百四十六日目 ロアルト?
扉のなかには俺も見たこともない魔物が鎖に繋がれていた。
唸り声をあげながら必死に抵抗しているが、鎖が頑丈らしく全く動けていない。
「強欲、怠惰、色欲はいらっしゃいますか?」
「あ? ああ……正義か。全員いるぜ……。そいつが、暴食か。いや、節制だったか?」
「どちらでもいいですよ。例のものを試しにきたんですが」
「あー……あれか」
「完成しています?」
「強欲が作ってたかなぁ……。多分」
話しぶりからして色欲か怠惰か。
多分怠惰っぽいけど。色欲って感じしないし……。
俺も足の使い方になれてきたからか、ゆっくりなら支えなしで立てるようにはなってきた。
「そうですか。強欲ー! どこですか?」
「なんだなんだ突然。……ああ、暴食か」
出てきたのは、ライトと買い物に行った時襲ってきたキメラ人間だった。
相変わらず気持ち悪い。
「……久しぶりだなぁ、白黒のブラック」
「そうだな。正直、二度と会いたくなかった」
「ハハッ、それは残念だったな」
絶対心にも思ってないこと言ってるが、まぁ、それはどうでもいい。それより。
「呪い、解呪して欲しいんだけど?」
「それは無理だ。傲慢から指示が来てない上にまだ仲間とはいえない信頼関係だからな」
「こんな事しといて信頼? どうやらそちらさんの脳みそはスポンジみたいにスッカスカかほぼ百パーセント砂糖水で構成されてるんじゃないのか? 一度医者に診てもらうことを勧めるね」
俺の舌絶好調だな⁉
さっきから煽り文句大量に出てくるよ。
「聞いた話によれば白黒も医学知識があるらしいが?」
「ハッ、誰が診察してやるかよ。そもそも人外は専門外なんでね」
なんだか妙に腹が立つ。疲れてんのかな……。
ここ数日満足に動けていないからストレスが溜まっているのかもしれない。
「相変わらずの憎まれ口だな、グリフ」
「ハァ? 誰だそれ? 頭にとうとう穴でも空いたかロアルト。……? ロアルト……?」
え? 誰だ。
ロアルト? ちょっと待って俺そんな人知らないぞ。
少なくとも知り合いにはいない。職業柄、名前は覚えるようにしているのに。
何かの拍子に誰かの名前が出てしまうことはないわけじゃない。
学校の先生をつい「お父さん」と言ってしまうのと似てる感じだ。
でもそれは呼び慣れてるからそう呼んじゃうだけで、知りもしない名前がスッと出てくるなんて早々ない。
いや、でもどっかで聞いたかもしれない……。
「強欲……の、ロアルト・グレイブ……?」
そうだ。この名前はエルヴィンから教えてもらったはずだ。
暴食のグリフ・ファルフィ、節制のエルメニア・レイクと同じ土地神の一柱……。
でもそれがなんで今出てきた?
あれ……本当にエルヴィンから聞いたのが最初だったか……?
頭痛くなってきた。とうとう狂ったかな……。
「微妙なところで連れてきたな、正義」
「馴染んでないと思ってたんですけど、そうでもなかったですかね?」
「そうだな。今あれを使ってもたいした結果にはならないだろう」
微妙なところ? なにが?
あ……? 俺、何をするべきなんだっけ……
「混乱してるっぽいな……。今はどうにもならんだろ……」
「そうですね。では後日改めて」
俺にわかるように説明してくれ……。
「正義っ!」
そこに突然バケツを手に持ったキリカが来た。花壇を荒らされた時くらい怒っている。
「何故、私の許可なくマス―――暴食を外に出したのですか‼」
「勿論国の動きに対抗するためです。暴食が消えたと国王には既に知られているらしいですし、計画を前倒ししても問題ないかと思いました」
「暴食の相棒は私です。それは私が決めることです」
なんで喧嘩してるんだ……? 俺の事で揉めてるのは確かだけど、内容がさっぱりわからない。
「帰らせてもらいます。正義。次同じことをしたらどうなるか、わかりますよね?」
「……はいはい。わかりましたよ」
なんだか考えるのも面倒くさくなってきてボケッと突っ立ってたらキリカに手首を掴まれてぐいぐい引っ張られる。
左足でつまづきそうになりながらも必死でついていくとある程度進んでからは突然俺のスピードに合わせてくれるようになった。
……やっぱり、そういうことなのか?
「……申し訳ありません。相棒でありながら、相方の身を守るという基本的なことができませんでした」
「そきうす……? ……ああ、俺の場合本来の相棒がいないからな」
先を歩いていたキリカが足を止めてこっちを見てきた。
半ば絶望した時みたいな表情だ。
「まさか……」
「どうした? 俺の顔に虫でもついてる?」
「相棒という言葉を知っているのですか?」
「ん? ぁ……? 知ってる、のか?」
いつ、どこで、何で知ったのかは全く思い出せないがその言葉は知っている気がする。
確か……そうだ。
「仕事の相棒、だったか」
「私の名前は、覚えていますか?」
「え? キリカだろ? いや、それより前の名前は知らないが」
キリカという名前が妙に和風なのはソウルが付けたからだ。
元々奴隷だったキリカはもとの名前を名乗ることを禁じられてたから、仮でとりあえず付けたんだけど本人がこれで良いって言うからキリカになった。
俺が名付けした人はシシリーとかだな。
あの時は助けた人の人数が多すぎてローテーションで名前考えてたんだよ。
「これをつけたのは?」
「ソウルだったよな?」
「……まだ、大丈夫そうですね」
「なにが?」
さっきから意味深発言が多すぎて俺のちゃっちい頭じゃ容量が不足してるんだけど。
なに、俺死ぬの?
近々殺される予定なの?
あり得ない話じゃないけど、わざわざ生け捕りにして捕まえようとしていた相手をそんなに時間たってないのに殺すってのはおかしいか。
「いえ。気にしないでください」
そう言われると気になる。すごく気になる。
けど今はどうやら話してくれそうにない。
「じゃあキリカが言ってくれるまで待つことにするよ」
「そうですか」
そっけない返事だったけど無視されるよりかは良い、かな?
この前始めたTwitterに設定画を載せてみました。転生前のブランです。転生後、というか現時点での絵もその内載せる予定。
髪や目の色、小物なんかを描写するときに忘れないようにと基本どの作品も主要キャラの外見は絵を描いておいてあります。
あ、作者のブランのイメージってこんな感じなんだね? とか知りたい人は@kou_tatumokuで検索してください。




