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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 一冊目
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十八日目 バレッタ

「じゃあギルマスの誕生日お祝いしましょう」

「いや、別に今の今まで忘れてたようなものだからいいよ」

「僕がやりたいんです! いいですよね?」

「あ、ああ」


 ヒメノが有無を言わさぬ迫力でこっちに迫ってきた。


「でも誕生日祝うってなにするんだ」

「ギルマスのお家ではやらないんですか」

「? ない」


 友達が手紙くれたとかはあるけど、あれってお祝い………ああ、お祝いなのか。


「友達が手紙くれたとかはあるぞ」

「それ違います」

「あ、違うのか………」


 友達を祝ったことはある。あるけど殆ど俺準備してない。皆が勝手にやってて俺輪っか飾ってたし。


「それで、なにやるんだ?」

「今初めて聞いたので大袈裟なことはできないですね」

「へぇ」

「なのでプレゼントを」

「プレゼント? それってクリスマスの風習じゃないのか」

「いや、どっちもですよ」


 俺の家にはクリスマスの朝、枕元に個包装のクッキーが一枚あったぞ。小学校の時。それ友達に話したら凄い哀れみの目を向けられたからそれからは誰にも話してないけど。


「ってことで買いにいきましょう。欲しいものってありますか」

「……………?」


 そういわれると………


「あ。消ゴムなくしたんだった」

「それはプレゼントって言えないです。言えるかもしれないけど僕は嫌です」


 どうしろって言うんだよ。


「この前五線紙切らした」

「五線紙?」

「ほら、楽譜って五本の線があってその上に音符とかが並んでるだろ」


 そうだっけ? みたいな顔しやがって。


「ほら、これ」


 この前練習の時に楽譜持っていくのが面倒だからって写メしたやつが携帯のなかに入っていた。


「あ、本当に線が五本ですね」

「そう。それを買いたいんだ。授業で使うから」

「それって幾らですか?」

「物にもよるけど、100均にあるぞ」


 ルーズリーフ版のが。


「なんかそれも嫌です………」

「なんでだよ………」

「好きな人にあげるプレゼントなんですから、少しくらい見栄張らせてくださいよ…………」

「え」


 俺よりも可愛らしくもじもじしてる。っていうか嫌ってそういう意味だったの………?


「ごめん、ヒメノ………俺、ヒメノが文房具屋嫌いだから嫌だって言ってるのかと思ってた………」

「違いますよ⁉」


 人によって色々あるじゃん。他人の服の臭いがダメとか漫画のインクの臭いが苦手だとか。あ、これ全部俺だけど。


「黒鉛の臭いダメな人かなと………」

「それ学校通えませんよね………」


 たしかに。小学校とかシャーペン駄目ってところも多いしな。


「欲しいものって言われても………俺の部屋見てみるか?」

「え」


 なんでそんな露骨に嬉しそうなんだよ。


 前に一回自分の部屋を何枚もいろんな角度からとった写真が残ってるはず。防衛する道具買うときのサイズを見るためにとったやつだけど。


「これだ」

「えっと………私物は?」

「ゲーム買うときに全部売り払って、面倒くさいから買い足してない」

「なんにもないんですね………」

「ちなみにゲーム(大切なもの)はトイレのタンクの裏に隠してある」


 ついでに言えば預金通帳とかも。そっちはちゃんと管理しろって? だってゲームなくなったら金なんて要らん。


「こんなところで生活してるんだぞ? 寧ろ物欲無くなるわ」


 ゲームさえあれば生きていける気がする。


 ここ最近の買い物ってスキー用品と文房具だけだったりする。ほかのもの? ない。


「アクセサリーとかは」

「俺がつけると思うか?」


 高いものは金があっても手を出すつもりはないしな。


「ゲーム以外の遊ぶものってどこにあるんですか」

「ん? ……………? ……………ああ、引き出しにトランプが入ってる」


 前の定期演奏会の空き時間に使ったやつ。俺ほとんどやってないけど。


「ギルマス」

「なに」

「女の子としてそれはないですよ」

「俺にそれ言われてもな………」


 女の子だどうだっていうのは俺にはなぁ………。


「今からなにか買いにいきましょう」

「いや、だからいいって」


 いいって言ってるのにヒメノにグイグイ引っ張られ、テレビとかパソコンの画面を通してしか見たことのないようなお洒落な店を何軒も歩く。


 イケメンのヒメノはともかくも。俺、浮いてないだろうか。


 服なんてわからない。興味がないし、雑誌とか見て何が面白いのか理解できない。なんか色々見て回りはするものの。わからん。


 なんであそこにいる俺とそう変わらない年ぐらいの子達はキャッキャキャッキャ言ってるのだろう。


 これの何が面白いのか。


 ゲームの面白さ? 単純さの中にある奥深さだよ。俺がやってるのは格闘ゲームだけど、育成でもパズルでもなんでもそうだ。


 格闘ゲームだったら相手を倒す、たったこれだけの為に装備を揃え、レベルを上げ、自分自身のスペックを上げていく。これほど面倒で楽しいものはないだろう。


 しかもやったぶんだけ身に付くんだから使い方さえ覚えていればそれは消えることはない。


 自分の記録を自分で塗り替えていくのが楽しい。別に敵を倒して気分爽快ってのをしたい訳じゃない。俺にあってたのが格闘ゲームだった。それだけのこと。


 けど、そのゲームのお陰で父親とは疎遠になったし、引きこもりになったけどヒメノ達と会えたし毎年お金も入る。父親とは元々馬が合わないんだろうから丁度いいくらいだしな。


「さっきから、ああ。とか、うん。とかしか言わないの止めてくださいよ」

「そんなこと言われても」


 理解できないものを見せられても、へぇ。としか言えないんだし。


「ギルマスはこれが似合うと思うんですよ」

「⁉ いや、無いだろ………」


 ヒメノは大きめのリボンがついた髪留めを見せてくる。


 バレッタだったっけ? そんな感じの名前の髪留め。姉や妹がつけたら絵になるようなものだが残念ながらその遺伝子が受け継がれてない俺には似合いそうもない。


 っていうか、俺思うんだけど。姉ちゃんと鈴菜って俺と同じ血が流れているんだろうか。


 見た目も中身もスペックが違いすぎて三姉妹というより姉妹とその他一人みたいにしか見えないと思う。


 だから余計に一緒に居たくない。同じ空間に居たくないんだ。あの二人には悪いけど。


 因みに、髪は今現在大体肩甲骨辺りまで伸びている。


 昔バッッサリ切ったことがあるんだけどイジられたために止めた。名前でイジられるのなんか嫌いなんだよね。


 ゲームではセドリックなんていういじられても仕方ないような名前でやってるけど。


 だから今俺はポニーテールにしてる。髪ゴムで一個結び。楽だしな。


 髪ゴムは真っ黒のやつ。パッと見じゃなんかのマジックに使うようなただの紐。ゴムはいってるだけで。


「つけてみてくださいよ」

「ええええぇぇぇ………」


 なんかつける気になれない。まず付け方わからない。っていうかなんでこんなことになったんだっけ。あ、俺の誕生日か。


「いつになく強引だな………」

「ギルマスの言うこと全部聞いてたら日がくれます」


 ごもっとも。それは同感だ。さっきからピンと来るものを教えてくださいねって言われたけどピンと来るものがまず不明。


 一生終わらない鬼ごっこみたいな。


「そもそも………」

「なんですか?」

「や、やり方が判らんし………」


 そう言ったらヒメノが反対方向を向いた。丁度ドアの辺り。


 知り合いでも居たのか? 声が聞こえたとか。うわ、ありそう。


「知り合いでも入ってきた?」

「い、いえ。なんでもないです」

「? あ、そう」


 突然声が低くなった。なんか隠そうとしてる顔だな。これは。


「じゃあ僕つけますよ。ほら、あっち向いて」


 いや、あっち向いてとかいってるのにお前が俺の後ろに回ってるじゃん。とか言いたかったけど我慢。っていうかこいつ器用だな。


 人の髪とか絶対結べないタイプだから俺には無理だわ。


「できましたよ」

「早いな………なぁ」

「はい」

「俺からは全く見えないから似合ってるとかの判断ができないんだが」


 鏡は前、髪留めは後ろ。後ろに目がある訳じゃないからみえない。当たり前だ。


「似合ってますよ」

「どうだか………」


 女になら誰でも言ってそう。いや、女に限らず。


「じゃあこれ買っちゃいましょう。すみません、これください」

「あ……は、はーい。少々お待ちくださいっ!」


 店員さん、ヒメノに見惚れたな。俺は全く目に入ってないご様子でございますよ。いや、別にいいんだけど。

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