十二日目 墓参り
酒場に入ると数人が食べ物を食べていた。
「お、ギルマスー。今日は遅かったな」
「まぁな。皆は?」
「半分くらいは祭りに、もう半分はクエスト」
「そっか」
「ギルマスは飲むか?」
「いや、酒を買いに来たんだ。行く場所があってな」
結局酒買いに来てるだけだな、俺。
「シャンパンと軽く食べられるものを」
「はいよ。今年も行くのかい」
「そんなとこ」
マスターにそう言うと笑顔で簡単なサンドイッチを作ってくれる。
「50000でいいか?」
「はいよ」
ポイントで支払うと周りのやつらが目を丸くする。
「5万⁉」
「たっか⁉」
「この酒が中々いいやつなんだよ」
これじゃないと結構うるさいんだよな、あいつ。
「で、どこ行くんだ?」
「強いていうなら墓参りかな。じゃ」
酒場から出て屋根にのぼる。ここを通路にしてるのって俺くらいだから祭りの日でも空いてるんだよね。
そのまま少し走って転移陣のある広場に向かう。転移陣っていうのはワープホールって言う人もいるけど、どっちも一緒で町には必ず一個ある。
町と町の移動に使われるマ○オだったら土管みたいな役割を果たしているものだ。
MP消費なしにマップをショートカットできるから楽なんだよね。
俺は転移陣の上にのってアイコンを操作し、とある場所に飛んだ。
「相変わらず暗いなぁ、ここ」
ゴーグルを装着して暗視機能をオンにする。そのまま奥へと進んでいくと小さな小屋があった。
鍵のかかっていないそこはとある人の家だったところだ。
「お邪魔します………」
ご丁寧にはめる場所まで作りやがって………。俺は壁にある窪みにトンファーを嵌めた。
【んー、久しぶりね、外に出たのは】
「この前の大会はやりすぎだって」
【あら、貴方の気持ちに反映されるんだからあれが貴方の気持ちってことよ】
「俺までダメージ入ったんだけど」
【それはお疲れ様】
死んでも俺をおちょくってくるってどういうことだよ。
【それよりいつものお酒は持ってきたのよね?】
「はいはい。これだろ?」
【そう、それよ!】
どこからかグラスを取り出して早速注ぎはじめた。俺が言えたものじゃないが、酒好きすぎだろ。
【貴方も飲むのよ?】
「わーってるよ」
シャンパンはそんな好きじゃないんだけどなぁ。とか言うと俺でも殺されかねないからやめとくけど。
グラスを軽くあわせて口に運ぶ。
【貴方に負けてもう3年になるのね】
「突然なに」
【あら、これでも悔しいのよ? ただ、その分楽しかったっていうのもあるけどね】
「ふーん」
俺だって悔しい。だって一度は勝てなかったんだから。
「なぁ、リリス」
【なに?】
「お前って本当に魔神か?」
【なによそれ。あ、女神だって言いたいのかしら?】
「そう言うことじゃねーよ。ただ、なんかそれっぽくないって思っただけ」
俺がそう言うとリリスがこっちに来た。
【残虐の限りを尽くして暴れまわってもその一瞬で全部終わっちゃうじゃない。私は貴方のような人を待つ方がずっと良いわ】
「それで死んでちゃ終わりじゃないか」
【あらら? ギルドを運営しているのに解らないのかしら?】
耳元に口を近付けて来る。吐息がかかってくすぐったいが下手に距離をとってこいつの機嫌損ねるとマジで俺が死ぬかも知れないから我慢だ。
俺の基礎ステータスを余裕で越えてくるもんな、リリスは。
俺、なんで勝てたんだろ。
【数ってね、本当に怖いのよ? 私でも死にかねないもの】
「お前がそんなぽんぽん死んでたらこの世界終わってる」
【あら、大半のニンゲン達は私のこと知らないわ。唯一あなたが知っているだけだもの】
グラスを片手に持ったまま歩く姿はかなり様になっている。外国の映画で出てきそうだ。
「俺は誰にも言ってないけど」
【でしょうね。約束、ちゃんと守ってくれるなら私も協力するわ】
「それは助かってる。やり過ぎるのは困るけど」
本当、こいつはなに考えてるか判らない。
空になったグラスをこっちに向けてくる。注げってか。
「本当お前の考えてることはわかんねぇよ」
【貴方が単純過ぎるだけじゃないかしら】
「言いすぎだろ」
注いでやると気分がよくなったようで笑みを浮かべながらテーブルを椅子にしてそれを飲む。
本当、見た目は天使みたいなのにな。中身が………
【今、変なこと考えてなかった?】
「別に?」
色々鋭すぎるだろ。俺が取り出したサンドイッチを勝手に二つ持っていく。
「って、それ俺の!」
【いいじゃない。私のお陰で優勝できたんだし】
「これとそれは話違うだろ」
瞬く間に二つ消えていったサンドイッチ。俺のサンドイッチ………。
【町は明るくて良いわねぇ】
「なんだ、意外と平和なこと考えてるじゃないか」
【今すぐぶち壊したいわ♪】
「止めろ」
破壊衝動があるのがな…………俺がサンドイッチの袋を片付けていると後ろから抱き付かれて床に倒された。
「突然、なんだよ………!」
【あら? 忘れちゃった? 貴方の前にいるのは魔神よ? ねぇ、一戦しましょうよ】
「あんなギリギリの戦い二度とするか!」
【いいじゃない。貴方が勝ったらおとなしくするし私が勝ったら町を壊しに行くわ♪】
「何いってんだよお前………!」
バーチャルとはいえ、衝撃を受けるような痛みは感じる。リリスに押さえつけられてるだけでHPのゲージが恐ろしい勢いで消費されていく。
「離せよ!」
【キャハッ♪】
ナイフで切りつけてそのままの勢いで後ろに下がる。
くそ、掠りもしなかった………。
【面倒だからここで殺っちゃいましょう? 小屋なら壊れても大丈夫だから】
「本気かよ、リリス………」
【本気も本気よ?】
突然どうしたんだよ………酔ってる様子もないし………。
いや………もしかして怒ってる?
え、何に? 何に怒ってんの⁉
判らないけど、あれ多分怒ってる。別に町を壊しに行くなよって止めたから怒ってる訳じゃない。
だってあれ、俺たちの挨拶みたいなもんだし。
じゃあ、いったい何が琴線に触れた…………?
「ってあぶねっ⁉」
【良いわ、良いわよっ!】
「俺は何もよくないんだけど⁉」
不味い、リリスは興奮すると何も聞こえなくなるタイプだし………!
殺るしかねぇな。
ガントレットを装備して後方につき出すと丁度リリスも同じ格好で俺に同じ攻撃を仕掛けてきていた。
「くそ、速すぎるだろ…………!」
【この3年で貴方の攻撃パターンは把握した。気付く前に死なないよう、気を付けてね?】
「ぐっ……!」
声を聞いてからじゃ遅い。けどどこにいるのか全く把握できない。がむしゃらに攻撃してもこっちが疲れるだけだし下手なものならリリスは跳ね返してくる。
ルーンを書く時間さえくれないだろう。
さっき1発拳を合わせただけでガントレットにもうガタが来ている。俺の体の方は大丈夫だが、武器はそうもいかない。
っていうかあいつの武具破壊何とかしてくれよ⁉ 金がいくらあっても足りないんだけど。
すぐに新しいものにガントレットを交換するが、そのお陰で完全に見失った。
「っていうかなんで戦うことになってんだよ⁉」
今更すぎる疑問に答えるようにリリスが蹴りを繰り出した。




