十一日目 大鎌の正しい使い方
ーーーーーーーーーー《セドリックサイド》
スキーウェアって高いなぁ………今見てるのがネットだから?
まぁいい。買いに行こう。どうせ今回限りしか着ないだろうけど………
学校が終わってからその足でスポーツ用品店に向かった。マフラーが手離せないなぁ。
この前降った雪がまだ積もっている。っていうか昨日も降ったし。今も降ってる。
えっと、スキー、スキー、スキー……はどこだ。見当たらん。
2周してようやくどこになにがあるかっていう看板見つけた。俺ってやっぱり方向音痴? 流石に店のなかで迷うことはないと思ってたんだけど。
見てみたら、
「二階やんけ………」
脱力。俺の今までの行動はなんだったんだ。しかも店員さんこっち見て笑ってるし。恥ずい。
気をとりなおして二階へ。すると、
「あれ? なんか買いに来たん?」
「いや、こっちの台詞だけど。っていうかスポーツするんだ?」
「しいへんよ。兄貴がちょっとやっとるんやけど、気になっただけや」
「へぇー」
「そっちは?」
「今度スキー行くからちょっとだけ見に来た」
同じクラスの友達に偶々会ったのでそのまま一緒に何故かスキー用品を見に行くことになった。
ちなみにこの子、服選んでくれた子です。
「おおー、思ったよりあるんやね」
「だね。どれ買ったらいいのかわからんなぁ」
「これとかどうや」
モコモコのスキーウェアを取り出して俺のサイズにあうかどうか確かめ始める。
あ、もう服買うときとおんなじ感じだ………スイッチ入ってる。
「これ…………」
俺の相棒によく似てるゴーグル発見してまった。どないしょう? ちょっと欲しいかもしれん。
「どう? 似合う?」
「運動神経いいからなんでも似合うと思うで」
「なんか斜め上の感想が返ってきた……」
運動神経いいのとゴーグルが似合うって比例するんだろうか。っていうか俺そこまでいいわけじゃない。少なくとも同じ学年に6人は俺より上がいるんだ。
「こっち来てー」
「え、ああ、うん」
いかんいかん、ちょっとぼうっとしてた。
「これなんかどうやろ? お値段も半額やし中々ええと思うんやけど」
「おお、確かに安い」
けど、この子だったら多分値切るんだろうなぁ………。俺? 人の顔見れない時点でアウトでしょ。
「そのゴーグル買うん?」
「え? あ、いや、ちょっとだけ見覚えあるだけだから」
「でもそれええんちゃう? 似合ってるで?」
「そ、そう?」
「せやせや。じゃあこっちもそれに合わせて色かえよか」
この子、本当に判ってる。ただ服選んでるだけかもしれないけど。
一緒に一式選んで購入。俺が買ったのになんだか嬉しそうだ。
「いやー、やっぱコーディネートのしがいあるわー。スタイルええから基本なんでも入るし」
「でも最近太って………」
「それウチの前で言うたらアカンで」
「ごめん」
ちょっとポッチャリしてるんだよね、この子。
「ところで誰と行くん?」
「何が?」
「スキーに決まっとるやろ。家族で行くんか?」
「行くわけない。家族で出掛けた記憶がまずほとんどないし、出掛けるって話になっても嫌だなぁ」
なんで俺八つ当たりしてるんだろうか。
「じゃあクラスの子か?」
「いや、年上」
「幼馴染?」
「んー? どうなんだろ」
ガサガサとビニールが音をたてて足にぶつかる。
「ええ友達なん?」
「いい人だよ。素直だし、なんか小動物みたい」
ハムスター的な可愛さがあると思う。いや、犬か?
「ならええんやけどな。楽しんできてな」
「うん。色々ありがとう」
「また服選ぶとき呼んでな。選ぶの楽しいんやわ」
「またお願いするよ。じゃあね」
センスとかスッゴい良いんだけど、スッゴい選ぶの時間かかるんだよなぁ…………。楽しいんだけど、隣にいるだけの着せ替え人形の気分が判るというか、なんというか。
家に帰ってからゲームを早速始める。ちょっと遅くなっちゃった。
防具を着けて外に出るとなんか人が一杯いる。
「あ、今日から六周年記念祭か」
そういえばこれくらいの時期だったな。
折角だから歩いて酒場に行こう。これから二週間くらいはログインボーナスとかも多目につくようになるんだよな。
「お前なにやってんの」
「いや、小遣い稼ぎ。ギルマスもどう?」
「あー、じゃあ一本」
「酒は」
「今はいいや」
「え、ギルマスが酒飲まないのか」
「そんなに俺が酒のんでないのおかしい?」
ギルメンが屋台を出していたので焼き鳥を一本だけ買って行くことにする。
「あっつ!」
「だろうな」
「心配してよ」
「ギルマスなら問題ないだろ? リアルのあんな可愛いときとは違って」
「リアルは話題に出すな。絶対言いふらすなよ!」
「言わないって」
口軽そうだからな、こいつら。釘刺しとくか。
「………言ったらデッド・エンドで首狩りを決行する」
「それはマジでやめて……」
脅したところで酒場に向かう。あの酒場俺が買い取ってるから俺のギルド員じゃないと入れないようになってるんだよね。
いや、買う必要はなかったんだけど酒ってゆっくり飲みたいし。
「おー、金持ってそうな兄ちゃんー」
「なぁ、俺らに金恵んでくれね?」
「…………あ゛?」
なんか絡まれたけどデッド・エンド見せたら大人しくなった。いやー、これ脅しに便利だよな。
大鎌の禍禍しい感じがいい。
「ちょっとセドさん、物騒なものしまってくださいよ」
「お? 豆ちゃんじゃねーか」
「ビーンズです。それよりそれ、怖いからしまってくださいよ」
「脅しには便利だぞ?」
「普通脅しません」
俺のギルドから独立したビーンズは自分でギルドを立ち上げて今では結構な有名人だ。
「っていうか、失礼しました。あいつらうちのメンバーなんです」
「へー。ま、俺だからいいけど他のやつらにやらないようにきちんと言っとけよ。ギルドの責任になるしな」
「わかってます。セドさんにこれ以上の迷惑は掛けられませんから。それより、ワールドマッチ防衛おめでとうございます」
「お、サンキュ」
なんでも会場で見てたらしい。
「いや、それにしてもヒメノさんとセドさんがキス――――」
「その話やめてくれよ! 恥ずかしいから!」
「え、もうくっついたんじゃないんですか」
「くっついてねぇよ。告られはしたけど」
焼き鳥をかじりながらそう言うとビーンズが、
「でもリアルでは会ったんですよね?」
「う………なんでそんなこと知ってるんだよ」
「そりゃあ元々のギルドのことくらい調べますよ」
恋バナ大好きなんだよな、こいつ………。俺と一緒で中身女なんじゃないだろうか。
「オフ会では会ったけどよ」
「じゃあさっさとくっつけばいいのに」
「お前ら他人事だと思って………」
「だって他人事ですし」
「そうだけど」
俺の気持ちというものをだなぁ。
「でも、くっついたら教えてくださいね」
「やだ」
「酷くないですか」
「だって豆ちゃん口軽いし」
「豆ちゃんってやめてくださいよ⁉」
俺はビーンズの頭を撫でて、
「俺よりもギルドデカくしたらちゃんと名前で呼んでやるよ」
そう言ったら、
「そんなんだからセドさんモテないんですよ」
「余計なお世話だ、豆ちゃんの癖に!」
「だからビーンズだって言ってるじゃないですか」
「ビーンズも豆だろうが」
俺がそう言って何が悪い。
「じゃあな豆。今度会うときには一戦してやるよ」
「勝てる気しないんですけど」
「ははは」
こういうゲーム内の繋りっていうのも大事なのかなってちょっと思った。




