百六十四日目 そろそろ頭痛くなってきた
どうやらあの爆弾はスイッチで爆発、それがなければ時間が経ったら発動する仕組みになっていたらしい。
ま、もうどっちでも爆発しないように解除しちゃったけどね。
さてどうやって取り押さえようか。もう俺が普通に戦えることはバラしてもいいとしてどこまでやるべきだろう。
……銃火器は法に引っ掛かりそうだからやめとこう。
やっぱぶん殴るか? でもこの世界の人間の強度がわからん。軽くやっただけで首が一回転とか洒落にならない。
予想以上に厄介だな。面倒くさい。
「大丈夫ですか」
「は、はい」
「安心してください。僕が守ります」
「あ、はい」
すいません。俺の方が多分頑丈だと思います。盾にするなら俺だと思います。っていうか実際に盾役だし。
なにか妙だ。動きが無さすぎる。いや、もしかして最悪な予感が的中してるとかは流石にないよな?
……え、これフラグ?
「どう言うことだよ!」
電話でなにか会話し始めた。折角だし聞かせてもらおう。耳に意識を集中する。
『なんども言わせるな。今すぐ爆破しろ』
「俺達はどうなる!」
『知ったことか。あんたらの生存などどうでもいい。必要なのはフィルムの解除方法だ。聞き出せないんならこちらで今すぐ爆破する』
「っ!」
……わぁ。捨て駒扱いされてんの。
それにしてもやはり目的は友里さん達の言っていた『あいけーふぃるむ』か。なんなのかわからんが殺してまで欲しいとなると何かの勢力バランスを崩せるほどの物らしいのは確かだな。
「おい、今すぐ来い!」
「ちょ、痛いっ!」
友里さんが早速引っ張りあげられている。……仕方ない。やるか。
「止めてあげてくれません?」
前に出る。急いだりして走ったりするととあっちもビビって最悪誰か傷つけかねないのでゆっくりだ。
「ツキ!」
「友里さん、あなた面白いくらいに狙われますね。三日間で二回とか、早々ないですよ」
「知らないわよ!」
俺に負けず劣らずのトラブル吸引体質らしいな。
「おい、殺されたくなければ今すぐしゃがんで両手を上げろ。本気でやるぞ?」
「はい。こうですか?」
両手をあげて跪くと眉間にナイフを突きつけてきた。わぁ、こわーい(失笑)そんなもんでなんとか出来ると思ってるところが恐い。
「さっきから思ってたが中々いい女じゃねーか……。抵抗しないで従うって言うなら無傷で解放してやっても―――」
「そうですか。リップサービスありがとうございます。ま、抵抗させてもらいますけどねっ!」
手をあげた状態のまま鳩尾に掌底を入れる。ボキッとちょっと生々しい音がして三メートルくらい吹っ飛んだ。
「あっちゃぁ……やりすぎた……加減がわからん」
「なっ、このアマっ⁉」
「はい、おやすみなさーい」
友里さんを掴んでいるやつは顎に一発キツめのデコピンを食らわせて気絶させた。どうやらこの世界の人間にはこれくらいの威力で十分らしい。
「えっ、テロっぽいことしてるわりに弱すぎ……?」
寧ろこっちが嵌められたのではと不安になるくらいには弱い。
俺が強いのか? でも節制使ってるしな……。
吹っ飛ばしちゃったやつは肋骨三本逝ってたけど内臓にも刺さってなかったし放っておいた。自業自得だバカ野郎。
二人を縛り上げてから一息つくと友里さんが目の前に来た。
「ツキ……」
「?」
「なんでもっと早く助けてくれなかったのよこのバカっ‼」
「俺が悪いのか⁉ そもそも爆弾解除に行かせたの友里さんだろ⁉」
遅れたのは俺のせいじゃないだろ。
「あ、……そうだったね」
「忘れてたんかい……」
「解除できたの?」
「一応は。とりあえず爆発はしないと思う。簡単な構造だったし楽勝だったよ。知ってる技術しか使われてなかったのが幸いかな」
この世界特有の技術力で出来たものだったら流石に宇宙に投げるしかなかったけど。
固まってた人達が少しずつ動き始める。状況を理解し始めたらしい。
「え、ええと……君、何者?」
「あ、申し遅れました。自分は傭兵……護衛? とかを請け負っている民間企業のものです。本日はこちらの浅間さんお二方を護衛するためにここに。あ、でも宝石店を経営しているという話とかは全部本当ですよ」
一応嘘はついてないよ。一個も!
俺が自己紹介した頃からサイレンの音が近付いてきた。
ふと友里さんに目をやると涙をためた目ですごい睨んできていた。
「ツキが早く来てくれれば今そこで亡くなっている人たちも皆助かったかもしれないのに……随分楽しそうね」
「こら、二度も助けてくれた恩人に何言ってるんだ!」
広大さんも慌てて出てきて友里さんを叱る。
「? 誰も死んでないけど?」
「「………はい?」」
二人揃って瞬きを繰り返す。こういうところは親子だなこの二人。顔とかあんまり似てないけど。
「俺の感知範囲内でなら即死でもなければ大抵なんとか出来るしね。死んではいないよ」
「ほんとに?」
「なんなら見てきたら?」
言い終わる前に友里さんは走って出ていってしまった。
行動力のある人だよね。さてあの爆弾はどうしようかな。凍らしとくのが一番だけどどうやったんだと聞かれたら困る。だから正攻法で解除したんだけど下手に動かすと爆発しそうだしな……。
爆発物処理の専門家に任せようかな。
「ツキさん、警察はあなたが?」
「はい。爆弾があるとも伝えてあるのでその手の方も来てくれると嬉しいんですが」
「解除したのでは?」
「解除はしたんですけど、無理に動かすと爆発しそうで。凍らせたいところなんですけど液体窒素は流石に持ち歩いてないんで」
爆弾処理はあまり得意ではないしね。こういうのは専門家に頼むのに限る。
「後はもう警察に丸投げで―――っ⁉ 全員伏せろっ‼」
さっきの緊張がまだ解けていないのが助かった。全員直ぐにその場に伏せる。俺は動けないように縛り上げた二人の近くに移動した。
この二人が狙われたら避けることは不可能だしな。
「な、何も起こらないじゃない」
「……いる。南の窓、そこから10時の方角、距離は……800メートルくらいか。確実にこっちを狙ってる」
「……狙撃主……?」
「恐らく。……あー……不味い。非常に不味い」
頭痛くなってきた。
「友里さんが拐われました。その上この部屋全方位狙われてます」
「はぁっ⁉ 警察は⁉」
「数人狙撃されたからかビビってこっち来れそうにないです」
友里さんはとりあえず飛行型アニマルで追ってはいるが、この辺りは地下道だらけだ。即行で見失いかねない地形。
ここ離れるわけにもいかないし、キリカに連絡しようにも鞄に通信機入れてきちゃったから今はなにもできない。
ここずっと飛ばしてるからフルスピードで飛行するアニマルの稼働時間も持つかどうか。
「広大さん。手段選んでられなくなったのでちょっと強行手段に出ます」
「一体何を」
「手品ですよ。種も仕掛けもない、純粋なマジック」
スカートの内側に仕込んであった札を取り出して指に挟む。
「この場に似つかわしくないお客様にはご退場願いましょう」
問題は制限されてる力でいつまで動き続けられるか、だな。




