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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百七十四日目 脆すぎない?

 窓から飛び降り、地面に着地するとコンクリートが欠けた。


「あっ、魔法で速度落としてないから欠けちゃった……すんません」


 直そうにも魔力が使えないから放置になる。


 とりあえずまっすぐ走ってみるか。


『主人、大丈夫か』

「ああ、銀雪。お前は自己隠蔽解けてないよな?」

『そうみたいだ。ただ、新しく魔法を使おうとしても使えないが』

「お前もか……」


 俺の足の幻も解けてないから予め魔法をかけていたものは対象外なんだろう。新しくかけるのは無理っぽいけど。


 ただ問題なのはいつから魔法が使えないのかだ。


 ごんさんに魔法見せてって言われた時は使えてたから、多分店を出てから。なにか不自然な感じが急にきたりした訳じゃないから範囲全体に及ぼすものだろう。


「銀雪。俺は今からちょっと後ろの足止めをする。お前はこの魔法妨害の範囲がどれくらいなのか調べてきてくれ」

『承知した!』


 ゆっくり走っていたせいか、思ったより早く追い付かれたな。まぁそれが狙いだったけど、少し相手の評価を見直そう。俺の小走りについてこれる程度か。


 いや、なかなか居ないんだよ? 小走りについてこれる人。そりゃ家にいるソウルとかキリカとかは別格だから無視するけど。


「貴方達は……見たことない種族だ。何者か伺っても?」

「同行願おうか、侵入者。狐野郎が連れてきたからといって手加減はしないぞ?」

「質問に答えて欲しいなぁ……別に嫌ならいいんだけど」

「同行願おうか」

「……せめて何か反応してくれると嬉しいかな。一人で喋ってる気分になってくるじゃん」


 やりあうのは極力避けたい。手加減苦手だし、銀雪が魔法無効化範囲を調べてくるまでは無闇に逃げ回るのもやめた方がいい。


 あいつならすり抜け出来るしそこまで時間はかからないと思うが、戦闘になった場合こっちが不利だ。本気で殺るってんなら多分俺の圧勝だけど個人的に殺人はしたくない。


 今は時間稼ぎに徹したいところだ。口論なら手加減要らないしね。


 問題なのは俺がこの世界の情報を殆ど持っていないこと。


 交渉の材料になりそうなものなんて、俺の体の仕組みとかそういう下らないことくらいだし。


 ベストは『あっちがこっちを過大評価してくれて近づいてこない』関係だ。残念ながら舐められてるんで無駄なんだけど。


「痛い目にあっても良いんだな?」

「いや、痛いのは誰だって嫌でしょ。そんなことより俺のこと捕まえたらどうするか教えて欲しいな」

「その時になればわかる」


 わー。なんで素敵な言葉なんだ。その時になればわかるって完全に説明する気最初からゼロだし、その場凌ぎの会話なら楽だよね。俺もよく使うけど使われるとスッゴい苛つく。


「具体的に教えてくれない?」

「……そろそろ黙れ」

「横暴だね。肉体言語がお望みなら他を当たってくれ」


 さてどうする。もうここまでくると何喋っても煽ることになりそうだし、黙った方がいいかもしれないけど。


 多分そうなるともう殴り合いだよ。キリカ連れてくるべきだったか……いや、それだと家の方が守り薄くなるしこれが結局最良か。


 あちらさんはやる気みたいだし、上手くいなしながら隙を見つけて気絶させるしかない。


 ちょっとでも加減ミスると首が一回転とかしかねない。実際に何度かやってしまったことがある。


 即座に回復かけたから無事だったけど。


 そんなことを考えてたら突っ込んできた。俺の戦闘スタイルも解らないうちに特攻とは、余程自分に自信があるらしい。


「風壁。……反応しないか」


 ダメ元で札術使ってみたけど無駄だった。相手は俺の顔面向かって右ストレートを繰り出してくる。


 すごく避けやすいが、身体能力に差がありすぎるのを悟られるのも不味い。その分逃げにくくなるしね。


 ってことで受け止めます。両腕を盾にして拳を受ける。当たった瞬間、嫌なおとがした。


「ギャアアアッ⁉」

「え、脆くない⁉」


 自滅したぞこの人⁉


 けどよくよく考えたら俺の防御力ってコンクリート並だ。それに思いっきり殴りかかってきてるんだから骨折れますわな。


 俺? 無傷だよ。


 どうやらこの世界の人は相当弱いらしい。というか脆い。デコピン程度で頭蓋骨割りそうでこわい。こっちの人下手に攻撃できないな、これ。


「鉄板でも入ってんのか……!」

「いや、素なんだけど……」


 銃弾ぐらいじゃないと俺は傷付かないしなぁ。自分でも硬いと思う。もともと壁役タンクだから特に頑丈。


『主人、見つけたぞ‼』

「どれくらいだ」

『そこからまっすぐ進んで一キロ!』

「結構範囲広いな」


 この世界ではそもそも異能が信じられてないから使ったとしても騒ぎにならないって訳ね。


 俺たちの世界でこの魔法無効化使われたら相当デカイ問題になるよ。だってライフライン全部止まるんだから。


 ……そう考えると魔法に頼りすぎるのも不味いな。いつか1つに依存しすぎない方法が確立されることがあればいいんだけど、俺がそれを伝える事が出来ないだろうから、誰かが気づいてくれるのを待つしかないだろう。


「あそこだ!」

「待ちなさい!」


 おっと、追っ手が増えてきた。そろそろ本気で逃げますかね。


 適当に路地を進む。時速40キロ位は出てるんじゃないかな。でもあっちも地の利を活かして挟み撃ちにしてきた。


 角を曲がった瞬間、前からも後ろからも気配がする。アニマルから丸見えだから突破口は直ぐに見つかるけど。


 壁のくぼみに足を引っ掻け、そのまま蹴りあげる。窓枠に指を引っ掻けて体を持ち上げて四階建てのビルを垂直に昇った。


「嘘だろ⁉」

「むちゃくちゃだよあいつ!」


 むちゃくちゃで悪かったね。


 そのままビルの屋上を走って渡り、効果範囲の外に突っ切る。


 ……予定でした。


「そこまでだ。逃げ足の速いやつだな」

「へぇー、天狗って空も飛べるんですね?」

「惚けるな。何か隠しているだろう」

「そりゃ切り札の一つや二つはありますよ」


 天狗の人は目を細める。俺の一挙一動を見逃すつもりがないらしい。そしてこの人、強い。


 ソウルと同格以下じゃないかな。それってつまり節制使ってる今の俺とそう大差ないレベル。


「なぜそこまでして、帰ろうとする?」

「だから、家族のためだって―――」

「それだけではないだろう」


 へぇ? 思ってたより人を見てるなこの人。というか、勘が鋭い。


「なんでそう思ったんで?」

「さぁな。そう思っただけだ」

「そうですか。間違っちゃないんでいいですよ? 俺が帰るのは家族のためですけど、それ以外にもない訳じゃない」


 背後になにかほんの少し気配を感じた。多分銀雪だろう。俺が中々効果範囲外に出てこなかったから心配して来てくれたらしい。後ろ手で合図を送ってから天狗さんに聞いてみる。


「……ねぇ天狗さん。俺とひとつ取引、しない?」


 賭けるのは、戦力。それと信頼だ。

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