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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百七日目 ギークさん

「それにしても、何故助けてくださったんですか? 恨まれていても仕方ないと思っていたのですが」

「……特に意味はない。気紛れだ」


 気紛れで自分の天敵を助けるだろうか。


 敵にも甘々なソウルならともかくこの世界の人がそんなことをするんだろうか? いや、偏見かもしれないけど。


「そう、ですか。ありがとうございます。本当に助かりました」


 とりあえず礼は言っておこう。


「……これで借りは返したからな」

「借り?」

「貴様のせいで我輩は負け犬の烙印を押されたが……貴様の甘ったるい思考のせいで部下が無駄死にしないで済んだ。あのまま貴様が拘束ではなく虐殺に動いていたなら我輩は部下も全員失っていた」


 俺に敵わないと知っていながら進軍してきたってことか……?


「我輩は少将だ。人間大陸に化け物がいると知っていても特攻しなければならない。我々がその身を散らすことで戦争の狼煙としなければ民は動かない」


 民衆を煽るためだけに殺されなければならない部隊か……エグいな。


 多分、進軍して突破できるならよし、もし負けても死んだ者の為に奮起しろと言う生贄になるんだろう。


 辛い役回りだ。一番死にやすい。


「恨んではいる、が同時に感謝もしている。だがこれで我輩が貴様に感謝するのは終わりだ。これからは恨みしか抱かん」


 ちょっと笑ってしまった。


 どんだけ不器用で仲間想いなやつなんだろうか。


 わざと最後に恨むと付け加えるのは今回の件とあの件は別件で俺が助けられたことは完全にチャラにしてやるから気にする必要はない、とでも言いたいんだろう。


 面白いくらいに優しい。


「ありがとうございます。たとえこれからも一生恨まれても自分はこの恩を忘れません」


 座ったまま頭を下げた。この人に悪意の欠片は見当たらない。


 少し頑固っぽいけどどの言葉にも優しさが滲み出ている。


「感謝などいらん。それと敵に頭を下げるなど将として言語道断だぞ」

「自分は将ではありません。ただの情報屋です。ですので頭を下げても良いのです」

「屁理屈を……」

「理屈と根性で成り立つ仕事ですので」


 顔を背けてふんと鼻をならしてくる。


 初対面だったらちょっとイラッとくるかもしれないがこの人の性格をわかった今ならそれもなんとなく優しげに見える。


「それで、助けていただいた礼と言ってはなんですがこちらをどうぞ」

「なんだこれは」

「魔導通信機……自分が作った遠くの者とでも会話ができるものです。魔力の波長を番号として機械に覚えさせ、これを持っている人となら誰とでも連絡が取り合えるものです。試してみましょうか」


 説明するより見せる方が早い。


 この通信機には人それぞれ違う魔力の波長を記録し、数字化、その番号を登録して発信することで電話が出来るようになるものだ。


 ひとつの通信機にひとつしか魔力は記録されないので盗まれたとしても他人には使えないし無闇に壊して中の構造を調べようとしてもどこかのネジが外れた瞬間に全ての歯車が壊れるよう設計してあるから模倣の心配もない。


「先ず、掌の上にその機械を置いていただいて、魔力を馴染ませるように機械に通してください。あ、もう少し強くお願いします」


 じわじわと炙り出されるように通信機の表面に数字が表示された。


「えっと、ギークさんの番号は……2738ですね。ではこちらからかけてみます」


 自分の通信機からギークさんに電話を掛けた。


「おおっ⁉ ゆ、揺れるぞ⁉」

「その光っている部分を押して耳元に当ててください」

「こ、こうか?」

「聞こえますか?」

「っ⁉ み、耳元で聞こえるぞ⁉」


 おお、分かりやすく驚いてくれるな。


「ちゃんと聞こえていますね。では光っている部分をもう一度押してください」

「う、うむ」


 通話が切れた。問題なく動くな。


「この通信機なら魔大陸と人間大陸の両方ならどこでもこうやって会話ができます。ただ、距離が離れるほど消費魔力は多くなるのでお気をつけを」

「まさかとは思うが我輩にこれを譲ると?」

「はい。もう登録してしまいましたし。あ、自分の番号は最初から登録されているので魔力流してボタンを何も押さなければ数秒後に自分に繋がります」


 家族と交友関係を結んでいる王族くらいにしか渡していない。


「これを大量に作ってくれと言ったら?」

「それは無理です。内部構造は秘密ですし無理に見ようとすれば自壊するようシステムが組んであります。それに材料も龍鱗だったりオリハルコンだったり神鋼だったりするので中々量産は難しいんです」


 家族や王族にしか配れないのはそういう理由だったりする。


 まぁ、信用できないってのもあるけど。


「ギークさんを信用してこれをお渡しします。魔王様にも同じものを献上する予定なのでもし魔王様と直接連絡が取り合える仲でしたら番号を聞いてみても良いと思いますよ」

「こんな重要なものを我輩に渡しても大丈夫なのか」

「家族からは怒られますかね……バレるまでは内緒にするつもりです」


 要するに独断です。


 連絡? 取ってない! いいじゃん俺が作ってるんだし! な‼


【政治のバランスを崩すから気を付けなさいと言われてるじゃないの】


 ウッ……反論できない。


「貴様、商人としては絶望的な甘さをもっているな」

「自覚してます」

「まぁいい。貰っておいてやる」

「はい。どうぞお好きにお使いください」


 ギークさんが出ていって十数分後、アストさんが来た。


「ブラン」

「アストさん。具合はどうですか?」

「それ、こっちの台詞」

「それもそうですね。目眩と頭痛は治まりました。まだ立てそうにはないですが」


 全身を酷使したような倦怠感だ。あ、そうだ。なんでこんな状況になっているのか聞かないと。


「あの、起きたらベッドの上だったのでなにも覚えていないんですが……自分が倒れた後どうなりましたか?」

「直ぐに村を燃やした」


 ………え? ちょっと待って理解が追い付かないよ?


「え、燃えたんじゃなくて燃やしたんですか」

「燃やした」

「何故に」

「警備隊の入れ替りの日だったから……気付いてもらえるように」


 なんてこった。確かに分かりやすいだろうけど⁉


「警備隊の人の中にブランを知ってる人がいた。その人がブランを病院に運ぶって言ったからついてきた」


 そこは不幸中の幸いだな。ギークさんがいなかったら俺は普通に手当てしてもらえずにあの世に行ってたかもしれないし。


 二回目のばたんきゅーとか嫌すぎる。

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