゃいけないんだ」


 エルヴィンみたいな純粋な吸血鬼だと全然問題ないんだけど俺はどうしても無駄が出てしまうらしく血がなければ生きていけないし、他種族と同じ生活の仕方が出来ない。


 ヒト成りの半端者は紛れるのが難しい。


「大変だね」

「確かにな。でも不便と思っても本当に嫌だと思ったことはないよ。俺は俺だし、それ以外の誰かでもない。人間じゃなくてもいいんだ」

「……そう」


 友里さんは若干不思議そうにこっちを見たけど、それ以上はなにも言ってこなかった。









 アイスを食べてぶらぶらしていると視界のひとつが大きくブレた。


「っ⁉」


 これは鳥形アニマルゴーレム、No.3の弥生だ。視界を大きく横にずらすのは敵対反応を見つけたときの合図。


 ゴーレムがなにか敵性反応をキャッチしたらしい。


 それがなんなのか教えろと命令しズームさせると、お洒落なカフェの窓際で紅茶を飲む女の人が写し出される。


 周りの風景からして右斜め上後方。何気なくそっちを見てみると完全に目があった。しかも直ぐにスッと視線を逸らした。


 ……こっちを意識してる⁉


「友里さん、行こう」

「え、突然なに⁉」

「……見られてる。何者かわからないからとりあえず距離を取る」


 目を逸らしたタイミングがかなり早かったから偶々俺が振り向いたら目があってしまったという可能性は低そう。


 ……それにしても、


「あいつら暇だなぁ……どこ行ってもトラブルとか、どうしたらいいんだろ」


 見張りつつ優雅にティータイムて。それにここに一人いるってことは多分他のエリアにも相当数いる。


「面倒くさいな色々と……」


 苦笑いを浮かべるしかない。

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