百四十四日目 ブランの置き土産
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投稿頻度は少ないと思いますが、小説の中でカットしてしまったものの軽い解説や何時にどの小説を投稿するのかとか呟く予定です。
詳しくは活動報告をみてくださればと。
ついったーは@kou_tatumokuで出てくるだろうと思います(使い方よくわかりません……)
ーーーーーーー≪エルヴィンサイド≫
とりあえず家族には連絡を入れるべきだろうという話にはなったのでイベルに今回の事をメイド経由で連絡した。
通信機を使わなかったのは会話を盗み聞きされる可能性があったからだ。
王族に渡しているブランが作った映像も送れる特別製通信機は外交にも使えるよう様々な魔法と工夫を凝らして魔法を使っての盗み聞きは出来ない仕様だ。
だが、それは容量が大きすぎるらしく持ち運びには適さない。なので小型の通信機を各々に配っているのだが、これは軽量化と使いやすさに念を置いたので通信の魔力波(ブランは電波と言っていた)が途中でキャッチされてしまうと会話が丸聞こえになってしまう。
やはりどれだけ便利な道具があったとしても最終的には人が一番信用できるということなのだろうな。
連絡を入れて直ぐ、イベルがこっちに来た。
転移陣を渡ってきたことを考えると話を聞いてそのまま飛び出してきたくらいの時間差だ。
「イベル。……もう来たのか」
「ブランが捕まったって聞いたから……」
間違ってはないが、その言い方だとブランが指名手配犯みたいだな………。
「ブランと最後に会った日、これを渡されたんだ」
「それは……?」
『ブランの棚の鍵じゃない』
「ピネ、知っているのですか?」
『だって何回か見たことあるもの。何が入ってるかまでは知らないけど』
ピネはよくブランと一緒にいる。その情報に間違いはないだろう。
「この棚の中身を俺に譲るって……」
全員でブランの部屋に入り、棚を探す。
「あ、ここだ」
ソウルが小さな鍵穴を指差す。イベルは鍵穴に鍵をそっと差し込んで回した。
抵抗なくカチリと音がして棚が開く。
「「「……紙?」」」
丸められた紙だ。広げてみると、魔方陣がビッシリと書き込まれている。
特殊なインクと紙で書かれたそれは、魔力さえ流せば今すぐにでも発動可能だ。スクロールの一種といえるだろう。
ただ、普通のスクロールとは桁が違う魔法が込められているのは確かだな。
底の方にノートがあった。
中を捲ってみるが何て書いてあるのかまるで判らない。ライトもピネも同様に首を捻っている。
ただ、ソウルとイベルだけがそれを穴が開きそうなほど真剣に見詰めていた。
「何て書いてあるんだ?」
「……僕とイベルに向けての言葉です。違う世界出身の、僕らに」
なに? ブランとソウルがそうなのは知っていたが、イベルまで異界の人間だったのか?
『内容は?』
「元の世界への帰り方、ですね」
それは……なるほど。道理で私たちになにも知らせていなかったわけだ。
これが広まったら戦争どころではすまないだろうからな。
この世界の常識を大きく覆しすぎている。
「できるのか?」
「そのためのスクロールらしいです。ご丁寧なことに僕かイベルの魔力じゃないと反応しないみたいですし」
だが、それはどうなのだろう。
「どうする?」
「帰りませんよ。少なくともブランさんがいなければ帰る気にはなりません」
きっとブランはこうなることをわかっていてイベルに渡したんだろうな。
もしソウルや私達に鍵を渡していた場合、キリカに鍵の居場所、異界への渡航切符が気づかれてしまう可能性が高い。
寮で暮らしているイベルならその可能性も低い。
だからこそ、
「本当にいいのか? ブランはお前を逃がすためにわざと置いていったのだろう?」
絶対そうとは言いきれないが、多分そうだ。ブランは自分がやつらの手に落ちることを知っていて、回避できないことにも気付いていた筈。
もしそうなってしまった場合ブランを動かすために狙われやすいのは恋人である私達、特にソウルだ。
ブランはソウルを助けるためなら死ぬことすら厭わない。
人質に取られたら抵抗はできなくなってしまうだろう。
「今の内かもしれんぞ」
「そうであっても、ブランさんがいない場所に行ったってなんの意味もありませんから。エルヴィンさんもライトもそうでしょう?」
「まぁ、そうだが……」
「ええ」
結局、私達は似た者同士だからな。
考え得ることは皆同じだ。
「イベルはどうする」
「え?」
「帰りたいか? 残るか? 私は前者を勧めるぞ。最高戦力であるブランが敵の手の内にある以上、戦争が起きるかもしれないからな」
『そうなったら、私達全滅するからね。早めに避難しておくべきだと思うわよ』
全滅覚悟だ。ブランと本気で戦うことを前提とすれば、国の一つや二つはものの数分で消滅させられてしまう。
どこが戦場になるか判らないから、絶対に飛火しない場所に逃げた方が賢い選択だ。
私達は賢くないからな。ブランに殺されるのをのんびり待つさ。
「ブランには悪いけど……ここに残るよ」
「何故です? 主の強さは息子のイベル様もよく知っているでしょう?」
「うん。でも俺の家はここだから」
……そうか。
『ねぇねぇ! ノートの裏に鍵が挟まってたよ!』
「主らしいですが……今ここでやられると呆れるしかないと言いますか」
確かに。
いつもの悪戯も状況が緊迫しているだけあって今回ばかりは不評だ。
「あ、これ僕見たことありますよ。地下に置いてあるの箱の鍵です」
ソウルがそう言ったので早速地下に向かう。
「ここに入るの始めてだ」
イベルは基本入れないようにしていたからな。
ブランは本気でイベルに後を継がせたくなかったらしい。
地下はブランの仕事部屋だ。薬品の瓶が置かれた棚に、作りかけの通信機。アニマルゴーレムの製造と修理もここで行っている。
簡単な点検くらいなら庭先でやっていることもあるが、足がとれかけてしまったり中に溜められている魔力が何らかの不具合で外に漏れ出してしまったりしたときは大抵ここで修理している。
壁には大きな世界地図とメモが大量に貼られている。ブランの癖で重要な情報のメモを貼るときはいつも壁だ。
中心に置かれた机にはペンや紙が乱雑にばら蒔かれてある。
机はL字形で机の折れ曲がっているところには一抱えもある平らな石が立ててある。
「あの石はなに?」
「あれで情報を受け取っているのだ。ブランはこの地下から外にはなるべく情報を形で持ち出さないことを心がけているからな」
「どういうこと?」
「あれに集められた情報が表示され、ブランが全部暗記しているということだな」
本当に、ブランの覚えの早さは羨ましい限りだ。
「あ。ありました!」
ソウルが何か紙の山を漁っているかと思ったら両手で包み込めそうなほど小さな箱を引っ張り出した。
そのせいで紙の山は見事に崩れていったが、見なかったことにする。直すのも大変そうだからな……。




