百十四日目 学園長レーグ
「い、今何を……?」
「ちょっと殴っただけです」
石にしてからな。
急激に魔力使ったから滅茶苦茶喉が乾いた……
トイレに行くふりをして回りの目を避けてから水筒を一気に煽る。
「何本あっても足りないな……最近飲みすぎか」
自重しないと。
ちょっと派手に暴れすぎたせいか腕がピリピリする。無理に動かしすぎたか………
「はぁ……どうすっかな……さらっと帰れそうにないし」
独り言がとまらない。こそっと逃げるのもありかもしれんがあんだけ人がいるとそれも難しい。いくらかは地面を破壊したしその事後処理とかも全部説明抜きで任せるぜ、ってのは無責任すぎる。
ぶつぶつ文句を言いながらトイレから出ると、相当な人数の人だかりがトイレの前にできていた。
「あの、さっきあの怪物倒した人ですよね⁉」
「うちの警備兵になってもらえませんか?」
「息子の師匠に!」
………しまったぁ……。
まだ俺が白黒ということはばれてなさそうだけど(気付いている人もいるかもしれないけど)このままじゃイベルと俺の関係がバレてしまう。
折角イベルのいっていた通りに平民枠で入学させたってのに初日でバレるとかありえん。
「いや、あの、自分急いでるので! じゃ!」
天井の梁に乗って逃げる。大抵の人は追ってこれまい。そろそろ出口に………
「逃がしませんよ、ブラックさん」
「……ばれてた?」
「会場にいたときから気づいてました」
「ああ、そう……」
梁の上で遭遇したのはここの学園長、レーグだ。
「なんでここに居たか聞いても?」
「それはまぁ、構わないんだが……場所移してもいいか? ここじゃいずれバレそう」
「では私の部屋で」
ということで、レーグの部屋に。
俺が甘いの好きだから茶菓子まで出してくれた。それはともかく。
「入学式の保護者席に貴方が混じっているのを見て驚きましたよ……」
「それは俺も予定外だった。本当はメイドに任せるつもりだったんだが付き添うはずのメイドに急用ができてな」
「知り合いの子でもここに?」
「いや、俺の子」
「…………やることはやっているということか?」
「ちゃうわ。養子だ、養子」
真顔で言うな。
「養子なんていたのか。というか、知っていたら厚待遇で迎え入れたのに」
「そういうの嫌がる性格なんだよ」
誰に似たんだか……。
「名前は?」
「イベルだ。目立ちたがり屋ではないしコネを使うのを嫌ってるからもし会っても初対面を貫き通してくれ。まぁ、俺がやらかしたから遅いかもしれないけどな!」
笑えない話だけど……。
「では、イベル君が君の関係者だということは隠しておいた方がいいか」
「ああ。それで頼む」
すると突然レーグが立ち上がった。
俺の目の前に来て深々と頭を下げる。
「今日の事は本当に申し訳なかった。召喚術式を弄った生徒がいたらしく、とんでもないものを呼び寄せてしまったらしい」
「あー。やっぱそうだったか。……ま、呼び寄せたってよりか侵入されたって方が近いと思うけどな」
召喚魔法は召喚術式とその魔力でどんなものが呼べるかが決まる。
例えばスライムの召喚術式を俺とイベルが各々発動させたとしよう。
イベルの方からは普通のスライムが召喚されるが、俺の方からはゴールデンスライムが召喚される。そんな具合に出てくるものは変わらないが魔力によって上位種が来たりステータスの高いものが来たりする。
そして召喚術式は何を召喚するかを決定してくれるものだ。魔物によって、あるいは霊獣や動物によって術式は異なる。
そして術式で喚ばれる魔物の種の格が上がれば上がるほど必要とされる魔力は多くなり、少なければ発動しない。
術式は扉、そこに魔力で道を作り、その道の質がどれだけ良いかで通れる強さが決まる、と考えればいいだろう。
だが稀に術式が一部破損していたりするとその道を通れないはずの魔物が無理矢理扉のそとに出てきてしまうことがある。
そしてその魔物は出てきたときの混乱で暴走することが多い上に召喚されたわけではなく自分で来てしまったことになるので強制送還も出来ない。
「強制送還も効かなかったし妙に怒り狂ってたから多分間違ってきちゃったんだと思う。殺しちゃったけど……」
【あら、死んでないわよ?】
え?
【石化した状態で壊したところで、石化を解く前に回復すれば元通りになるわよ。一時的に時間を止めているのと同じだからうまくくっつけば普通に動けるようになるわよ】
それをさっさと言わんかい! じゃあすぐその召喚魔方陣解析してもとの場所に送ってあげなきゃいけないだろうが。
「レーグ。召喚魔方陣ってそのままか?」
「ああ。下手にさわらない方がいいと思ってそのままにしてある」
「いい判断だ。それ、解析させてくれ。もしかしたらオロチをもと住んでいたところに帰してあげられるかもしれない」
「それは構わないが……今は先程の事件で校内が敏感になっていてな」
そりゃそうだ。魔方陣を学生がいじってしまったとわかっていても誰かが意図的にやっていないという保証はない。
外部からきた人が突然魔方陣を調べ始めたら警戒もするだろう。
じゃあどうすればいいんだよ。少なくとも今日中に調べないとマナの質とか消えちゃってわからなくなるんだけど。
「そうだな……そういえば、今日は休みだったな?」
「一応休日だけど」
「なら、一日教師になればいい」
「………はい?」
何言ってんの⁉
「俺が⁉」
「君の実力ならよく知っている。それが出来るだけの知識も技量もあるだろう」
「いや、無理だって。戦うのと教えるのじゃ部門が違うっていうか次元が違うっていうか」
しかも俺が教えるとしたら何を? 理論? 実技? どれも不安なんだけど。
「君ならできるさ。なに、型破りな戦い方を講義してくれればいいのさ」
「型破りな戦い方?」
「君のベルトも、武器も、魔法も。どれをとってもユニークで合理的だ。しかもどれも一流ときた」
ベルト考えたのは俺じゃないんだけどねー。
「そういったやり方を教えてくれればいいんだ」
そんなこといわれてもな……
「ちなみに、これが実技の教科書だ」
「実技に教科書なんてあるんだ……」
開いてみると、ルーンの書きかたやその意味に加え、何をどう組み合わせればどんな魔法になるのかがびっしりと書いてあった。
理論もまとめて説明しているから余計にビッチリだ。
「こんな面倒なもの使ってんの?」
「じゃあ君はどうやって覚えた?」
「自分で表に書いて丸暗記したんだよ。ルーンとその意味、魔方陣と対になるルーン」
ルーンには属性がある。火や水に始まり闇光、空間なんかがある。
ちなみに俺がよく使う拡散のルーンだけど、あれは特殊属性に入る。一応ルーンのなかでは相当失敗しやすい形だからあまり使われないことで有名だ。
失敗して大量にMP減らすより連発して確実に当てた方がコストもリスクも少ないというわけだ。
「なら、君なりの方法で生徒達にルーンの授業をしてくれ」
「え」
……マジでやんの?




