百三十六日目 殴り込み
オークロードを倒すためにはまずその配下の軍勢を倒さなきゃいけない。だとするとやっぱり男三人に任せればいいのか……?
「レベル的には問題ないだろうけど……」
『私たちのレベルってどれくらい?』
「ピネは確か83だろ? ソウルは忘れたが、俺は250だ。もうこれ以上上がらん」
ジョブによって最大レベルは変わってくる。簡単なものは50でカンストするし、複合職だと300のものだってある。
とはいえジョブの多彩さを楽しむゲームだったし、レベルの上がりは他のゲームに比べてめちゃくちゃ早い。
じゃなきゃ全部のジョブカンストとか普通出来ない。
「うちのメイドだと平均で70くらいかな? 一般的な冒険者は30くらいじゃないかと思う」
『そりゃあ強いわけね……』
「だな」
数秒考えて結論を出す。
「エルヴィン。ソウルとライト、騎獣としてレイジュを連れて殲滅に当たってくれないか? 最悪オークロードに奇襲をかけてくれれば俺達でも対処できるからな」
「了解した。では話してこよう」
ソウル達は別の馬車に乗っている。エルヴィンは馬車からおりてそこに向かった。
さて、魔法が切れるまでにギリギリまで情報収集しておかないとな。
上から見えるのは……オークの上位種、弓持ち、魔法使い、盗賊辺りか。
他にもいるかもしれないがオークロードが50匹、とかじゃなければソウル達でも十分対処可能だ。
「ん? 血の痕か?」
何かが引きずられた痕が南側の簡素な小屋にのびている。小屋っていうか木の枠を布で囲っただけなんだけど。
獲物の解体小屋かな。
ちょっと気になったのでズームしてみる。すると、そこから一瞬人間の手が見えた。
「おいおいおいおい……既に数人捕まってるじゃないか……」
手からして女性だった。直ぐに引っ込んだってことは中に引きずり込まれたんだろう。
どうする。小屋の大きさ的に捕まってるのは十人もいないだろうが、先にオークロードに奇襲をかければ人質に取られるかもしれない。
だが、あっちは南だ。俺達の方からすると真反対。そこにたどり着くまでに見つかる可能性もあるし、それ以前にその人たちを避難させなきゃいけない。
それだけのことを三人プラス一匹では不可能だ。
俺みたいに特殊系統の魔法が得意なやつがいるならまだしも、うちの男勢は良くも悪くも一点型。
ソウルは氷と回復、ライトは電気、エルヴィンは強化と闇。
しかも全員空間が苦手ときた。
「スクロールを渡すか……? いや、でもそう何度も使うつもりなかったから四枚しかないし」
特殊系統の魔法はスクロールにするとちょっと消費魔力が増える。勿体無いから殆ど作ってない。
普通にオークロードのスキル範囲内だから俺達がこそっと行ってこそっと帰るって手は中々難しい。
「主。オークロードと聞きましたが」
「ああ。あっちに集落がある。だが、南の小屋に人間がいる事がわかった」
「人間ですか……」
エルヴィンがライト達を引き連れて戻ってきた。因みにレイジュも一緒だ。
「なんとかして助けてやりたいが、三人だとキツいだろうな」
俺がボソッと呟くと、ソウルがふふんと鼻をならした。
「僕たちを侮ってもらっては困ります! それくらいのこと今すぐにやって見せますよ」
「えっ? いや、人数的に難しいだろ……」
「でもブランさんなら一人で出来るでしょう?」
……転移とスキル駆使すればできると思うけど。
「多分。でもそれは」
「ブランだけが異常だとは思うなよ」
エルヴィンが俺の鞄からスクロールを数枚取り出してベルトにくっついているケースにしまう。
束の状態のやつだったからなんのスクロールかは見えなかった。
「主。我々にお任せを」
三人ともやる気満々だな。ここまではりきってるのは珍しい。
様子を見て援軍等は検討することにするか。
「わかった。そこまでいうなら任せる。けど危ないと思ったら即座に引き返すことは約束してくれ」
「はい」
レイジュに荷台をくっつけて三人をそこに乗せる。念のためにアニマルゴーレム小鳥ちゃん2号改をレイジュの頭に乗っけた。
ガラガラと音を立てて去っていく。大丈夫だとは思うけど、心配せずにはいられないな。
ーーーーーーー≪ライトサイド≫
「では、今の作戦で」
「ああ。任せろ」
「わかりました」
主のゴーレム、小鳥ちゃん2号改は今だ起動していないらしく静かにレイジュの頭に留まっています。
まだ着くのはもう少し後なので消費魔力を極力減らすためどうでもいい時間は切っているのでしょう。
「オークロード。伝説の魔物かと思っていたのだがな」
「ご存知なので?」
「まぁな。何十年も前の文献に一度だけ出てきた」
エルヴィン様がため息をつきながら続けます。
「オークロードにもなれば外見も圧倒的に違うと聞く」
「ええ。人間に相当近いですよ」
「ソウル様はオークロードを見たことが?」
「一度だけですが」
なんと⁉
「実物をか」
「はい。僕らが発見したのは4年前です。オークロードによって個体差はあるらしいですが僕らが遭遇したのは魔法使いよりのオークロードでした。闇系統の魔法を使ってきた覚えがあります」
闇ですか。まぁ、闇ならばエルヴィン様が得意としているものなので問題ないでしょう。
そんな風に話をしているとレイジュが小さく鳴き声をあげて音がでないよう静かに走り始めました。
「ここからもうオークの支配域なんですね? レイジュ」
「クルルルル……」
互いに顔を見合わせて各々周囲に警戒をし始めます。数秒後、小鳥ちゃん2号改がピクリと動き出してこちらに振り向き、パタパタと静かに羽ばたいて空に飛んでいきました。
「では、いきましょう!」
殲滅能力が高いのは魔法の扱いに長けたソウル様です。
そして私とエルヴィン様は魔法も接近戦も得意とします。
単純な戦闘力としては私が一番高いでしょう。なのであえて私は人間の救出に向かいます。
お二方には直接オークロードを攻めていただいて、その間にレイジュと共に小屋に向かいます。
「氷の千本槍!」
ソウル様が荷台から飛び降りつつ氷の範囲魔法を放ちます。とりあえずはあれで一時的にではありますがにこちらの警戒は緩むでしょう。
もし固まったとしても問題ありません。
「オークごときが。主の目に触れた時点で貴様らの死は確定だ。私の主が楽しめるくらいには足掻いて見せなさい」
氷の槍に驚いて飛び出てきた愚かな豚共にたっぷりと恐怖の味を染み込ませてやりましょう。
「クカカカカッ! 今日は気分がいい! 仕事を終えたら存分に遊ばせてもらいましょうかね!」
ソウル:「あ、ちょっとやり過ぎたかも」
エルヴィン:「獲物が減った……」
ライト:「クカカカカッ‼」
ブラン:「あー……ライトが素に戻っちゃったか」




