百八十三日目 ソウル(仮)初戦闘
早速遊んでみようということで。そのバトルが行われるスポットに連れていかれた。
「友里さんはこれが目的でここに?」
「いや、本当の目的は違うんだけど……ツキ、ちょっと元気なかったから」
「? そうだったか?」
元気なかったらしい。元気かどうかなんて基準、人によって様々だろうけど。
まぁ確かにずっと周囲を警戒し続けてれば疲れるか。今までは仲間達で分担してたけど、まさかキリカにその責任を負わせるわけにもいかんし。
俺はどうやら自分を追い込むらしいからなぁ。自覚ないけど。
「まぁでも気を使ってくれたのは嬉しい。ありがと」
「私もやってみたいとは思ってたし、丁度いいかなって。あ、これで町のなかは移動できるんだけどツキって二輪免許持ってる?」
「持ってると思う?」
「ごめん忘れてた。日本人じゃないんだったね……」
うちの学校は免許とるの禁止してたからな。俺達が事故に巻き込まれたのは17の時だからとれない年齢ではなかったんだけどね。
友里さんがそう聞いてきたのは、このショッピングタウン内での移動手段がレンタルの原付きか自転車、後はバスだったからだ。
自家用車は入れないらしい。安全面を考慮してのことなんだろうけど。
「あっちには動物園もあるんだよ」
「へー」
バスに乗って目的地へと向かう。このバスは無料なんだってさ。敷地内でしか移動しないけど。
それにしても。
「結構来る人は偏ってるんだな?」
「どういうこと?」
「子供、というか家族連れが多いな、と。大人の男性はあまり見かけていないし、お年寄りはもっと少ない」
テーマパークみたいな感じかな? ここは買い物をする場所なのに、明らかに年齢層が偏っている。
「そう、かもね。昔はそうでもなかったんだけど」
「なんで?」
「最近日本人口数が一気に減り続けているの。少子化が進みすぎちゃって」
「やっぱり解決しなかったのか……」
俺の時代にも確かに改善できるかどうか微妙なラインだったからな。進行して、もう止まらなかったんだろう。
このショッピングタウンは広すぎてお年寄りが回るのは難しそうだしな。
「ツキの世界は?」
「あー……発展途上国のそれだよ。っていうか電気もないし」
「電気なくてどうやって生きていけるの」
「魔法あるっつったろ。魔法文明が発達しているが、その……研究者どもは頭が固くてな」
自分が信じた道しか存在しないと思い込む連中ばかりだ。
いろんな国を回って見てきたが、どこもかしこもそんな感じで辟易としたよ。
「あいつら、魔法を戦闘の道具としか認識してないんだよ」
「でもそれはその通りじゃないの?」
「そうなんだけどさ……生活に役立つ魔法を開発しようって気に何故かならないんだよ。半径一メートルを灰にする焼却魔法でどうやって竈に火をつけるつもりなのかね」
強すぎる力は庶民には要らない。だが、どの国も防衛という面から新しく強力な魔法を作らなければ国が滅びてしまう。
「あの世界は血生臭い。俺はどうもあっちの空気があってるが、正直あそこに居たいと思うやつは天才的にアホだと思うね」
「じゃああんたも天才的にアホなんじゃないの」
「不本意ながらね」
戦うことしか能がない連中も多い。守るという観念から見れば正しいあり方なのかもしれないが。
「戦うことが染み付くと戦えなくなったときが怖いんだよ」
「うん。退役した軍人がまた戦場に行っちゃうってのもよく聞く話だよね」
「ああ。もう……俺は遅いが」
バスの中に次の目的地を告げる電子音声が響く。ちなみに自動運転だった。
降り場には結構な人が集まっていた。皆一様にコネクタをどこかにつけていて、あのアバターの写真の貼られているプラスチックのカードを持っている。
「これが、あのゲームの参加者ってことか」
「思ったよりずっと人多いね……!」
友里さんもゲームは嫌いじゃないんだろう。嬉しそうにキョロキョロと周りを見回している。
「ねぇ、ツキ。肩慣らしでやってみない?」
「ああ、それはいいな。チュートリアルではイマイチ強い敵いなかったから手応えなかったし」
チュートリアルで説明された通り、自分のコネクタにカードを翳し、相手に対戦を申し込む。友里さんが承諾したらしく、目の前にカウントダウンが表示された時計が出現する。
「友里さん本名で登録したんだ?」
「えっ。本名じゃないの⁉」
「いや、俺は本名絶対避けるけど……」
友里さんは『友里』俺は『triangle』という名前だ。俺の? 適当に。だってこのゲームのメーカーのロゴが三角だったから、それで。
「ツキのは隠しすぎでしょ……」
「出来るなら名無しにしたかったんだけどね。打ち込むのめんどいし」
あのゲームでのセドリックって名前も名前ジェネレータで作ったやつだしなぁ。
カウントが残り少なくなってきたのでソウル(仮)を出現させ、動作がしっかりしているか確認する。
右手中指と薬指、左手人差し指を同時に押してフリックすれば、中段蹴り。武器を使っての攻撃は……うん。問題なし。
対戦開始まではお互いが何をしているのか外からは全く見えないようにオブジェクトが出現する。情報流出を防ぐためだ。
普通に考えて対戦前に手の内見せるとかあり得ないしね。
カウントが5秒を切る。キーボードを操作すると思った通りにアバターが動いてくれた。ただ、その顔がソウルなのは大分恥ずかしい。真顔だから特に。
『ready fight!』
電子音声に反応してオブジェクトが取り払われる。友里さんの猫はライフルをまっすぐこちらに向けていた。先手をとるつもりらしい。
「撃って‼」
友里さんの声に反応して猫が確りと照準を合わせて撃ってきた。確かに、飛び道具の使いかたとしては近付くのは愚策。相手よりも早く、確実に一撃で仕留める事が出来れば最強のスナイパーだ。
近付かず、遠方から距離を詰められる前に突っ切る。初心者としてはまずまずの判断だ。
「でも……やっぱり慣れてないねぇ、友里さん」
空中に指を走らせる。覚えたての移動コマンドだが、弾避けるくらい訳はない。
「嘘っ⁉」
撃たれたそれを三発ともスレスレで回避し、一気に距離を詰める。ライフルは一発一発は強いが連射性がない。対してこちらは殺傷力の低い鎖。中近距離の武器だ。
だが、十メートルも近付ければもうなにも心配要らない。
即座に行動から攻撃にコマンドを切り換えて鎖を真上から猫に向かって叩きつける。
「避けてっ‼」
友里さんの曖昧な指示に猫は従い、ライフルを背に担ぎ直して間一髪で避けてきた。
これが、コンピュータの自動判断の避け方か。やはりというかチュートリアルで戦ったNPCと同じ動きをする。
それなら対処は酷く簡単だ。
直ぐに攻撃コマンドを解除、移動に一瞬切り換えてから本来回避コマンドであるバックステップを使う。
攻撃に入った直後に攻撃を受けたわけでもなく回避行動を取ったのは失敗したわけではない。元々この鎖は最長二十メートル伸びる。俺は今、十メートルまで距離を詰めていた。
多少下がっていても、鎖は届く。
電流を鎖に纏わせ、下から薙ぐ一撃を猫にぶつけた。猫はスタンが一時的に状態異常としてつく。
その瞬間に鎖をしまい、さっきコマンドを確認した中段蹴りを猫に喰らわせた。わざわざ武器をしまったのは火力不足になるからだ。武器使った方が蹴りより攻撃力低いって矛盾してる気もするが。
「え、ぁ……? 負けちゃった……」
「経験の差だよ。友里さんも慣れれば多分出来るって」
猫が光に解けて消えていく。勝利したというテロップが俺とソウル(仮)の背後と前に並んでいる。
「やっぱり強いね、ツキは」
「俺一応軍人だし……」
「そうだっけ……?」
まぁ、本当に一応、なんだけどね……。




