表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
184/374

百八十四日目 女性の買い物って長いよね……

 シルクハットを被った猫が淡い光に包まれて消滅していく。対して俺のこっ恥ずかしいアバターは鎖を宙に浮かせたまま背後で待機している。


 なかなか中二っぽい絵面だ。こいつの顔がいいから余計にそう思う。


「で、友里さん買い物でもすんの?」

「まぁ、買い物しに来たんだけど。いいの? 全然遊んでないけど」

「リフレッシュにはなったし、俺はもう構わないけど。友里さんはもっとやって置きたい?」

「やってみてあんまり得意じゃないなぁ、と」


 だろうな。素人同然の動きだったし。


 友里さんは格ゲーより育成ゲームでほんわかしてるタイプだろう。殺伐としたFPSとかやってるの想像できない。


「格ゲーは得意不得意はっきり出るしな。仕方ないよ」


 ソウル(仮)を引っ込めて一旦その場から離れる。


 友里さんのお目当ては服だった。


 延々と店を回っては同じ商品を見て悩んでいる。


「……もうそれ買ったら?」

「いやだって結構するし……」

「研究職なんだから金ならあるだろ」

「研究に使っちゃうんだよね……」


 仕事が趣味みたいで何よりだが。


 ……正直。服の良し悪しはさっぱりだ。あまりにも変じゃなきゃなんでもいい。


 友里さんが延々と悩む理由は俺にはよくわからないな。


「それなら俺が買うよ。どうせこっちの金なんてこんだけあっても無駄だし」

「いやそれは」

「いいって。使わないんだし」


 なんなら全部あげるよ。あっちの世界じゃ紙切れ同然だし。


 分けるのが面倒なので百万束ねてある紙袋をそのまま渡す。


「ん」

「明らかに多すぎるでしょ⁉ いくら入ってるのそれ⁉」

「百」

「おかしいおかしい」


 金銭感覚がおかしいのはわかってる。けどあっちじゃこれくらいの金額、一回の取り引きで動くのはザラにある。


 こっちの値で数千万単位の取り引きだってやるんだ。そりゃ金遣いも荒くなるってもんだろう。


 まぁ、俺は結構ケチだから無駄なまでに散財しないよう気を付けてたら金庫がヤバイことにやってたらしいが。


 週一で泥棒入るんだもん。当然、メイド達に冥土送りにされてるけど。


 あ、別に殺してはいないよ多分。冥土部屋ってのに引き摺り込まれてくのを何回か見ただけで。


 ……そっから人が出てきたところは一度も見てないけどな。


「いや本当にいいから。あっちじゃ紙切れになるんだし、使わないと寧ろ勿体ないだろ?」

「それはそうかもしれないけど」

「それはそうなんだよ。ほら買ってきたらどうだ?」


 最後まで迷っていたが、結局レジに向かっていた。


 足取りが軽いところを見ると、やっぱり喜んでいるらしい。服で喜ぶ人の気持ちはわからないが、ああやって喜んでいるのを見るのは嫌いじゃない。


 友里さんは購入後そのまま着替えたらしく、さっきのラフなパンツスタイルとは一転してふわふわした淡い緑のワンピースになっていた。


「どうかな?」

「可愛いんじゃない? 俺に聞くよりキリカの方がいいアドバイスくれるとは思うけど」

「そう?」


 残念ながら俺は裁縫はある程度できても服選びのセンスはないんだ。


「ツキは?」

「え、俺?」

「なんか服変えてみたら? 今の服ちょっと適当感が凄いよ」

「いやまぁ確かに適当だけどさ」


 上着から靴下まで全部無地。唯一靴だけはブーツに近い。左足の異常さを隠すために魔法を使ってるんだけど、それでもちょっと不自然さは出てしまうからこうした足を覆えるものが必要なんだ。


「靴はそれでいいの? 履くのいつも面倒そうだけど」

「足は完全に隠せないからな」

「なんで隠すの?」

「詳しく言ってなかったっけ。俺左足が化け物なんだよ」


 あ、絶対伝わってない。悪い。俺の言い方が悪いかった。


「左足がな、結構前に色々あって切断してな。最近全く別の生物の足くっ付けられてどう見たって化け物で」

「あ、なんかそんな感じのこと言ってたね……」


 ごめん、と謝られた。謝られてもこっちは困るだけだからさらっと流してくれりゃいいものを。


 俺の足は戻ってこないんだから、何を今更後悔したって意味がない。


 ……いや。


「足を無くしたことに後悔はしてない。対等に話せる数少ない友人を救った時のものだ。誇りこそするが、後悔はない」


 寧ろあの時の判断は間違っていなかったと断言できる。


 足一本を代価に魔力を回復する禁術を使って、大事な友達の命を守れたんだ。十分過ぎるほどの成果だったと思う。


「そっか」


 友里さんはそれ以上なにも聞いてこなかった。


 今の足のことも、痛みの事も。


 代わりに、俺の友達のことを聞いてきた。


「その人、どんな人なの?」

「んー、なんというか……頭よすぎて恐い、かな。一を聞いて十どころか二十、三十を察してくる。あいつの仕事はまさに天職だろうな」

「なんの仕事してる人? 私みたいに研究職とか?」

「いや、国家運営」


 友里さん、突然瞬きを高速で繰り返す。


「……国家?」

「ああ。国王なんだ。とは言っても俺とそんなに年齢違わないんだけど」

「……ツキってやっぱり違う世界の人なんだね………」

「今更?」


 そういう意味じゃない、と言われた。


 どういう意味かと聞き返しても多分理解できないからと適当にあしらわれた。酷い。


 その後も次々と店を転々とする。


 なんでもこのショッピングタウンは場所ごとに売るものが決まっているらしく、この辺りは服屋ばかりなのだとか。


 ただ、休憩できるようにかカフェもそれなりに見付けはした。歩き続けてるから入ってないけど。


 ……友里さん底無しの体力だなぁ。疲れないの?


 俺精神的な疲労は結構たまってるよ多分。


 服屋は慣れないし、定員から話しかけられるし、友里さんに何かあったら不味いからどっか座っとくわけにもいかないしで。


 要するにめっちゃ暇の状態で延々と歩き回っている。そら疲れますわ。


「うん。これにしよ」

「あ……そう……」


 俺が金を押し付けたら結構遠慮なく服を買い込み始めた。いやいいんだけど。スッゴいことになってるよ俺の両手。


 重くはないんだけど、紙袋に紙袋重ねてて無駄に場所を取る。


 ……女性の服への執着って凄いんだなぁ……お前も女だろとか言うなよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ