百四十九日目 次元跳躍
受験がヤバイのです……!
ツイッターにも書きましたがこれから週一更新にさせていただきます。
待ってくださる方には相当お待たせすることになりますが、何卒ご容赦を……(´;ω;`)
思いっきり顔面から落下した。土を食べたみたいで口のなかがなんか苦くて気持ち悪い。
「痛っ……。キリカ、無事か」
「は、はい。なんとか」
ルーンで出した水で口をゆすぎ、体の調子を確かめる。
「重傷、まではいかないが軽傷どころじゃないな、これ」
投げナイフが五本、それと自分の起こした爆発であちこち焦げてる。そして頭が軽い。
「何故、髪を?」
「理由はそのうちわかるさ。それよりとりあえずここを離れてもう少し開けた場所にいこう。何が出てくるかわからん」
さっきまで変な部屋にいたんだけど、今は鬱蒼としている森のなかだ。自分でやったことだが、ここがどこかわからない。
とりあえずナイフはそのままにしとこう。見た目ほど痛くない。見なきゃそこまで痛くない。うん。多分。
今さらだけど俺あんまり血は得意じゃないんだよ。
キリカの肩を借りながら俺の勘に従って歩く。
「マスターは」
「ん?」
「私が来るとわかっていたのですか」
……そうだなぁ。
「まぁ、ね。話し方から見てわかると思うけど俺って家庭環境ちょっと複雑でさ。色んな人を見てきて『悪意』と『善意』くらいはなんとなく見抜けるようになった。人間不信にはなったけど」
頑なに自分のことを私と言わないのもその理由のうちのひとつだったりする。
私という一人称は、あまり好きではない。悪意を滲ませて俺に話しかけてきた人達がよく使っていたからだ。
自分のことを単純に私って言いたくないってのもあるけど。
「……抜けたな」
「空が見えますよ」
森の終着点は崖だった。けど周りがよく見えるので休憩にはいいかもしれない。
「キリカは善意しか感じなかった。……だから信じた。俺を捕らえたのも、俺を守るためだったりするだろう?」
「なにを……」
「全くの検討違いだったら悪い。が、キリカは俺を助けてくれた。今はそれだけで充分過ぎる気もするよ」
正直、最初に襲ってきたのがキリカで良かったと心から思う。
もし傲慢と強欲だったら抵抗できずに精神支配なりなんなりを受けてるだろうし、正義だったら生存すらも怪しい。
「ちょっと質問させてくれ。ウィルドーズでの襲撃事件、あれも七騎士だよな?」
「はい」
「魔大陸の瘴気溜りも七騎士の仕業だよな?」
「はい」
やっぱりな。どうも手口が掴めなかったし、俺の弱体化もその時期が一番酷かった。
誘き寄せてきたのか、それともやつらの計画に俺が偶々何度も首を突っ込んだのか。どっちも有りうる。
やつらの計画で引き起こされた事件はどれも国家間で大問題になるほどのものだ。なら最終的には俺が行くしかない。
そういったことの処理は基本俺が請け負うことになっているからだ。これも戦争の抑止に一役買っていたりする。
神出鬼没に事件を解決していくからこっそりと悪さが出来ないらしい。この前の会議で、そうなのか? って言ったら全員が黙った。
「そこは予想通り、だな。う!」
「動かないでください。血が余計に出ます」
「もっと優しくしてくれるとうれしいかな……」
ナイフを引き抜いて回復魔法をかけながら手当てをしてくれるキリカ。
「うん」
「なんです?」
「やっぱり善意しか感じない」
笑ってそう言うと恥ずかしそうに目を逸らして傷口に包帯を巻くことに集中した。
「それでここは? あの部屋ではマジックアイテムを使っても転移は不可能では?」
「ああ。転移は転移なんだが、俺が発動したのはちょっと違う」
勿論、転移の魔法も魔導具も魔法具もあの部屋でスクロールを取り出した後に試してみたが、ウンともスンともいわなかった。
反応すらしてくれなかった。予想通りだったので特に驚かなかったけど。
「これさ」
ポケットからもうボロボロになったペンを取り出した。
それのペン先を外して中をキリカに見せる。
「ルーン、ですか」
「そうだ。こうなることを予想して二ヶ月前から準備してた。ちょっと間に合うか不安だったからスクロールを大量に書く振りをして」
スクロールの紙の下でこっそり、ペンの軸の裏側に魔法を発動させるための術式を仕込んでいた。
ここ最近減り続けていた魔力が全部戻らないと発動できないくらいの大魔法だから、最悪ただのゴミになる可能性もあったけど。
「魔力が吸いとられているのはわかっていたから、それを取り戻さないと話にならないけどね。それと、供物」
「くもつ、ですか」
「本来、命や魂を使って発動する魔法だ。だが、魔力の多いやつの一部なら代用が利く」
「あ、だから髪を」
「そうだ」
俺の魔力は戻った瞬間に髪や爪にさえ流れることになる。
その髪を根本からバッサリ切ったら相当な魔力を含んだ供物の代わりになる。足りない可能性もあったから博打もいいとこだけどな。
「それで、この魔法とは一体? 転移とは違うのですよね?」
「まだ、名前はないよ。俺がソウルとイベルの為に作っていた魔法。それの副産物ってやつかな」
副産物と言うより、失敗作に近いな。
「そうだな……一先ずこの魔法の名前は『次元跳躍』とでも言っておこうか。これは魔法ではあるものの、供物さえあればそこまで魔力は必要ないからどちらかといえば職業の限定スキルによく似ている」
職業の限定スキルとは、その職業のレベルを最高にまで上げたときに使えるようになる特殊技術だ。
ただ、変更するまで今なっている職業のものしか使えない。だから俺は聖騎士のレベルは最大ではあるが、今は吟遊詩人の限定スキルしか使えないんだ。
変更すれば使えるけどな。
魔法との大きな違いは魔力消費の少なさと再発動までのクールタイム。
魔法の場合、自分の魔力のみで事象を起こすのに対し限定スキルは条件さえ整えば必要魔力はほとんど要らない。まぁ、どんなものかにもよるけど。
例えば吟遊詩人の限定スキル『快活の歌声』は歌声に魔力をのせて効果を増幅するものだ。回復の魔力をのせれば声の聞こえる範囲内の人を癒したりすることもできる。
どれだけ人数が増えても声さえ聞こえれば効果範囲内だが、敵にも有効なので気を付けなければならない。
それと限定スキルには珍しく、回数制限がない。
ただ、歌っている間はなにも出来ないのが弱点だ。
奉仕者の限定スキルは『絶対防御』だ。メイドにバリバリの体育系能力が備わっているのはちょっと気になるところだが、キリカはじめうちのメイドメンバーは皆ちょっと怖い。
これがメイドの基準なのかは知らないが、どこも似たようなものなのかも。
……まぁとにかく。絶対防御は日に二回どんな攻撃からも主人を守れるという能力だ。
そう。主人だけ。
いや、自分を守れよと言いたい。
折角強力なものなのにまさかの自分には効果がないという。
「マスター?」
「あ、いや、うん。なんでもない」
いかん。思考が変な方向に逸れていってしまっていたらしい。いつの間にか手当ても終了していた。
「さっきの続きだけど。ここは異世界だ。ただ、どこの異世界なのかはさっぱりわからん」
「転移とはいえない、とはそういうことだったのですね」
「そう。転移はちゃんと座標を意識しないと飛べないけど、次元跳躍は適当に別の場所に移動するだけなんだ。だから飛ぶ、じゃなくて跳ぶ、んだよ」
飛ぶためには色々と準備をしなければならない。どれくらいの距離なのか、どの辺りに着地するのか、高度はどれくらいなのか。
全部面倒な計算が必要だ。
だが、跳ぶということはそれを一切無視し、ただとりあえず安全そうな場所に着地することのみを追求したものだ。
当然転移より跳躍の方が簡単だ。跳躍の場合、安全装置を一個つけるだけで終わるからな。どこにつくか検討つかんけど。
「この魔法の再発動までのクールタイムは一週間。七騎士から逃げるのは無理だと思う。あいつらの目の届かない間に準備をするために跳んだんだ」
その為だけに今回は逃げ出した。多分あいつらなら地獄の果てでも追ってくるだろうし、次に捕まればもう本当におしまいだ。
「殺られないための準備じゃなく、殺らないための。な」




