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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百四十五日目 十秒あれば


ーーーーーーー≪キリカサイド≫


 マスターを連れてきてから二週間近くが経ちますが、マスターはいまだにベッドの上から動く気配を見せません。


 これは少し予想外です。


 目が覚めて直ぐに逃げ出すかと思っていたのですが、足の痛みが殆ど引いても動き回ろうとしないのです。


 普段なら『寝転がっていた方が体に悪い気がする』などと滅茶苦茶なことを言ってたとえ止めてもどこかに逃げ出すのですが。


 ここまで動き出さないのは逆に不自然です。なにか私の考えすら及ばない突拍子もないことを考えているのか、もしくは本当に諦めているのか。


 後者は恐らくないでしょう。諦めるというのは最終的に七騎士の一員になることを承諾するということですから。


 では、前者はどうでしょうか。


 確率的には九割九分なにか脱走する手段を考えているでしょうね。マスターの知識は強欲が驚いたように底が知れません。


 実際の戦闘能力や勘の鋭さ、魔力の多さだけでなく、ありとあらゆることに関しての知識量もマスターの武器です。


 特に、ルーンの知識は凄まじいの一言です。


 魔法を発動するためだけでなく、魔導具にそれを仕込んだり、魔導具のルーンを見ることでそれの使い方までわかってしまうので下手に道具を見せられません。


 しかも自分でオリジナルの魔法を作ってしまうのですから恐ろしい。いくら対策を施しても足りないとすら感じます。


「……なぁ、キリカ」

「……なんです?」


 反対側を向いていたマスターがこっちに振り向きながら声をかけてきます。おなしな返答をしてしまわないよう、最低限の会話しかしないと決めてはいますが、マスターの頭の回転速度は異様です。


 どうやって誘導尋問されるか判らないので慎重にならなくては。


「俺、これでも情報屋の端くれだからさ。なんとなく状況も理解してるんだけど。ひとつ言っておかなきゃいけないことがあるんだ」


 ……?


「俺は十秒あれば、人の運命くらい変えられるよ」


 それは、一体……


「……なんの話です?」

「なんの話だろうね? 覚えておいてくれればいい」


 そう言って再びこちらに背を向けました。


 マスターはいつも意味深なことをいいますが、その詳しい内容を説明しないことが多いです。


 それが無意識なのかわざとなのか解らないのもまた警戒すべきところでしょう。







ーーーーーーー≪ブランサイド≫







 さて、最悪なことに足も俺に定着してきたことだし。


 ごろごろ生活を止めなきゃな。太るし。


 戦闘の勘も鈍る。


 それにしてもこの左手の包帯、相当ガッチガチに巻かれてる。


 これ気になって仕方ないから外したいんだけど……。


 ………無理だよなぁ。


 これを外すってのはつまり武器をいくらでも補充できますよっていうことになるし。


 右手で引っ張ってみるがびくともしない。どうやって結んでんのこれ? 流石キリカ。敵を称賛してどうすんだって話だけどね。


 ちょっとこう……長い間引っ張り続けてたら弛んだりしないかな。


 お? なんか弛んだ気がする!


 かもしれない!


 全力で引っ張っていると足音が聞こえてきたので直ぐにやめる。確実にこちらに近づいてきている足音だ。


 静かに扉が開く。ちなみにキリカは今足に当てる氷を補充しにいっている。この部屋はどうも魔法を阻害する効果があるみたいで、別の部屋でそれをやっている。


 知らない足音に顔をあげてみると、どこか見覚えのある女の子だった。


 ……どこで会ったっけ?


 ………あ。


「お久しぶりです。白黒の情報屋さん」

「君は確か冒険者ギルドで一度手合わせした……」

「その節は勉強になりました。『正義』です」

「……七騎士だったんだね」

「はい。騙してごめんなさい」


 彼女は、孤児院のゼクスと一緒に冒険者ギルドに行ったときに偶々居合わせて模擬戦をすることになった子だ。


 やけに強いと思っていたんだけど。


「あの一戦は俺の戦闘力を見るため?」

「それもありますが、貴方(・・)が贔屓にしているあの孤児院を調べに行ったんです」


 その言葉に怒りを覚え、自分でも驚くくらい声が低くなった。


「……ゼクス達に手を出したら貴様ら塵の一片すら残らないと知れ」


 無意識にぶちギレているのか、普段は全く使わない言葉が頭に浮かぶ。


 普段は貴様なんて絶対使わない。


 エルヴィンの口調がうつったのかな……。


「はい。手は出してませんし、出す気もありません。ただ、調べに行っただけですから」


 自分でも怖いと思うくらいドスの効いた声で脅したのに彼女は満面の笑みを崩さない。


 キリカとは系統の違うポーカーフェイスだ。


 彼女は突然俺の腕を掴んできた。


「では行きましょうか」

「な……」

「ほら、立ってください」


 ベッドから下ろされて久しぶりに床に足をつける。


 異形になった左足がかくんと折れ曲がった。


「え? あ? 力が……」


 どうやって立てばいいのかわからない。


 どこに力を込めればいいのか感覚が掴めない。


 爪先か? 踵?


 膝には力いれるんだっけ?


「くっ……!」


 とりあえずベッドに掴まりながら足の先をつけながらバランスをとる。


 なんか凄いぐらぐらするんだけど……。安定感ない。


「さ、行きますよ」


 行くってどこに⁉


 プルプルしながら壁づたいに進む。まだ支えがあればなんとか歩けるな……。


 ただ、慣れないからか妙に疲れる。


「ここです」


 なんか趣味の悪い扉だな。ギンギラギンなんだけど……。しかも品のあるキラキラじゃなくてどぎつい感じの。


 中から薬品の臭いも漂ってくる。


 ……Uターンしてもいい?

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