百三十四日目 勝算は
食堂に静けさが舞い降りた。
この家での最大戦力が戦力外通告を自分ですりゃそうなるかもしれんが。
「まぁでも大人しくやられる気もない」
やつらは俺が弱体化しているうちに勝負をつけようとしてくるだろう。つまりは俺を自分達の戦力に加える、できなきゃ殺しにかかってくるだろうな。
でもそれは俺にとっても好機。
「呪いは術師に解かせる、あるいは術師を殺さなきゃ解けない。緩和はできるが解くのは非常に難しい」
「ブランさんでもできないんですか?」
「出来なくはないが、簡単に言えばあまり知識のない一般人が時限爆弾を解除しようとしているみたいな難易度かな」
配線が大量にあり、かつ爆弾に関する知識すらない状態で何をどう処理するのか。それによって結果が大きく変わる。
失敗は呪いが大きく進行する可能性があるので絶対に避けなければならない。
呪術は苦手分野だ。使えないこともないけど、解除までは中々できない。
「でも希望はある」
地図を取り出してソウルに投げた。
「ゼルシュ公国ですか?」
「そう。そこだ。公国近くの森にとある泉があるって話を耳にしてな。その水を浴びればなんでも呪いや瘴気を祓ってくれるとかいう。ガセネタかもしれないけど、当たってみる価値はあるかもしれん」
全く効果はないかもしれないし、泉自体嘘かもしれない。
けど今動かなかったら呪いに喰われて終わりだ。
「行くのか」
「ああ。当たって砕けろだ。寧ろ閉じ籠っていても状況は改善しないだろうし」
ならばここは一気に攻めるしかない。守りの一手に専念していても結局は敗けが確定してしまう。
「勝算はあるのか」
「ある」
呪いを何とかしてからという但し書きはつくが、俺の弱体化さえなんとかなればやつらを叩く準備はもう終わっている。
「やつらの強さはスキルに依存している。俺も似たようなものだが」
「スキルテイカーですか?」
「その通りだ、ライト。とはいっても流石にあんなスキルが代償なしに、ってのはないだろうから多分奪うんじゃなく消すことになるけどな」
スキルテイカーとは相手のスキルを一時的に奪うことのできる高位の魔法だ。ただ、奪えたところで使いこなせないのがオチなんだけど。
消すだけと奪うのは労力が段違いだ。今回は消すことに専念した方がいいだろうな。
なんか凄い柔らかい肉を食べながらそう話す。
香りからしてワインかなんかで臭みを消したな。この肉は恐らくオークだろう。
「コックって代わったの?」
「よくお気づきになられましたね?」
「いつもより味付けが全体的に濃かったから」
「そうでしたか。実は先日入ったばかりの料理人でして」
へー、とか言いながら自分のぶんを食べ終わった。量が少ないから早く食べ終わるんだよね。
「ごちそうさまでした。じゃあ俺風呂行ってくる。話はまた後でしよう」
風呂場に入って体と頭を洗う。
風呂は考え事にもってこいの場所だ。
誰にも邪魔されず、静かで、それでいてやることがないから余計に集中できる。
【あら、私はいるわよ?】
お前はどこ行ったってついてくるだろうが。
【まぁね? でも貴方もあの作戦でいいの?】
いいんだよこれで。決着をつけようってのはお前も賛成だったろ。
【そうね。それは賛成する。けどちょっと余裕が無さすぎじゃないかしら?】
わかってるよそんなこと。
「俺にはもう時間がないんだから……」
一旦引くという選択ができない以上、ため息1つでさえミスはできない。
俺はあいつらを信じてる。それと同じくらい、いやそれ以上にあいつらは俺を信じてくれている。
それに行動で応えるしか俺にはできない。
狂ってると思われるくらいに完璧にストーリーをなぞらないと俺はもう二度とここには戻ってこられなくなるだろう。
やつらに捕まれば何をされるかわからない。だけどやつらの最終目標である俺の無力化はなんとしてでも避けなければならない。
操られでもしたら最悪だ。正直、自分でも色々出来すぎてて怖くなることがある。
もし精神支配を受けることになりそうだったら自殺するしかない。それが現実になった場合、俺もあいつらもゲームオーバーだ。
俺自身、自分が核爆弾以上の凶器であるとは理解している。
それが個人の思惑であらゆる場所に流れてしまったら。想像するのは簡単だが実際の被害は計り知れない。
「……しゃーない。面倒なことは忘れといてとりあえずやることだけやってから明日のこと決めんとかんな……」
ぼそっとそう言うと俺の言葉にリリスが反応した。
【貴方ってその言葉遣いが素なの?】
そうだけど?
【なんで普段とは違うのかしら?】
だって周り皆標準語なのに俺だけ訛ってるってちょっと恥ずかしいし……。たまに通じないし……。
【別にあっちでもいいと思うのだけど】
人によってはそう思うかもな。まぁ、俺も直すのに相当苦労したし……両利きになるより大変だった気がする。
っていうかそろそろのぼせそう。
上がって廊下に出ると、そこには既にソウルたちが立っていた。
「ビビったんだけど……」
扉開けたら目の前に人が立っているって中々驚くよ。
「話をちゃんと聞かせてもらおうかと思ってな」
「はいはい……。んじゃ明日の予定から順番に話してくからとりあえず俺の部屋行こうぜ」
それから何時間か俺の部屋の明かりが消えることはなかった。




