百四十三日目 寂しい……
僕らはそれから、各国の王族とネットワークに組み込まれている人にのみ今回の話をすることにした。勿論、他言無用とは言ってあるけどいつまで隠せるかはわからない。
急遽話さなければならないことがあると王族に告げ、一斉にアクセスしてもらうことにする。
こういう大事な話は全員で集まって話をした方がいい。
ブランさんがよく言っていたことだ。
もしそのうちの何人かが裏で繋がっていたとき、口裏あわせをさせない為に。
多分大丈夫だとは思うけど、敵に繋がっている可能性がゼロではないからこうするのが一番だ。
『おお、ソウル殿か。我らを一斉に呼び出すとは何があった?』
目の前のスクリーンに各国の王族の顔が写る。テレビ電話そのものだ。ブランさんもこれをテレビ電話って言ってたし。
「緊急事態です。これから話すことはなるべく広めないことを約束していただけますか?」
『それは勿論構わないが……。まさかブラックの情報網がバレて追われている、とかではないだろうな?』
あっているようで間違っているかな……?
「キリカ……メイド長が裏切りました」
画面の向こうがざわつく。彼らは皆、キリカのことをよく知っている。ブランさんだってキリカとはよく行動していた。
『情報が洩れていたのか?』
「いえ。もっと悪いことです」
『殺された、のか?』
『それはないじゃろう。あのブラックのことじゃぞ?』
「……わかりません」
無事かどうか、それはわからない。ピネもライトさんもいるから死んではいないはずだけど……
僕は事の顛末を話した。全員が数秒黙る。
『………もし、もしもだぞ? ブラックが敵に回った場合、五大国連合が戦うことになると何分持つ?』
『そうじゃな……。ブラックは人を殺すのを良しとしていないが、精神支配を受けていたらそうも言ってられないじゃろうな』
『多目に見積もって……30分が限界かもしれないな』
そう。ブランさんはいつも手加減をしている。
だから制限をなにもかも外して殺す覚悟ができてしまった場合、被害が甚大になるのは簡単に予想できる。
しかも範囲攻撃系の魔法が得意だから全滅の可能性はより多くなる。
『足取りは掴めていないのか』
「はい。転移の道具で逃げられて、そのまま……」
転移の道具には残り香がある。残り香というより残り魔力といった方が正しいかもしれないけど。
それを辿れば理論上は何処に飛んだかわかる。
そう、理論上は。
見付ける方法は今までブランさんの嗅覚が頼りだった。
元々常人の数百倍の感覚を持っているブランさんが節制というスキルで更に感覚系の能力が底上げされ、本来無臭であるはずの魔力の臭いに気づくことができる。
ブランさんがそこまでしないとわからない臭いを僕たちがなんとか出来るはずもない。
それに、キリカも残り香さえあれば追うことが出来るとわかっているからきっと何かしらの対策はしてあるだろう。
「とりあえず追跡はしてみますが、どこまで追えるか……」
『こちらでも出来る限りの協力はする。ブラックのことを頼んだぞ』
『なにか進展があったら個別にでいいので教えてくれ。私も密偵で探ってみるとしよう』
守銭奴だなんだってブランさんはよくからかわれているけど、ちゃんと慕われている。
この人たちが高いお金を払って情報を買っているのは、ブランさんへの信頼関係があってこそだ。
最初は正確な情報を得るためだけの付き合いだったとしても、あの人はそれを気兼ねない友達という枠組みに収めてしまうことができる。
端から見れば距離感の掴めないちょっとアホな人っぽいけど各国の王族をそうやって味方につけていくのは間違いではなかったらしい。
「よろしく……お願いします」
回線を切って、大きく息をはく。
今度は僕たちの番だ。
いつも助けられてばかりじゃ、どっちが男なのかわかったもんじゃないし。
「絶対、助けます」
ーーーーーーー≪ブランサイド≫
……暇だ。
いや、正確に言えば暇だなんだって言ってられない状況なのはよくわかってる。
でも暇だ。ここ数年忙しすぎてここまで暇な時間なかったから逆に苦痛。
いつもなら仕事でも片付けているんだろうけど、書類どころかここは自宅じゃない。
こう見えても俺ちゃんと仕事してるからね⁉
給料の分配とか俺が決めてるし財政面もちゃんと働いてるからね? これでもそれなりの資産家だよ?
もう一生遊んで暮らせるぜ、とは言わないけど。
財産的には十分遊んで暮らせるくらいの分がある。けど俺が払う給料でなんとか食っていっている人もいるわけで。
そうなるとその人たちに給料払うだろ? どんどんこっちの金がなくなるんだよ。で、結局働きづめなんだよね。
金が入ってもどんどん流れていくとは。
大企業の社長ってなにしてるのか想像してなかったけど結構大変なんだね。金の動き見てるだけで疲れるよ。
お金大好きってわけでもないし。好きの分類には入るけど有り余るほど欲しいとも思わないんだけど。
物がある程度手にはいればそれでいいと思う。俺どっちかと言えばミニマリストだし。
「ふぅ……」
そういえばそろそろ喉も乾いてきた。左手がぐるっぐる巻きになってるから血のはいった水筒も取り出せないし、水じゃその場凌ぎにすらならない。
人間と吸血鬼は体の作りが似ているがこの吸血衝動だけはなんともならない。
俺にとっての食事が吸血なんだから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
キリカは今も真横の椅子に座ってこっちを見ている。っていうかずっと見てくる。
ここまで真顔で無反応だとちょっと怖い。
いや、ちゃんと動いてはいる。ただ、怖い。
食事(血ではない)や足を冷やすための氷その他は持ってきてくれるし、着替えとかもしてくれるけど、ただひたすら無言。
話しかけても無視、若しくは冷やかな視線を送られる。
たまにひと言話してくれることはあるけどそれだけだ。
……寂しい。横に人がいるのに人が恋しい。
俺コミュ障なのに……。




