百十六日目 謎の手紙
「またやらかしたんですか……」
「うるせぇ……不可抗力だ……」
なんでこう俺ばっかりなんか起こるんだろう。
俺が悪いのか。そうなのか。
「珍しいな、そこまで落ち込むのは」
「イベルに目立つなよとかなんとか言われてたのにガッツリ目立ってしまった俺が悪いんですよ……どーせ約束の一つも守れないクソ野郎だよ、俺は……」
『ちょっと皆してブランを追い詰めないでよ。鬱陶しいじゃない』
ピネ。お前が一番トドメを刺しにきてるだろ。
家に帰ってからずっとこんな調子だ。後肩が凄い凝ってる気がする。
首回すとバキバキいうもん。
「終わってしまったものはしょうがありません。それと、お手紙が来ています」
「手紙?」
筒状の手紙をライトから受け取った瞬間、直ぐに気付いて手紙を床に放り投げた。
「え、どうしたんです?」
「持った瞬間、あり得ないほどゾッとした……。何らかの魔法が仕込んであるぞ、それ……。ライト、平気か?」
「は、はい。特に異常はありません」
魔法というより呪いに近い感覚。以前ネベルで遭遇した呪い師に呪われたから(現在進行形で呪われてるけど)その辺りの感覚は相当鋭くなっている。
「どうすんですか、これ……」
「どっか遠くに転移させとく。海の底とか」
もし知らない人が拾ったりして魔法が発動したら大惨事になるかもしれない。マグマの中に、とかだと確実性があるんだろうけど俺の力じゃまだそこまでの正確性は期待できそうにない。
とりあえず、直ぐにでもどこかに捨てないと危険だ。
「ちょっと待て。もし重要なことだったらどうする」
「それはそうだけど未開封のまま見るなんて難しいし」
「出来ないことはないんだな?」
「まぁ、一応……」
俺だって透視くらいの魔法は習得している。ただ、くるくると巻かれた手紙を全部透視したところで文字が重なって読めやしない。
「なら、それを試す方がいいだろう。魔法をかけることで手紙の方の魔法が発動することはないのか?」
「多分ね。封を開けると発動するタイプだと思うよ」
試してみろって、エルヴィンも無茶いうなぁ……中々大変なんだぞ、これ。
「仕方ない……」
ルーンを四つ繋げて書き、自分に向けて発動する。元々は遠くを見るための魔法だけれど、俺が中身を弄ったせいで個体でも色のついた液体でもハッキリと透視することができる。
文字が何十にも重なりあって気持ち悪いな……っていうか読みづらい……
「えっと……あ、まってこれ……解読に時間かかりそうだ……目の負担も大きいし」
とりあえず見えた文字を紙に写していく。
「か……り? じゃないな。い、か」
全然読めん。文字がまず汚いんだけど。
「お茶にしましょうか。暇ですし」
「そうだな」
おい! やれって言ったやつらが寛ぐなよ!
わっ、ヒドッ! 全員出てって行きやがった。
……さっさと集中して終わらせよう。
ーーーーーーーーー≪ソウルサイド≫
いつも専門的な事をし始めると極端に視野が狭くなるのがブランさんの性格だ。
文句を言いながらも解読を始めて、直ぐに手元にしか目線が固定された。
全員に目で外に出ようと伝え、お茶を作る振りをして皆でその場を離れた。
「皆さん、ブランさんのこと気づいてますか?」
「ああ。ここ数か月くらいのことだろう?」
「はい」
全員判っていたらしく、頷いてくれる。
「確実に、弱ってきていますね」
『それは、ずっと思ってた……』
大蛇の話を聞いて、確信した。去年のブランさんなら大蛇くらい一人で殺れる。被害もほとんど出さずに、だ。
ずっと隣で見てきた僕らだから気付いているだけで他の人たちにはわからない。
だから期待され、ブランさんは一人で頑張ってしまう。
「近頃はたまにお飲み物すら飲んでくださらないですし……」
「休日というものを理解していないからな、ブランは」
そう、そこなんだ。休日というものを与えられてもブランさんからすれば『ちょっと遅れてる仕事を片付ける日』みたいになってしまっていて。
実質年中無休で動き続けているようなものだ。
本人はそれが普通だと思い込んでるし……
「それに、以前と比べて明らかに魔力量が減っている。マナを魔力に変換する早さは相変わらず凄まじいが……総量が半分とまではいかなくとも、四分の三ほどになっているのは間違いない」
息切れしている姿もよく見るし、なにもしていないのに目眩を起こしているのも最近多い。
何故かはわからない。僕らはブランさんとは違って医学知識を持っているわけではない。
ただ、素人から見ても明らかにおかしい。日に日に弱っていくというわけではないが、ゆっくり下降していっている。
だけど、この前こっそり寝てる間に調べたら体に一切の異常はなかった。それでも魔力がごっそり減らされている。
どういうわけか回復しないんだ。無意識に放出してしまっているわけではない。そうなったら流石に本人も気付くし。
ただ、ブランさんはわざとそれを隠そうとする。それを続けているせいで自分がどんな状態にあるのかわかっていないんだ。
「僕らがブランより弱いから、そのぶん無理をさせてしまうんです。だから……こっそり特訓しましょう!」
「特訓?」
「ブランさんが、僕らに任せるって判断が出来るようになるまで」
僕らがお荷物だから、守りきろうとして無茶をする。
確かにあの人から見れば僕らは等しく弱い存在で守らなければならない存在だ。それは否定できない。あの人が強すぎるから。
『確かに、一理あるわね。今の私たちじゃブランの隣は重すぎるもの』
「だが、具体的にどうする?」
「簡単ですよ。なくなった山をもう一回作るんです!」
「「「はい?」」」
僕らに足りていないのは基礎体力、魔法の応用力、魔力総量、技の精度。どれもブランさんに劣る。
だから全部を底上げするために、山を作るんだ。
「この前ブランさんに聞いたんですけど、魔力とその精度を上げるなら土魔法が一番だって言ってたんですよ」
「それが、山作りですか?」
「はい。前に吹き飛んじゃった山あったでしょう?」
『戦争の時、ブランが調節間違って吹き飛ばしたやつね……』
あそこなら無人島だし、何をやっても怒られない。
「それです。その山をまるごともう一回作るんですよ。土魔法と手作業で!」
あの辺り一体の土地なら所有者はいない。別に誰が山を復活させても問題ないだろう。
「いいかもしれませんね。山ならば登り降りすることで体力もつきますし、なにより人に迷惑がかからない」
「やりましょうよ、皆さん!」
こうして僕たちは秘密裏に特訓を始めた。山が完成するのはいつになるのかな……。




