百二十九日目 久しぶりの登場なのにほぼ出番なし
「後、悪魔召喚と天使召喚があるが……これやりたいって人いるか?」
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
お、ベル君いい質問だ。
「宗教によってはこれらが禁忌とされているものもあるんだ。理由、知りたい?」
「聞きたいですぅ」
シルフィーナちゃん。君いつも寝不足なの?
「天使も悪魔も供物が必要だからだよ。呼び出した相手との運が悪けりゃ命すら取られるからな。どんな願いも叶えはするが、その代償は重い」
「悪魔はわかりますが、天使もですか」
「ああ。場合によっちゃ天使の方がたちが悪い」
あいつら徹底的に嫌いなやつは排除しようとしてくるからな。
「天使召喚は正直俺成功したことないから発動方法しか教えられん。知りたかったら専門家に聞いてくれ」
「ブランでも失敗するんだ?」
「失敗っていうか、俺の魔力って滅茶苦茶悪魔に近いらしくて天使や精霊が避けるんだよね」
とことん相性が悪いってだけだ。
「逆に召喚対象に気に入ってもらえれば無償で働いてくれる」
「いいな、それ」
「滅多にないことらしいけどな」
因みにライトは無償で働いてくれる。
「悪魔ならわんさか寄ってくるんだよな……」
一回召喚しただけで数人出てくるってどんな悪魔ホイホイだ。
分かりやすくいうと、俺の魔力は悪魔にとって砂漠のオアシス並みに居心地がいいらしく、興味本意で集まってくるやつが後をたたない。
「あ、それと魔物だったら一時的に貸し出すというのも有りではある」
「え、そんなこと出来るんですか?」
「古い仮契約呪文だから知られてないのも無理はないけどな。本人と従魔自身が承諾すれば貸し出しは可能だ」
貸し出し期間は呪文発動時に込める魔力で変わってくる。
それと、仮契約期間中でも契約者や従魔がそれを破棄したりすることは可能だ。
「ブラックの従魔を借りることもできるのか」
「出来るぞ? けどレイジュは戦闘向きじゃないし、リードは中々他人に懐かなくてな」
リードは戦えないこともないんだけど、あいつ俺とアストさんにしか結果的になつかないんだよな。
俺が用意してやれる従魔はこの二匹だけ……あ。
「……一匹、戦闘向きで。しかも誰も従魔登録していない魔物がある」
「えっ? 強い?」
「強い。それは保証する」
「なんて魔物?」
「……大蛇」
「「「…………」」」
そういえば解析しよう解析しようって思っててずっと放置していた。イベルの入学式で大暴れしていたあのオロチ。
未だに俺の収納の中にいる。石化状態で。
リリス、石化状態で壊れても治せばいいんだよな?
【ええ。普通にくっつくわよ?】
そうですか。
「ま、まぁ、オロチは気性が荒いから止めとくか」
「マスター。問題はそこではないかと」
キリカ、お前今まで黙ってたのに、なんで突然突っ込むんだ。
「っていうかなんでオロチ? オロチに知り合いいるの?」
「いるわけないじゃん。あいつら戦うことしか考えないから話通じないし」
「話すことはできるんだな……」
そりゃ出来ますとも。
原語統一する魔法ならごまんとあるし。
「ま、オロチは止めとこう。で、どうする? なにを召喚したい? 悪魔? 天使? 魔物? 聖獣? それとも神とか?」
「え? 神って召喚できるの?」
「理論上はできるけど、多分お前らの魔力じゃ数秒呼び出したら魔力枯渇する」
言ってみただけだ。
俺だったら召喚できるかもしれないけど、俺の魔力がとことん聖属性に嫌われてるから多分応答してくれないと思う。
【あら。私のこと忘れてない?】
? ……ああ!
そういえばリリスって魔神だったな!
【今更なにを言ってるのよ。私を具現化出来てるってことは神を召喚してることになるんじゃないかしら?】
成る程。
「ブランはできるの?」
「多分な。数年前まではたまに呼び出してたけど最近は喉が乾くから呼んでないかな」
「どんな理由だよ」
ベル君そんなに俺のこと嫌いですか。さっきからめっちゃ睨まれてるんだけど。
「じゃ、じゃあ普通の魔物で」
「了解。ランダムにする? 指定する?」
「指定だったらどんな魔物が?」
全員の魔力をゴーグルで見て、何が合っているか数秒頭のなかで整理する。
「んー、君らのレベルだと……グラスウルフやベノムバードくらいがいいかなぁ。ちょっと変わり種がいいならファイアアントとかも面白いかも」
「Cクラスくらい?」
「だな。Aはまだ扱いにくいだろうし、E以下じゃ多分弱すぎると思う」
まぁそれでも結構強いんだが。
「マスター。紙をご用意しました」
「お、ありがと」
とりあえず思い付く限りの魔物を紙に書き出してイベルに手渡す。
「そこに君らの魔力量で呼び出せる魔物を思い付くだけ書いた。なにを呼ぶか自分で決めるといい」
イベル達が顔がくっつく程の近さで紙を見ている。
俺は俺でやることやりますか。
辺りに魔法具を使って隠蔽魔法をかける。これで暫くはここでなにをやっても外からは気付かれないだろう。
「キリカとレクス。少し離れていてくれ」
二人が子供たちの周囲にまで下がったのを確認してから収納を開いて未だに石像の、しかも真っ二つのオロチを取り出す。
思い出したときにやっとかんと忘れそうだからな。
「えっと、回復魔法で治るか?」
【治るわよ】
とりあえずルーンで魔法をかけてみると、ちゃんと修復されていくのがわかった。
「おお? 思ったより効くな」
魔法を散らす鱗をもってるから効かないかと一瞬心配したんだけど。
【だって今は石だもの】
確かに。
「マスター? それは一体」
「まぁ見てなって」
完全に治したのを確認してから状態異常を解く。石の表面が剥がれ落ちて中から八つ首の蜥蜴が出てきた。全身石になったことないからわからんが、挙動からしてどうやら寝起き。
全身固まるって感覚は眠らされてるのと似たようなものなんだろうか?
「はーい、さっさと家に帰れ!」
予め地面に書いておいた魔方陣を発動させて強制的に送り返した。眠そうにしてて動かなかったから簡単だった。
「「「………」」」
?
「なんで皆こっち見てんの?」
「いや、何故石像が?」
「企業秘密だ。誰にも言うなよ?」
公園全体にかけていた魔法を解除して水筒の中身をひと口分飲む。流石にこれだけのことしたら少しは喉も乾くからな。
「あんた本当に何者だよ……?」
「さぁ? 俺が知ってるわけないじゃん」
俺が何者かなんて俺以外の誰かが決めることだ。すくなくとも俺はそう思ってるけど。




