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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百五十三日目 世間話?

「落ちる落ちる落ちるおちるおちる降ろしてー⁉」

「降ろしていいの? 確実にまっ逆さまだけど」

「絶対やめてよ⁉」

「冗談だって」


 崖の窪みに足をかけながら走りはじめてから友里さんが泣きわめいている。


 気持ちはわかるけどあんまり慌てると舌噛むよ?


「こんな道進んで本当に研究所着くの⁉」

「道は昨晩確認済みだから安心しろ。今この瞬間に研究所が吹き飛んでもわかるくらいに精密な目を送ってるから」

「目? ……ああ、高機動ドローン!」

「ああ、そんな感じのやつ」


 ドローンよりも使い勝手がいいドローンだけどね。


「っと、そろそろか。キリカ」


 声をかけるとキリカが静かに頷いた。


 ベルトの準備をしながら崖の反対方向、つまり空中に体を投げ出す。


「ちょちょちょ⁉」

「大丈夫だって」


 落下しながらベルトのワイヤーを木に引っ掻けて昨晩用意した札を1枚指の間に挟んでから念を込める。


「友里さん、俺のマジック見せてやるよ。風の札、一ノ型。風騒(ふうそう)


 声をトリガーにして札の中央が軽く光り、術が発動する。


 単純な術式しか込めていないからただ真下から風を吹き上げるだけのものだ。キリカにはそれで十分だけどね。


 ワイヤーの巻き取りと風で勢いを殺して地面に降りた俺と、風のみでバランスをとって地面に降りたキリカ。こういうのもなんだけどキリカってやっぱり人外並の力があるんだね……。


 人のこと言えないけど。


「ほら、あそこでしょ?」

「え? ……ぁあ‼ ここ研究所の裏側か‼」


 記憶が軽く飛んでたらしい友里さんを降ろして軽く辺りを確認する。


「んー、まぁ、うまくいったかな。小枝は吹き飛んじゃったけど」

「それくらいで済むのは異常ですよ、マスター」

「キリカもできるでしょ」

「少なくともここまで回りに影響を与えずに、というのは不可能です」


 へー、意外だ。


 なんでもできるイメージがあったから。


「君たちはどうする?」


 広大さんが聞いてきた。


「そうですね……一週間後に帰らなければならないのでそれまでは特になにも」

「か、帰るのですか⁉」

「あ、ああ。帰るよ?」


 キリカが突然突っかかってきた。若干ビビった。


「何故ですか⁉ ここなら傲慢達の手も―――」

「でも、あそこにはあいつらがいるから。俺がここに来たのは逃げるためじゃない。準備のためだ」

「……一体なんの準備ですか」

「それ言ったら絶対に止められるから言わなーい」


 広大さんに顔を向け、


「もし差し支えがなければ、そちらの厄介になっても宜しいですか? 家事もしますし対価も払うので。一週間だけ」

「命の恩人の頼みは断れんよ」


 即答だった。


「ありがとう、ございます」








「それで、あんたが車に乗ってるって訳ね」

「嫌だったか? なんだったら降りて並走するけど」

「そっちの方が嫌よ! ……嫌じゃないけど、なーんか胡散臭いっていうかいけ好かないっていうか」

「それ本人に言うか」


 この人面白いよな。面子を気にするような輩には嫌われるかもしれないけど。物事を率直に言いまくってるからな。


 ちなみに今はぶっ壊れた(正しくはぶっ壊した)車の代わりの車を広大さんが研究所から借りて、それで浅間家の自宅へと向かっている。


「ま、胡散臭いってのはよく言われる」

「あとチビ」

「気にしてるんだから言うなよ!」


 これでも今年で二十だぞ⁉


「ああー、そうだ。忘れてた」


 キリカの手をとって札を貼りつける。


「無の札、八ノ型。言語統一」


 念をこめながら札を撫でるとスッと文字が消えていく。


「……よし。キリカ。なにか話してみろ」

「何をでしょうか」


 そうキリカが言った途端に友里さんが目を丸くする。


「日本語しゃべってる……」

「俺のマジックその2だ。種は明かさないぞ」

「魔法ですか」

「いんや。札術」


 ヒラヒラと使い終わった札を振ってキリカにのみ種明かしをする。


 友里さんは納得いってないみたいだけどね。


「わかんないんだけど」

「わかんなくていいよ」

「酷い。チビの癖に」

「チビは関係ないだろ」


 くっそ、いつか見返してやりたい。けど160から全く伸びてくれない。そして残念なことに吸血鬼になったから成長が遅くなってたなんてことはなんの関係もなかった。


 要は、もうこれ以上どうにもならない。


「これでも伸びた方なんだぞ……! 成長期もう一回来ないかな……」

「マスター。それは無駄な足掻きというものです」

「お前は味方だと思ってたのに……」


 キリカが辛辣だ。泣きたい。


 俺の味方はどこにいる。いや、全面的に俺の味方してくれる連中はいるけどここ最近会えてないし。


 リリスはあっちの世界で没収されて帰ってきてないし、話し相手が極端に減った。


「………家に帰りてぇ」


 ボソッとそう言うとキリカが一瞬泣きそうな表情になった。


「マスター、それは……」

「わかってるって。それ以前にやらなきゃいけないことが沢山あるってことくらい。お前は気にすんな」


 手を振ってそう言うと暫く黙っていた広大さんが口を開いた。


「……二人は恋人同士なのかね?」

「ち、違います! マスターにはソウル様とエルヴィン様とライト様とレクス様が―――」

「えっ、そんなにいるの……?」

「おい待て。俺が浮気してるみたいな言い方やめろ」


 確かに多いとは思うけどな⁉


「それにイベル様というご子息が―――」

「ご子息⁉」

「養子! 養子だから!」


 キリカやめてくれ。このままでは俺がとんでもない屑野郎になってしまう。


 情報としては何一つ間違っちゃないけど言い方が不味いぞ!


「っていうかツキっていくつよ?」

「あ? 今年で二十だけど?」

「………見えない」

「ひでぇ」


 どうせチビで童顔だよ。


「ていうか、チビで童顔で四股かけてて子供がいるって……なんなの」

「誤解過ぎる解釈やめてくれ」


 字面がヤバイよ。俺のメンタルが確実に削られていくのがわかる。


「チビで童顔はもうどうにもならないとしても、四股じゃなくてあいつらが寄ってくるだけであって俺が仕掛けた訳じゃないしイベルの場合は完全に偶々だ! 俺が戦争行ってなかったら遭遇することもなかったぞ」


 そもそも何故イベルが捨てられたのかも謎だけどな。


 なにか事情があったのか、それとも……


 いや、これ以上考えるのは止めておこう。経過がどうであれ、結果として俺の子供なのは変わらないからな。


 親らしいことなんにもしてないけど……。

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