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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百十九日目 突然の襲撃

 その後もいくらか話をして、家に帰る……予定だった。


 この密室には入ってもいい人は限られている。


 そのなかに俺も含まれてるのはちょっと謎だが、それは置いておいて。入っていいのはゼインとレクス近衛騎士が二名、医者。後侍女が一人入ることを許されている。


 医者含めて全員俺とは面識がある。そのはずなんだ。


「なぁ、ゼイン。ここ数日は俺の知らない人ってこの部屋に入った?」

「いや、そんなはずはないが」

「だよな……?」


 回りを見回す。


「どうした?」

「……気のせいかもしれんが……知らない人の匂いがする」


 匂いの濃さからして、今日か昨日。俺の知らない誰かがここに入っている。


 ここまで断言できるのは、全員の血を少しずつ貰ったからだ。たとえ混じりに混じっていても味は舌が覚えている。


 空気にも味がある。俺はそれを匂いと言うが、空気の味で人を認識できるほどには鋭いと思う。


「なんかさ……? ―――っ⁉ 伏せろ‼」


 直感が突然働いてそう叫ぶ。だが、奥さんはベッドの上。伏せるとか物理的に無理だ。


 とっさの判断で上に覆い被さってリリスを……あ。


「やっべぇ、さっき服脱いだときに一緒に置いてきちゃった……」


 この間、一秒も経ってないがそのたった一秒で事態は大きく動いた。


 窓側の壁が真横に両断された。そうとしか言えないような光景が広がる。石造りの壁がパズルみたいに外側に崩れていった。


 その斬撃は部屋全体に広がり、家具なんかも真っ二つになっていく。俺の伏せろという対応は間違ってはいなかった。


 どうやらゼインはなんとか攻撃から逸れることが出来たらしい。


「おい、ゼイン、奥さん! 大丈夫か⁉」

「ああ、助かった……」

「え、ええ……」


 よし、とりあえずは大丈夫か。あんな攻撃バンバン打てるとも思えないがここを離れた方がいいな……


「ブラック、今のは……」

「わからん。が、たまたま俺の直感でなんとかなったがとりあえずどこかに避難するべきだろう。明らかに狙われてる」


 お腹に子供を抱えてる奥さんに無理させるのは悪いが、今この城のどこにいても危ないのはかわりないだろう。


 我ながら冷静に物事を考えられている。


 まぁ、冷静なのとキレてないってのは比例しないけどな。


「王が狼狽えてどうする。まぁ、仕方ないとしか言えないけどな」

「おい……ブラック。それ……!」

「気にすんな。さっさと逃げるぞ」


 寧ろこうなったのが俺で良かった。奥さんに覆い被さるようにして自分を盾にしたから俺の背中は多分バックリ切れてる。


 痛くないかって? 痛いに決まってんだろーがチクショウ‼


 けど魔力をギリギリまで節約するために止血くらいしかしていない。


 不味い……大分血を流してしまった。


「おい、ゼイン。俺の背に乗れ」

「は⁉」

「いいから!」


 急いで宇宙服を脱がせてから背中に抱きつかせる。で、紐で固定した。力を入れすぎてゼインを潰さないように注意しつつ、落ちないように工夫して結んだ。


「おい、血が……! 傷口が開いたぞ」

「ああ。そうだな。口を閉じろ」


 奥さんに負担をかけないよう、お姫様だっこをしてさっき着替えた部屋に走る。


「あ、歩きますよ、自分で」

「駄目です。過度な運動は危険ですし、俺が守れない」


 急いで最低限の装備を済ませて、壁を蹴飛ばして外に身を投げ出した。


「ぎゃあああああ⁉」

「ゼイン、黙ってろ。俺は今結構切羽詰まってるから後ろのことなんて気にしてられない」


 ベルトでワイヤーを飛ばし、民家の屋根づたいに走って逃げる。


「ブラック! 上だっ」

「なっ⁉」


 真上に人がいてルーンを書いている。なんで⁉ ゴーグルは反応してないのに⁉


 すぐに方向転換するが、間に合いそうにない。


石矢ストーン・アロー


 飛ばされた大量の石礫に咄嗟に俺が使ったのは、障壁じゃなく、攻撃魔法だった。


 なんかあの攻撃は普通じゃないと感じたからだ。


風刃エア・カッター、拡散‼」


 複数のルーンを重ねがけし、その上で拡散を使った。ゴッソリと魔力は持っていかれたが石礫を防ぎきることには成功したようだ。


 確認なんてしてられないからわからないけど。


「ブラックさん、転移は使わないんですか」

「あれは妊婦への負担がでかすぎるんです。ちょっとリスクが高くても走り回って逃げる方がいい」


 ゾクッとしてワイヤーを引いた。具体的に何かヤバイというよりなんとなくそう感じたから。


 だが、意味はなかったらしい。


「がぁっ⁉」


 左足に数本、矢が突き刺さっている。いや、それ以上にヤバイのが……


「ゼイン⁉」


 後方からの矢での襲撃。全然気づけなかった俺が不味かった。


 一瞬気をとられた隙に何発か魔法が当たった。何が当たったかわからない程、俺は焦っていた。


「っ、奥さん、悪い! 思いっきり飛ばす!」


 負担はかかるが………仕方ない。


 無事な右足で空気の塊を思いっきり蹴って滅茶苦茶な加速をする。極端なGがかかって右足が悲鳴をあげるが、今はそんなこと考えている暇はない。


「極・縮地っ!」


 みていた人間からすれば俺が転移したように見えるだろうが、これは歴とした足運びの一種でしかない。


 ただ単に、滅茶苦茶頑張って走っただけなんだ。


「ぁあ……う……くそ……」


 そんな無茶をしたせいで右足は四歩目で折れた。それでも走ったから粉砕骨折したみたいになってるだろう。


 見つけた廃屋に転がり込んで収納からベッドを二つだし、部屋全体に浄化をかけて直ぐにゼインを診た。


「ハァ、ハァ………火傷が首から胸にかけて、それから矢傷が三本分、肋骨も折れて内臓に刺さってる……心臓は動いてるけど、息してないな……気道が火傷でくっついたか……」


 どう診たって重傷だ。


 奥さんの方に目立った外傷がないのが不幸中の幸いだろう。


 俺の無茶な加速で気絶してしまっているが、命に別状はない。


「ハァ、ハァ………恨むぜ、ゼイン……!」


 大丈夫だ。ゼインは治る。治してみせる。


 足りない魔力は………補えばいい。

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