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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百六十九日目 常識のすれ違い

ーーーーーー≪ブランサイド≫


 一夜明け、朝になっても拷問……じゃないや尋問したやつらは震えていた。一睡もできなかったらしく、目の下には酷い隈がある。


 ま、そりゃそうだわな。滅茶苦茶に脅された相手が目の前に座って寝てるんだもん。俺だって嫌だわ。


 けどこうでもしないと見張れないし、かといってここ数日ちゃんとした睡眠とれてないから寝れるときは寝たかったし。


 その結果、侵入者の目の前に胡座をかいて寝た。眠り浅いから物音がしたら直ぐに起きることができる。こいつらにしたらたまったもんではないだろうけど。


「さてと……お前ら。本当に全部情報は吐いたんだな? あれで全部だな?」

「「「………!」」」


 真っ青な顔をして首を何度も縦に振る。うん。嘘はついてないな。


「本当になにしたのよ……」

「あ、友里さん。おはよう。朝ごはんリゾットでいい?」

「それはいいけど……なんで?」

「こいつらに食わせるから。消化のいいものの方がいいだろ」


 恐怖で食べ物が喉を通らなさそうだから、固形物より柔らかいものの方がいいだろう。


「じゃあこいつら見張っといて」


 友里さんに任せてキッチンに行く。多分大丈夫だけど何かあったときのためにアニマルはこっそり待機中。


『ねぇ、あいつに何されたの?』


 お。友里さんがあいつらに話しかけ始めた。面白そうだから聞いておこう。


『そ、それは……』

『思い出したくない……』


 震え上がる男共。そんなに非人道的なことしてないけどね?


『そんなに酷いことされたの?』

『ぁあ……恐ろしかったぜ……ありゃ鬼だ……』


 せいかーい。あんたの言う通り俺は鬼です。本当の意味で鬼だとは気づけないと思うけど。


『具体的には?』

『苦痛がどうだとか言っていたな……正直さっぱりわからない。記憶が抜け落ちているわけではないんだが……』


 拷問……尋問に使ってるの魔法だしね。この世界では意味のわからない力としか言いようがないだろう。


 そして銀雪に気づいていなかったところをみると、友里さんを拐ったやつらはこいつらとはまた違うグループだ。多分複数に依頼して浅間を潰そうとしているんだろう。悪質。


 そして恐らく浅間を狙っているのは仲間や友人である可能性が高い。だって動きが迅速すぎる。二人の行動を理解していないと行えない犯行だ。


 俺の勘では上司あたりだと思う。それも二人の言葉の端々に出てくる『あいけーふぃるむ』なるものを最初は否定し、実績が出てきたから手のひら返しをしている感じのタイプ。仕事柄そういうやつは何人も見てきた。


 今回もその臭いがする。


 ボーッとしてたらちょっと焦げた。わざとじゃなく勝手に焦げるのっていつぶりだろう。これでも料理には少し自信があったんだが。


「はぁ……。俺もまだまだってことかな」


 出来上がった料理を紙皿に乗せて運ぶ。友里さんの分は元々家に置いてあった白い皿だ。


「あんたも、あの鬼には気を付けろ。本当に何されるか……」

「言いたい放題だな、おい」

「⁉」


 ちょっと睨むと表情がひきつった。怖いなら悪口言わなきゃいいのに。


「はい、これ友里さんね。で、お前らの分はそれだ。食ったらさっさとこの家から出てけ」

「……自分で言うのもなんだが逃がしていいのか?」

「監禁していても情報は得られそうにないし、友里さんと広大さんに迷惑がかかるからだ。別に温情をくれてやってる訳じゃない」


 プラスチックのスプーンを紙皿と一緒に一本ずつ渡す。逃がしても問題ないと俺が判断しただけだ。もし復讐だなんだって言ってきたら遠慮なく爆破か首をスパッとするだけだし(キリカが)


「ねぇ、ツキ。この人たち、本当に悪い人なのかな」

「友里さん。その言葉は間違ってる。持論だけど悪い人なんて存在しないんだよ。嫌なやつと屑とアホは存在するけど」


 義を気にせず悪いことを好んでする人はいない。人殺しだって何かしらの正義がある。快楽殺人鬼でも心ってものはある。


「そいつらは仕事でここを襲った。それだけだよ。多分」

「どういうこと」

「……例えば、友里さんが拐われたとき、俺があの場にいなかったとする。広大さんが友里さんを助けるために人殺しをしたらそれは悪人だと断定される行為なのか?」

「そんなわけないでしょ」

「……そういうこと。そいつらはそいつらの事情があって今回の事を成した。それに悪も善もない。ただ、周りが悪か善かを判断するだけ」


 行動することはなにも悪いことじゃない。その行いを周囲が見てどう判断するかで全く評価が変わってくるものだ。


 根っからの悪人なんていない。誰がどの正義で行動をするか。ただそれだけだ。


「……だから俺は相手の性格なんか関係なしに行為でのみ相手の処分を決める。今回はキリカの圧勝だったし、特に被害がなかったから一晩の監禁だけで帰すが」


 俺の「帰す」という言葉にホッとしているやつらをもう一度睨む。


「次同じことが起きたら……腕の一本や二本では済まんぞ?」

「「「…………⁉」」」


 滅茶苦茶ビビられてる。はぁ。こういう役回りはあまり得意ではないんだが。


 ここまで脅したらいいだろう。他のやつらの見せしめにもなるし、次からはもっと手加減しなくても大丈夫だな。


 ……俺ここに長居する気ないんだけどね。


 追い出したら、友里さんに思いっきり睨まれた。


「ねぇはぐらかさないで教えてよ。本当にあんたのこと信用していいの?」

「ん? そんな質問来るとは思ってなかったら回答を用意してないんだけど……信用なんてしなくていいよ。どう見たって俺は怪しいし、殺されかけて誰も信じれないのはわかる。だから信じてくれなんて言わないよ」


 信用なんて今の俺たちには必要ない。仕事をする上ではお金より大事なものだけど、友里さんと俺達は仕事仲間じゃない。偶々今一緒にいるだけの関係だし。


「後数日厄介になったら直ぐに出ていくから。そうしたらもう二度と会わない」

「なんで言い切れるの」

「……理由言ってもいいけどキリカには言わないでくれる?」


 絶対にキリカには話したくない事だ。今まで誰にも言ってない、これからの計画。


「絶対言わないよ」

「そっか。……俺が多分死ぬから物理的に会えないんじゃないかなって話」

「………は?」


 面白いくらいに反応してくれるからちょっと吹き出してしまった。不覚。


「冗談でしょ?」

「いやいや、こんなシリアスな場面で冗談言うほど笑いに飢えてないから」

「……なんでそれを私に言うの?」


 なんでだろ? 正直自分でもさっぱりわからん。


「友里さんには関係ないからかな? キリカだったら自分が死ぬとか言い出しそうだし、言える人限られてくるじゃん」

「なんで死ぬとか」

「それも計画の内って訳だ。俺が死んでも周りが何とかしてくれるから無問題。丸投げってやつだ」


 後は頑張れって爆弾放り込む。自分でも酷い対応だと思うが、正直本気で時間がない。


「俺、一度死にかけてそっから足を切り落としたりなんかしてる間に寿命使い果たしたみたいで体が使い物にならなくなってる。たまに心臓止まるし、移植された足はもげそうなほど痛い」


 だったら最期まで自分の役目は全うするべきだって思ってる。限界まで寿命を使って、七騎士に一矢報いてやる。


「そういうことだから、キリカには内緒にしておいてくれ。俺が死ぬまでもう数ヵ月も無さそうだし、どこまで隠し通せるかってゲームやってるからさ」


 折角なら、落ち込んだ顔より笑顔の方がいいだろ?

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