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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 一冊目
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十三日目 リリス

 すれすれで蹴りを躱して足をつかみ、全力でぶん投げる。


 遠心力で飛ばされはしたけど直ぐに切り替えたのかまた突っ込んできた。


 火力の高い武器を下手に壊されるのも困るし、かといって弱いのじゃそれこそ傷ひとつ入らない。


 前倒したときは安い武器を大量に買って壊されたらその都度それを捨てて新しいものに持ち替えていた。けど、今そんなに沢山武器はないし完全に油断してたときの一発でHPも心許ない。


 体も武器のひとつ。だから触れられるだけで俺のHPはガンガン減っていくんだ。武器としてのリリスもそう。


「くそっ」

【楽しいわね、ふふ】

「楽しめるほど状況よくねぇん、だよ!」


 上、下、右、左、前、後。どこからどんな攻撃が来るか判らないのはちょっとした恐怖だ。


「っ!」

【フフッ】


 ギリギリ気配に気付いて蹴りをいれる。あっちも同じ体勢で蹴りをいれてきた。楽しんでやがる。


 …………けど、俺も楽しいかもしれん。俺の家がかかってるからそんなこと言ってる暇ないけど。


 蹴った箇所にとてつもない違和感。直ぐに簡単な魔法をルーンで書いて発動させ、リリスにとばす。


 簡単な爆発魔法なのでリリスに当たってもダメージはほぼないが爆風で俺が飛ばされるぶんには問題ない。


「なんだこれ⁉」


 服は一切何もなっていなかったからどうなってるのか確認できてなかったけど、右足が完全に石化している。ゴーグルで確認してみると、


『状態異常・石化・進行』


 とか出てるし! っていうかどんどん広がってきてる⁉ これどうやって治すんだよ⁉


 足首が完全に動かなくなった。これ、不味いかもしれない。


【そんな風にボーッとしてて良いの?】

「あぶなっ⁉」


 後ろから来ていた。伏せることで何とか逃げたけど右足が使えないどころかどんどん石化が上にまで上がってきている。


「っていうか石化なんて状態異常はじめて聞いたぞ」

【それはそうよ。私しか使えないもの】


 不味い。動かせないっていうことは体重移動も出来ないってことで………しかも回復系統の魔法はルーンに時間がかかる。


 今は治せない。ポーションの類いはリリスが妨害してくるだろうし、そもそもここまで侵食しているものは一本でも治らないだろう。


「足が動かない上に重いってどういうことだよ!」

【フフ、私の貴重な奥の手よ♪】


 耳元で、声がした。


「なっ………⁉」

【弱くなったわね。私にも勝てないほどに】


 バキバキと音がする。石化してるときってこんな音するんだ。


「………そうかな?」

【何………キャァッ⁉】


 俺に抱きつく形で石化をかけていたリリスの顔面にかなり強い貫通型の魔法を当てた。ここまで接近してたら逃げられないだろう?


「あー、ビビったぁ……まさか石化なんてあるとは思わなかった」


 状態異常回復のルーンを体に書いて元に戻す。


【手は一番最初に石化したのに…………】

「だろうな。種明かしすると、これ無詠唱」


 このゲームでは魔法はルーンで発動するのが一般的だ。空中に書いて打ち出す方法や体に書いて発動する方法だったりがある。


 簡単な物は一筆書でいけるんだけど、複雑な魔法になるとルーンを重ねて書いたり絵みたいに細かくなったり、そもそも発動確率がかなり低かったりする。


 そして詠唱する方法。これは言葉でルーンを書いて発動するようなもので、ルーンを完全に記憶していることと詠唱を一度も止めてはいけないのが条件になる。


 一回でも止まるとMPが半分減り、発動途中の魔法が爆発するためにHPも減る。


 ただ、タンカーみたいに両手が常に塞がっている人には向いてるかな。


 そして無詠唱。


「お前も無詠唱は初めて見たみたいだな」

【聞いたこと、ないもの】

「俺もなかったよ。ただ、魔法系統の職業全部カンストしたら使えるようになった。まぁ、不馴れだからうまく発動しないときもあるけど」


 頭のなかでルーンを書きながら心のなかで詠唱し、発動場所を一々設定しながら打つ必要があるために本当に面倒くさいけど今みたいな集中できる場面ではラッキーだった。


 立ち止まって考える時間があるならなんとか発動できる。動いてる最中には流石に無理だけど。


 ただ、石化と同時に触られてたせいでHPギリギリ。MPを大量消費する無詠唱も同時に使ったせいでそっちもカツカツ。


 これ負けるんじゃねぇか俺………? 勝てる気がしないんだけど。


 っていうかなんで怒ってるんだよリリスは。楽しんでるようだけどやっぱり怒ってる。


「リリス、なんでこんなこと」

【決まってるじゃない。壊したいからよ】

「なんで怒ってんの」

【貴方が気づかないからじゃない‼】

「な、なんかすんません⁉」


 何に⁉ 何に気づいてないんだ俺⁉


【私がいるのにイチャイチャイチャイチャ………見えない場所でやりなさいな、全く!】


 いや本当になんの話⁉ 記憶にございません⁉


【結局貴方もニンゲンね! どうせニンゲンしか目に入らないんでしょう⁉】

「ニンゲンしか目に入らない…………?」


 あ。


「もしかして、この前の大会のこと言ってるのか………?」

【煩いわね‼ 回復したならとっとと始めるわよ‼】

「いや、お前その武器何⁉」


 どうみてもあれは……


「なんでチェーンソー⁉」

【挽き肉にしてやるわぁあああ】

「ギャアアアアア⁉」


 どうやら石化は相当力を使うようで俺と同様あとはもう走り回るくらいしか体力が残っていない様子だ。


 っていうか美女がチェーンソー振り回してリアル鬼ごっこって夢に出てきそうなんだけど⁉


「ちょ、まて! あれは不可抗力だし、イチャイチャって言えるほどのことじゃないだろ!」

【あれのどこが不可抗力よ‼ 完全に無防備だった貴方がいけないのよ!】


 あの時ステージが半壊したのはリリスの怒りも入ってたわけかいな…………


 っていうかマジで挽き肉になる!


「ゴメンって!」

【謝っても許してやらないわよ!】

「ギャアアアアア⁉」


 掠りかけた⁉ ヤバイってあれ‼


 っていうかリリスと俺って力の差が大きすぎて全力で走ってるのにすぐ追い付かれるんだけど⁉


「じゃあどうしたらそれやめてくれるんだよ!」

【貴方が死ぬまで!】

「恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ!」


 いつのまにか小屋ぶっ壊れてて俺たち外にいるし。木にある蔓をよじ登って戦線離脱………できるはずもなく。


「チェーンソー飛んできたぁ⁉」


 投げるもんなのかあれは⁉ しかも電源入ってるぞ⁉


 ギリギリで空中にルーンを書いて足場を作り、チェーンソーから逃げたけど、完全に今のでMP切れた……………。


 本気で殺す気はなかったのかリリスは落下する俺をキャッチしてくれた。で、そのまま下半身石化。容赦ないな⁉


【あら、助けてあげただけ感謝しなさい】

「あざす…………」


 正直落下した方が良かったかもしれない。


 そのままリリスは吹き飛んでいったチェーンソーを回収、俺動けないんですけど。


「あのー、リリスさん?」

【なにかしら?】

「これは一体どういうことでしょうか………」

【勿論、ギリギリまで貴方を逃さない為よ♪】

「ああ、そう…………」


 下半身石化してるから動けないんですけどね。はい。


 その状態で座らせて椅子に固定っていうのも酷くないですかね?


「………これいつ治る?」

【私の晩酌に付き合ってくれるなら回復した後で治してあげる】

「いや、殺す気か」

【なんなら殺してあげるわよ?】

「遠慮しときます………」


 魔神の晩酌ほど怖いものはない。俺の酒全部飲んでくからな、こいつ。


【さぁ! ありったけ出すのよ‼】

「俺の酒がぁぁあああ」


 ひと口はくれるんだけど、そのあとは全部飲み干してくる。


 ああ、それ高かったのに…………。今度の誕生日に飲もうと思ってたのに…………。


 肉体的にも精神的にも半殺しだよ。


 酒殆ど飲んでないのに俺が全部グラスに注いでいる。なんか途中から虚しくなってきた。


 …………全部飲みきりやがった……………!


「おい、石化解いて………ってあれ?」


 足を見たらいつの間にか元に戻っていた。なんだ、時間が経てば戻るタイプの状態異常だったのか。


 っていうかいつの間にか治ってたのに俺は酒をグラスに注ぎ続ける機械になってたのか。


「おい、リリス。帰るぞ」

【まだ帰りたくにゃーい………】


 酔ってる。面倒くさいな…………


 リリスはゲーム内のキャラクター、つまりNPCだ。だから酒を飲めば酔うし、眠くなったら寝てしまう。


 このゲームには高度なAIがつかわれてるからできる芸当だけどな。


「よいせっと………わっ、HP減ってく」


 意識していないときは緩やかにではあるけどHPが削られていく。ちょっと面倒だよな、これ。


「おい、リリス」

【嫌なのぉ】

「はぁ、全く………」


 HPは徐々に減ってくけど俺の自然回復量とほぼ同じぶんだけだから結果的にほとんど減らないんだけどね。


「っていうかなんで町を壊しに行きたいだなんて………」


 俺の独り言にリリスが反応した。


【らに言ってりゅのぉ。ヒメノと家壊しちゃえば帰りゃなくていいらないのぉ】

「…………え?」


 お前、そんな理由で町ひとつ破壊するつもりだったのかよ⁉


 いや、リリスらしいっちゃリリスらしいけど。


 徐々に減っていくHPゲージを見ながらそう考えていた。

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