百十八日目 これはちょっと暑い
昨日でテスト終わりました。
ので更新速度を戻します。
今回のサブタイトルじゃないですけど、毎日暑いですね……皆さん夏風邪にはお気をつけください。
「なんでそれが後悔するって話ですか?」
「いや、ゼインから聞くならまだしも俺から聞くのってあんまり嬉しくないんじゃないかなぁ、と」
寧ろこんな重要なことをなぜ俺から伝えようとさせたのか疑問だ。あ、いや、レクスなら弟と妹ができるぞーって俺んちに駆け込んできそうだ。
「そういうことで俺も今からちょっと向かうよ」
『一人で大丈夫?』
「いつまで俺のことガキだと思ってんだよ……」
様子見に行くくらいできるわ。
「もう俺だって19だからな!」
「「「………」」」
「なんで全員黙るんだよ」
そんなに子供っぽいのか、俺は?
不満はあるが。あんまり茶番を繰り広げていても遅くなるので。
「で、なんでお前は待機組に入ってんの」
「父上から今日から数日はブラックのところに泊まってこいと言われているのでな」
「すっごい初耳!」
せめて連絡しろや、ゼイン! 息子勝手に泊まりに来てることになってるぞ!
「あー、もうなんか馬鹿馬鹿しくなってきた……俺ちょっと行ってくるわ……」
「いってらっしゃーい」
なにあの軽いノリ。俺のこと気にもしてない感じだぞ。
【あら、いつものことじゃない】
それもそうだが。
いつものように城に入り込むと、
「おい、さっさと運べ!」
「ちんたらしてんじゃねーぞ愚図共がぁ!」
「気ぃ抜くんじゃねぇバカ野郎!」
なんだろう。なんか来る場所間違えた気がする。
なんでこんな切羽詰まっている……というか怒号が飛び交ってんの? ここ王の家だよね?
「ブラック」
「あ、ゼイン……これ、どしたの?」
「いや、医者達が大騒ぎしているのと、まぁ、色々あってな」
あ、はぐらかしたい感じか。
「言いたくないならこれ以上はなにも言わないよ。それより奥さんは?」
「ああ、こっちだ」
扉を開けると、誰もいない部屋だった。
「? いないぞ?」
「これに着替えろ」
「お? おお……」
「それからこれと、これと、これ……」
「一体どこの研究室に入れられるんだ俺は?」
カーテンで部屋を仕切ってからとりあえず渡されたものに着替えて全身を消毒する。
「これでバッチリだろう」
「うん……バッチリだとは思うけど、ここまでする必要無いと思う。それに俺の場合自分に浄化かければすむ話だったんじゃ……」
あ。目を逸らしやがった。
宇宙服並みの完全防備だ。あとひとつ言わせてもらおう。暑い。
そんな完全装備で次の部屋に行き、風で埃を吹き飛ばしてからやっと奥さんの寝ている部屋に辿り着いた。
ただ面会するだけなのに面倒臭すぎる。
ゼインが来るからと今の時間だけ医者には席を外してもらうらしい。
この配慮は助かる。ゼインに敬語使う必要無いし。誰かいると俺のコミュ障が発揮されちゃうから知合いだけの方がありがたいんだよね。
部屋にはいると奥さんは体を起こして、
「えっと……どなたでしょうか?」
そらそうだよな! こちとら宇宙服並みの防御体制だ。あっちから人の判別なんてつくはずがない。
「情報屋の白黒です」
「来てくださったんですね……ありがとうございます」
「体の調子は」
「先程までは少しつわりが酷かったのですが、大分楽になりました」
「では少し診ますね」
ん、んー? み、見辛い……
しかも手袋分厚すぎて指先の感覚がないから判断のしようがない。なんて機能性に欠ける宇宙服なんだ。
いや、本来は宇宙服ですらないんだけど。
「あの……その服、脱がれた方がいいのでは?」
「え、いいんですか」
「見えないんですよね」
「薄ぼんやりとは見えてます」
なんとか物の判別がつくくらいだ。あと暑い。これ中サウナみたいになってるんだけど。っていうかゼインはよく平気な顔してられるな……
いや、痩せ我慢の顔だな、あれは……
「ゼイン、脱いでいい?」
「浄化をかけてくれよ」
「わかってるよ」
「ならよし」
最初からこれ着る必要全く無かったな………
分厚い服を脱ぐと、涼しい空気が包み込んでくれる。
「あー、暑かった……」
「それ、暑いんですね……」
「サウナですよ、これ……」
目に魔力を集中させながらくまなく診ていく。
「どうだ」
「うん。健康状態も良好、子供の方も問題ない。今すぐ産まれるって言ってもおかしくないくらいだよ」
「そうか」
嬉しそうだね、ゼイン。暑いの我慢しているのは声でわかるよ。
「ただ、一週間以上産まれなかったら寧ろ危ないからね。医者も同じこと言うと思うけど」
「危ない? 子供がか」
「母体も、だ。あんまり育ちすぎると出てこれなくなるから最悪帝王切開するしか」
「てーおーせっかい?」
………?
え?
「え、帝王切開くらいは知ってるよな?」
「「……?」」
こっちじゃ母親の腹を切って子供を取り出すって概念無いの⁉ え、嘘でしょ⁉
「帝王切開っていうのは……母体か胎児になにか悪影響があると判断された場合に行われるもので……まぁ、なんだ。要するに母親の腹を切って子供を取り出すってことなんだけど」
「そ、そんな恐ろしい方法が……?」
いや、逆にやらないとどっちも危険だからね⁉
「じゃあもし母体の産道に子供がつっかえたらどうなんの?」
「私は医者ではないので……」
それくらいは知っときましょうよ……
「特に数人一気に産まれてくるとなるとその確率は高くなるから、そうなるかもしれないくらいの気持ちでいてくれればいいよ」
「「……」」
「なんで黙るん?」
別に死ぬわけやないんやで?
「だが……運命に逆らって子供を無理に取り出すと言うのは、その」
「じゃあお前はそうなったら奥さんも子供達も諦めんの?」
「それはない‼」
決然とした態度でそう言ってきた。うん。そんな格好して動いたら余計に暑くなるよ?
「ならなにも考えなくていいだろ。お前が奥さんを、子供を守りたいと思うのは誰にも止められんしな」
それにしても……この世界は一体どうなっているんだろうか。運命だからといって人の命を諦めなければならないなんて、そんなことありはしないのに。
「誰だって、大切に思うものくらい、あるのに……」
それを守るための知識が全然広がっていない。
情報屋として働いていると余計にわかることだが、国民が国のことを知らなさすぎると思うことが多々ある。
どこかこの世界は歪だ。
そう思わざるをえない。




