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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
125/374

百二十五日目 被害はどれくらい?

 リードに小さくなってもらってから近くの村に入る。とりあえず断りをいれておいた方がいいしね。


 なにかしら知ってることがあるかもしれないし。


 少し建物が壊れている。ここも被害を受けたらしいからな。でも近くに駐屯してる兵士がいるから壊滅ってほどではなかったとは聞いてる。


 血の臭いはそれほどしないけど……ん?


 視線を感じて、そっちに目を向けてみると男の子がこっちを覗いていた。女の子もいる。顔立ちが似ているから兄妹かな?


「……だれだ」

「ブラックといいます。村長さんのところに案内してもらえませんか?」


 今は仕事中。子供だからって敬語はやめない。


「怪しい……」

「魔王様の使いで来たんですが、これでも信用できませんか?」


 服の内側につけているバッジを見せる。魔王様の勅命で動いていることを示すものだ。警察手帳みたいなもんかな。


「本物だな?」

「勿論」

「……ついてこい」


 やけに大人びた子だなぁ。イベルみたいだ。


 男の子は横の女の子の手をしっかり握って歩き出す。


「何しに来た」

「先日の魔物の件についてですね」

「仕事はなにしてる」

『ブランは情報屋なのよ』


 あ。頭の上にいること忘れてた……。


「ピネ、お前寝てなかった?」

『起きてたわよ。多分』


 寝てたんだな。


「情報屋が魔物のことを魔王様に言われて調べに来たのか」

「ええ。情報屋を名乗ってはいますが、大抵のことなら一人でこなせますので」


 今回ここに来たのは研究者として、かな。


 っていうかさっきからなんかずっと質問されっぱなしだ。イベルもこんな風に色々聞いてくるんだよな。


「ここが村長の家だ」

「送っていただいてありがとうございました」


 歪んだ扉を数度ノックする。直ぐに扉が開いた。


「おお、これはこれは。白黒殿。どのようなご用件で?」

「お久しぶりです。先日の魔物の件で少し」

「そうですか。中へどうぞ」


 実はこの村には一度来たことがある。村長さんとは顔見知りだ。


「お付きの方はどうされたんですかな?」

「アストさんは自分と少し一緒に旅をしていただけですので」


 前回はアストさんと一緒に来たからな。元気かなぁ。


 お茶を出してもらって、そこから今回の話を始める。


「被害と、なにか前兆があったかどうかを教えていただけませんか?」

「被害は入り口の建物がいくつか壊れたのと、井土が潰れてしまったことですかな。怪我人も出ましたが、死者はおりませぬ。そして前兆は……いつも通りでしたな」


 なんてこった。前兆がないんじゃ防ぎようがない。


 この付近の森なんてしょっちゅう誰かが入ってる。人為的な物であっても誰かなんて特定しづらいのは最初からわかってはいたが……。


「井戸の水の代わりは?」

「雨水と魔法で何とかしております。幸い我らの種族は魔法が得意な種族なもので」

「そうですか……。後で井戸を復旧できないか見てみますね。無理そうであれば魔王様に進言しておきます」


 それと、もうひとつ気になってることがあった。


「食料はどうです?」

「そちらは根刮ぎ魔物にやられましてね……その日凌ぎでなんとかやっている感じで」


 食料も水も足りてないのか。人死がでなかった分こうなるのは予想できなかった訳じゃないが……


 炊き出しくらいはしとくか。後日持ちのしそうな食べ物をいくらか置いておいて、都市に配達してもらえるように頼んどこう。


「ではとりあえず食事の提供をします。一時間ほどで出来上がりますので」

「よ、よろしいので?」

「この事態を止められなかったのは自分が気づけなかったというものもありますので……。それに、困っている人を放っておけませんから」


 村長宅の庭を借りてスープを大量に作っていく。


 子供でも食べやすいよう、小さくサイコロ状に野菜を切って……


「ああっ! めんどい!」


 ぽいっと空中に放り投げて剣技を使いながら野菜をみじん切りにしていく。


『うわっ、なにその才能の無駄遣い』

「使ってるんだから無駄にはならんって。よっと」


 包丁を両手に握ってどんどん切り刻んでいく。


 ちょっと楽しくなってきた。


【アホね】


 だまらっしゃい。


 直ぐに大量の野菜が鍋のなかに投入され、三百食分あるスープが完成した。


 この鍋はシシリー(メイド)から借りた。なんでも炊き出し用のやつなんだって。どこに何を炊き出してるのか知らんけど。


「んー。まぁ、普通だな」


 こんなもんでいいか。


 パンも用意したし、十分だろう。飲み物は百パーセントオレンジジュースだ。子供でも飲めるしね。苦手な人ならお茶もお水もあるよ。


「きゅ」

「ん?」


 リードにペチペチと頭を叩かれた。


『お腹すいたって』

「えっ」


 マジか。今宝石に手持ちは……ああ、あった。そういやさっきリードのごはん場所(採掘場)から、リードのご飯用の宝石採ってきたんだった。ナイス判断、俺。


 リードにあげたいところだが、村人が炊き出しの話を聞いて集まってきているのでちょっと我慢してもらう。


「全員お椀を動かさないでくださいねー!」


 この村は142人。その全員が手に持っているお椀に意識を集中させ、指をならす。


「「「おおっ!」」」


 一杯分のスープがそこに注がれている、筈だ。


 転移魔法の応用でちょっと試しにやってみたが、しんどいわこれ……。


 142個のお椀に一斉にボールを放り込んでいるみたいなもんだ。しかも外せない。一人一人配ってたら時間ないから一気にやってみたんだが、ちょっと疲れた。


 パンとお代わりはセルフでおなしゃす。


「リード、戻っていいぞ」

「キュアアアア!」


 ぽひゅん、と間抜けな音を立てながら巨大化した。


 この音がもっとカッコよかったら様になるのに。


「んじゃ、一個目」

「クキュ♪」


 投げると口でキャッチして噛み砕いていく。猛獣に餌やってる気分……猛獣なのはかわりないけど。


「はい、最後」


 バリバリとサファイアが噛み砕かれては消えていく。勿体ないなぁ……。まぁ、こいつがいるだけで宝石も育つし、悪くはないのかもな。


 ジュエルドラゴン以外は自然界で生きてくために宝石なんて必要ないし。


 こんなんもらって嬉しいって思うの人族だけだし。


「さてと。じゃあ調査に行きますかね」

『おー』

「キュー」


 村長ともう少し話してから村を出た。来た道とは真反対に進むのでこっから先は獣道を進むことになる。リードは普段の大きさじゃ通れないので小さくなって俺の背中に張り付いてもらった。


 それにしても、恐ろしいほど嫌な気配が立ち込めてる。


 正確にいうと、瘴気がそこら中に満ちている。


『気持ち悪くなってきた……』

「精霊にはキツいか?」

『ううん、大丈夫……』


 ときおり出てくる低級の魔物を斃しながら奥へと進んでいくと、墨と見紛うほどに真っ黒な水で満たされた湖があった。

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