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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百十五日目 初授業

 授業なんて友達に歴史を教えてたときくらいの経験しかない。あの時は結構好評でクラスの半分くらいが俺の授業に参加してたけど、今回はその比じゃない。


「一学年全部だと……?」

「初日だから全員なんだよ」

「ムリムリムリ! 何人いると思ってんの⁉」


 俺てっきり40人くらいかと……


「200人くらい」

「数を聞いてるんじゃない……俺には務まらねぇって話だろうが……」


 そんなおっそろしい事できないよ……俺小心者だし、上がり性だしそれ以前にコミュ障だし……


「それに、今日君が目立ってしまったからその理由を作らなきゃならないだろう? 最悪イベル君が君の関係者だとバレてしまう」


 ………一理ある。


 無関係の俺が保護者席にいたことに気づいた人がどれだけいるのかはわからないが、大蛇となんか異常に戦いなれてるやつが戦ったことは多分バレてる。


 今日なぜここにいたのかという疑問は確実に出てくるはずだ。


 講義をしに来ましたー、って誤魔化せるしもし保護者席にいたことを問われてもそっちの方が面白そうだからに決まってんじゃん的な適当発言しとけばそこまで怪しまれないだろう。


 俺が変人だってことは世界中に知れ渡ってるんだし。


「どうなっても知らんぞ……」

「ああ。頑張ってくれ」


 最初から嵌める気だったな、こいつ……


 で、一時間後。


 俺のファンだと言ってくれている担任の先生に呼ぶのでここで待機してくださいと言われ扉の前にたつ。


 因みにサインは10枚求められた。なんでや。


「入学したての君たちの為に特別講師をお呼びしました! どうぞ!」


 あああああ煽らないでよぉ……生徒達期待しちゃうから‼


 そろっと教室に入ると教室全体が揺れた。いや、揺れたっていうか絶叫で包まれたっていうか……


 イベルの声も混じっているのが聞こえた。ごめん。これはお前の為なんだ。許せ。


 おおおおお……緊張ヤベェ………


「皆さん、入学おめでとうございます。ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、自分は各地で情報屋をやっております、ブラックと申します。白黒、という二つ名の方が有名かもしれませんね」


 俺が話し始めたら直ぐに教室中が静かになった。


「ここの学園長とは友人でして、彼に頼まれてここに立たせていただきました。つまらない授業かもしれませんが暫しお付き合いください」


 よし、俺のことはこんなもんでいいだろ。


 じゃあ早速やるか……


「教科書を持って来ていただいたところ悪いのですが、自分はこれを使うつもりはありません」


 教室中がざわめく。まぁ、普通に考えておかしいよな。


「この教科書は確かに正しいです。ルーンの意味は勿論、魔術理論や組み合わせの方法まで全て載っています。ですが、実戦ではルーンの確認なんてしていられません。本を開いた瞬間に死ぬと思ってくださって結構です」


 魔術書を持って戦う人もいないわけではない。だが、そんな人はいつまで経っても上達できず少しでも強い人と戦うことになれば直ぐにやられてしまうだろう。


「最初の訓練のうちはそれで結構です。存分に活用してください。ですが戦場ではそんな暇など正直言って全くありません」


 それと、ひとつ疑問になったところがこの教科書には存在した。


「自分が今日教えたいのは、詠唱による魔法行使です」


 レーグに確認をとると、どうやら口に出して魔法を使うというのは一般的ではないらしく古くさい方法と世間に見られているらしい。


「確かに、ルーンを書く方が早いときもありますし魔力を回すのがうまく出来ない人も大勢います。ですが、考えてみてください。戦場で最も傷付きやすく、また狙われやすい場所はどこかと」


 何人か納得した表情を浮かべていた。そのうちの一人が手をあげて答えてくれた。


「四肢です」

「その通りです。最も狙われやすいのは胴だと言われていますが、魔法使いだと敵が知った場合。まず最初に腕を潰しに来るでしょう。自分だってそうします。魔法使いは例外あれど総じて防御力が低い。剣士よりその後ろの魔法使いを最初に行動不能にしてしまえばある程度戦いやすいですから」


 知っておいて損はない筈だ。


「まず詠唱の原則は三つ。何を使い、どう動かし、何をなすのか。これが入っていれば最低限の魔法は発動します」


 実際に見てもらった方がいいか。


「風よ、己を巻き上げ、通り抜けよ」


 掌からまっすぐに風の渦が教室の外へと飛び出していく。


「こんな感じです。言葉は意味さえ通じていれば大抵大丈夫なので特に気にしなくてもいいです。ここで必要なのは喉に魔力を流す方法とどんな結果を出したいかというイメージです」


 言葉とイメージが合わなければ魔法は使えない。


 逆にイメージだけでも発動しないことはない。無詠唱の領域だし、失敗しやすいから教えないけども。


 イメージだけでの発動が難しいからこその詠唱だ。


「魔法に細かい指定を入れれば入れるほど詠唱が長くなりますが、イメージが出来れば短縮することも可能です。先程の魔法を短縮してみましょう」


 イメージは、つむじ風。打ち出す向きは真っ直ぐ、それでいて威力の強すぎない、優しい風を。


「風、通れ」


 たった二言。それで十分さっきの魔法を再現できる。


「イメージさえできれば言葉なんてほとんど必要ありません。が、魔法という現象を引き起こすには体にその合図を送った方が案外成功することもあります」


 気づいたらルーンを書いてた、とか詠唱してた、とかよくあるしな。ほぼ無意識に魔法を発動できるようになってきたよ、俺。


 ……いよいよ本格的に化け物だな。


 さてと。授業に区切りがついたところで。


「……天井にいる人とかって、なにかの競技かなにかですか?」


 突然授業に関係ない話をしだした俺に皆少し驚いているみたいだ。まぁでも気付いちゃったんだからしょうがないよね。


「5人、ですかね? そんなところから視線を送られても返しようがないんですが、これはどうしたら?」


 一同、シーン。いいや、その気なら下ろしてあげよう。


「……風、穿て」


 バァン、と音がして天井から5人、人が降ってきた。俺の魔法で気絶している。


「気になってしまったので。落としてすみません」


 とりあえず拘束して全員かついだ。どう見てもこの学校の人じゃないしいいよね?


「これで、自分の授業を終わります。ありがとうございました」


 全員ドン引きだったよ。やり過ぎたかなぁ………


 因みに、この5人はコーグ男爵家に雇われたチンピラ私兵だった。俺の偵察に来てたらしいけど。っていうかちらっと拷問するって脅したら全部喋ったんだけど。


 依頼主の情報喋るとか馬鹿かこいつら。ま、全部知ってたけどな!

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