百八日目 病院抜け出して
テスト終わったのでちびちび書き始めます。
遅くなってごめんなさい。……テスト滅びれば良いのに……
アストさんと軽く話をしていると、病室の扉が叩かれた。よく来客のある病院だなぁ……
中に入ってきた人は知らない人だった。格好も病院に働いている人っぽくない。
「白黒、だな?」
「はい」
「文書を預かっているのだが、こちらの文字は読めるか?」
「はい、大丈夫です」
この魔大陸、人間大陸と言葉は同じなんだけど文字が違う。まぁ、俺からしたらどっちも覚えなきゃいけなかったから大変だったけどな。
文法はほぼおんなじだったから助かったよ。
その人は筒を渡してさっさと帰っていってしまった。あ、本当に文書届けるためだけに来たんですね……
「それ、なんだ?」
「内容が極秘のものはこんな風に魔法で綴じて運ぶのが普通なんです。普通の封筒だと破って見られる可能性があるので筒状にしてから隠蔽系の魔法で―――」
「も、もっと簡単に説明してくれ……」
「そうですね、ただの手紙より頑丈な筒を魔法で補強したものと考えていただければ良いかと」
本当はもっと複雑なんだが、めっちゃ端折るとこんな感じか。
因みに、無理に開けようとすると隠蔽魔法が発動して文書そのものが燃えるように作られている。
便箋そのものが魔法道具みたいなものだ。
因みに、構造が簡単で誰にでも使えるものが『魔法具』や『魔法道具』と呼ばれ、俺の通信機みたいに使う人に制限がかけられていたり本人の魔力量によって使えるかどうかが変わってきたりする道具を『魔導具』という。
明確な基準はない。
ただ、魔法具と魔導具で同じ威力のものをだそうとした場合、魔法具の方が値段が高くなる。誰にでも使える、ってのが中々難しくて材料とかもその分希少なものになる。
っと、気をとりなおして文書だ。
「この紋章……見たことある、ような」
「ええ。あると思いますよ」
手紙に捺されている判子の絵柄は中心に槍に鎖が巻き付いたような模様がある。
便箋を開いて読んでいく。アストさんは気を使ってくれているようで覗き込んだり話しかけてしたりはしてこない。
数秒で読み終わった。速読は得意なんだよね。
「……とりあえずは、ってところか……」
「?」
「いえ、独り言です。それよりアストさんはこれからどうされるんですか?」
「どう、とは……?」
「村に帰るんですか?」
アストさんは目を伏せて押し黙った。
そりゃそうだろうな。だってあの村の水源が死んでいることは誰の目で見ても明らかで、しかも俺を助けるためにアストさん自身で村を燃やしてしまっている。
話に聞いたところではアストさん以外は遠くに出稼ぎに出ているか、死んだかのどれかだそうだ。
魔法が苦手な種族だからあの村で生きていくための水を解決する手立てがない。
「俺、は………」
「今決めなくても大丈夫だと思いますよ。ただ、早い内に決めておかないと後々迷ってしまいますから」
頭の片隅にでも置いといてくれればいい。自分の未来を決められるのは結局自分でしかないんだから。
【体、大丈夫?】
なんとかなる。さっきから回復に魔力を回してるし大分動けるようになった。
「さて、と……行かなければならない場所があるので」
「その体で行くのか」
「もう大分戻ってきましたので、行って帰ってくるくらいなら可能ですよ」
「抜け出すってことか」
「……そうとも言います」
病人脱走事件を起こしたい訳じゃないけど、あまりダラダラもしてられないんだよね。
「普通に考えてダメだろう」
「そうなんですけど。まぁ魔法でちょっと弄って抜け出してもバレないように細工はしますよ」
「そんなことができるのか」
「自分が作ったものなので効果の保証はできませんけど」
数時間程度なら持つ、筈。だと思う。うん。そう思いたいよね……
【試したこと無いものね】
それなんだよなぁ……この前突然思い付いてその場の勢いで作っちゃったものだし。
「それ、他の日に出来ないのか」
「出来ないことはないとは思いますが……自分、職業柄敵が多いのであんまり印象悪くしたくないんですよね……」
「吟遊詩人って敵が多いのか」
「いや、そっちの職業じゃなくて……まぁ、吟遊詩人も蔑まされるジョブなんで間違ってはないんですが」
最近は情報屋としてしか見られていないからそこまでハッキリとした差別はないけど。
働き始めた頃は大変だった。酒をかけられたり、戦闘訓練してやるとかなんとかいちゃもんつけられて突然武器を向けられたりした。
え? もちろん返り討ちにしましたとも。
白黒って名前を出せばつっかって来る人は相当減ったけど。いないとは言わない。
「じゃあ、俺も行く」
「え」
「駄目か?」
「あー……どうでしょう」
ダメとは言われていない。けどいいのかどうかは不明。
「門前払い食らうことになってもいいなら大丈夫だとは思いますよ」
流石に無礼討ちなんて古臭いことはしないだろう。魔大陸だし。人間大陸では有りうるかもしれないけど。あっち文明がそこまで進んでいないしな。
「それでいい」
「じゃあついてきてください」
「魔法は?」
「かけました」
話しながらこっそりかけてた。物事の同時進行は苦手じゃないんだよね。
「おい、聞いてないぞ」
「ええ、聞かれてないのでどこに行くとは話してないです」
「………」
だって行くって言ったのはアストさんじゃん。
「何故魔王城なんだ」
「そう言われましても。自分一応ここの家臣なんで」
「は?」
「? なにか問題でも?」
ここ数年で俺がいない間でいろいろと外堀を埋められていた。
電話口で『貴様を直属の部下にするために名誉公爵の位を授ける』みたいなこと突然言われて反論しようとしたら切られた。
なんでも魔王に直接会うためには公爵以上の爵位が必要らしく、他の貴族を黙らせるために突然爵位を、という話になったらしい。
お金とかの面で普通なら公爵なんてあげられないんだけど、俺の場合魔大陸に住んでないから住居や領地なんていらんし、年金みたいなのも普段の業務で十分稼げてるから必要ない。
魔王に会うためのパスポート代わりでしかない。
名誉公爵だから権力的には二つ下の伯爵くらいしかないんだけどね。部下もいないしそんなもんで十分だと思う




