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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百六日目 無理が祟って

 水がないって不便だな。自分で作らなきゃいけないし。


「あまり長居はしてられないかな……」


 井戸すら枯れてるんだから先に水源のある場所にアストさんだけでも避難させておいた方が……


「っ⁉」


 一瞬クラッとした。喉も乾き始めたし最近目眩と頭痛が治まらない。ちょっと不味いかも。


「ブラン……?」

「あ。アストさん、おはようございます。気分はどうですか?」

「もう、大丈夫……」


 この人本当必要最低限しか喋らないな。興奮してるときは結構喋ってくれるみたいだけど。


「直ぐに朝食を用意するので顔でも洗って待っていてください」


 水の入った桶とタオルを渡して作ってる途中のコーンスープをかき混ぜる。黒パンしかなかったからこれに浸して食べるつもりだ。


 それにしても頭痛い。ここの季候が合わないのか、無駄なストレスがかかってんのか……わからんが今は休んでられないし頼れる人もいないからどうにもできない。


 そろそろ注ごうかと思った瞬間にスープの表面に血が垂れた。


「わっ、あっ、しまった!」


 直ぐ様その辺りのスープごと掬って捨てる。勿体無いけど血入りのスープなんざ飲みたくない。俺じゃなくてアストさんが。


 顔を袖で拭ったら血がベットリと服についた。ああ、これ鼻血だ……


 鏡を覗いてみたら、相当顔色が悪かった。吐き気はないから助かるが、これは楽観視してられないかもしれない。


「今日中に………アストさんを避難させないと……」


 アストさんは魔法が使えない。もし俺がくたばったらどこかの村に辿り着くまでに水の補給ができずに死んでしまうだろう。


 ここから一番近い人の住んでいる地域まで歩いたら1週間はかかる。水のある場所なら4日で着きはするが場所が相当辿り着きにくいところにあるからその前に倒れてしまう。雨も期待できそうにない。


 床に座り込んで目を瞑り一旦目眩が落ち着くのを待つ。


「おい、大丈夫か⁉」


 薄目を開けると、俺のことをアストさんが覗き込んでいた。


「大丈夫です……休めば、直ぐに……」

「顔色の悪さが尋常じゃないぞ」

「それに関しては……反論、できませんね……」


 ぐらぐらと揺れる視界に酔いそうだ。寒気もするしな。


「ぅ……」


 頭すら支えきれなくなって体が横倒しになったのがわかる。


「ブラン! おい!」


 声がどんどん遠ざかっていくように聞こえる。手足の力が抜けていき、体が重くなる。


 そのままプツンと意識が途切れた。








「ん……ぅ?」


 怠い。上からなにかがのし掛かっているみたいだ。


 体を起こすことは出来たが歩き回るのはキツそうだな。


 どこかの病室、だろうか? 医療器具が大量に並べられているところをみるとそうなんだろうけど。ここ、どこ?


 なんか目を開けたら見たこともない場所でした、っていうのが異世界に来てから結構頻発してる気がする……


 起きたら押してくださいと書かれたボタン(ナースコールってやつ?)を押すと少ししたら白衣を着たおっさんがやって来た。


「具合はいかがですかな?」

「歩くのは無理ですが大分いいです……それと、ここは一体?」

「おっと、これは失礼。私はここファビナ総合病院の院長を勤めているモナクです」

「ご丁寧にどうも。自分はブランです」


 ファビナってことはここは魔族国の首都か……なんで?


「えっと、自分ヴィード族の村で倒れた辺りから記憶がないんですが」

「それは一昨日の話ですね。ここに運び込まれてきたのもその日です」

「え、一日であの距離を?」


 馬車使っても二週間はかかるぞ⁉


「なに、偶々あの村に警備隊が立ち寄り、その際に同行していた貴方のことを知っているかたが転移でここに連れてきただけです」


 そんな偶然ある⁉ すごいね?


「あ、あの、アストさんは」

「ああ、ヴィードの青年ですね。元気ですよ、安心してください」


 言葉に嘘は見当たらない。無事だ。その事に少なからず安堵する。


「それにしても何故自分如きにこんなに手厚い配慮を?」


 知り合いってのも思い付かないし、一体誰なんだろうか。それにこの病院は国内最高の病院だ。一人瀕死の吸血鬼を放り込むだけで大金が飛んでいく。


「それは……あ、丁度いらっしゃいましたよ」


 扉を開けて出てきたのは、なんか見覚えのある……だれだっけ。


「久方ぶりだな、情報屋。貴様に氷漬けにされたお陰で我輩は中央軍の笑い者になった」


 氷漬け……ぁああっ! 確か人間大陸に進軍してきた少将の、


「その件は申し訳ありませんでした、ギークさん。自分も生きるので精一杯でしたので」


 魔王軍、その中でも精鋭の揃う中央軍の少将、ギーク・ベゲッドさんだ。この人の部隊、丸ごと俺が魔法で凍らせてしまったからどれだけ恨みを買われてるか恐ろしくて仕方なかったんだけど。


「あちらでは英雄などと呼ばれているくせに、よく言う」

「確かに、そうかもしれません。……が、自分は有名になりたくてあんなことをしたわけではなく」

「それは判っているがあえて訊こう。貴様、何故あの時停戦交渉をしたのだ」


 停戦交渉を提案したのも、実行したのも俺だ。理由ならない訳じゃない。


 馬鹿みたいで、そんなものどうでもいいと思う人だっているだろうが俺はその理由のために動いた。今もずっとそう。


「自分は家族を守りたい。人間大陸で争いが起きれば家族が危険に晒される。そう考えたら、勝手に体が動いていました」


 どれだけ無謀でも家族は守りたい。そしてみんなきっと俺のことを守ってくれる。


 俺は馬鹿だしたまにドジるし、所々抜けてるし良いところなんて1つもない、そう思っていたのに。


「自分の信じる人が存在する限り居場所はなんとしてでも守りたいですから」


 あいつらが俺のことを好きだと言ってくれた。何があっても守ると言ってくれた。対価なんて求めていない。だから俺も対価は求めない。


 ただ、できることなら皆で一緒にいたい。幸せだったって言って終われる生にしたい。


 だから俺はその舞台を整えるだけ。


 そのためならどんな障害だって撥ね退けてやる。

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