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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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百二日目 羨ましいほど幸せそう

 蜜柑の匂いのするお風呂。この前からなんか甘い臭いがするなと思っていたらどうやら蜜柑の香りのする入浴剤を入れていたらしい。


 透明だからわからなかったけどな。因みに毎週匂いが変わる。先週は桃っぽかった。


「あっ、いっつぅ……」


 風呂は好きだから入りたい。入りたいんだが、お湯に触れるだけで腕の火傷がヒリヒリするから両手を上にあげて入浴っていう相当不格好なことになっている。


 何で火傷してるかって?


 今日イベルと話をしてからスラムの人に炊き出しをしたんだけどその時に軽い喧嘩があって、


「おい、テメェ順番抜かしただろ!」

「抜いてねぇよ!」

「ふざけんなよ皆待ってんだよ!」


 まぁ、うん。こんな感じになって。


 正直面倒だったから放っておいたんだけど取っ組み合いが始まって。


 止めにいったらなぜか二人から同時に殴られて。痛くも痒くもなかったけど。


 それでキリカ達メイド勢がぶちギレた。


「マスターに殴りかかるなど死に値する行為です。あなた方には配給などしません」


 まぁ、かなり優しいキレ方だったんだが。笑顔だったし。相当怖い笑顔だったけど。


 で、それに今度は取っ組み合いをしていた二人がキレた。


「ふざけんなよこのアマが! 俺達は腹へってんだ!」


 いや、普通に考えれば俺がタダで配ってるものだからキレるのはお門違いだと思うんだけど。


 で、そいつらが殴りかかる、ならまだよかった。あろうことか目の前の鍋を思いっきりキリカの方にぶん投げたんだ。


「っ!」


 障壁ブロックを張っても微妙に間に合いそうに無いので仕方なく縮地法(ステップ)を使ってキリカを押し退け、鍋の中身が溢れないように抱えた。


 そう、ここでバカな俺は抱えてしまった。中身グッツグツの鉄製の大鍋をな!


 だって勿体無いし……。


 整備中だったので星操りシリーズの防具も着けておらず。当然のようにジュウッと。


 後で気づいた。暴食発動して収納すれば良かったと。


 で、見事に両腕火傷を負い。しかも中身ちょっと溢れた奴が腕にかかって肘から先が凄いことになってる。


「あー、全く……俺のバカ……なんで抱えんのさ……別に最悪ぶった斬っても良かったんちゃうんか……」


 痛い。じんじんする。ホンマ阿呆やな、俺……


 でも食べもんを粗末にするんは俺の流儀に反するし。


 しかもこの火傷を対処するのが遅すぎたせいか傷痕と同じような扱いになって魔法じゃ治せないということになった。


 お陰でじんじんヒリヒリが止まらない。


 もっとゆっくり入りたいのに………


 仕方ないので風呂から出る。拭うときもちょっと痛いから優しくトントンと叩くように拭く。お陰で時間がかかって仕方ないけど。


『ちょっと、大丈夫?』

「なんとかな」


 服が擦れるのも痛いからピネに手伝ってもらいながら両腕に包帯を巻く。


「これ、蒸れるな」

『我慢でしょ』


 上から手袋してりゃ見えないからパッと見はわからんけど。


 暫くは包帯巻き続けとかなきゃいけないかなぁ……








「来たぞー」

「ブラックか。丁度いいところに」


 丁度いいところに?


「少し妻を見てもらえんか?」

「え? ああ、うん」


 商談が先じゃなくて?


 初めてあったときよりも相当顔色がよくなっている。


 元気で何よりだ。


「ブラックさん、こんにちは」

「こんにちは。あれから体調の変化は?」

「お陰さまで」


 体質改善にはやっぱり時間がかかるけどその分ちゃんと治るからな。地道に続けるのが一番………?


「ん?」


 え。ん?


 …………ぇえええええええ⁉ いつの間に⁉


「ブラック。どうだ?」

「気付いてた?」

「薄々はな」

「そうっすか……おめでと」


 軽く体に異常がないか見てみたら、妊娠済みだったことに気付いた。


「どれくらいだ?」

「三ヶ月ってところかな……」


 軽く魔法で調べてみたけど、多分それくらいだろう。


「男か? 女か?」

「んー、わからんけど……両方、の気がする」


 勘だがな。


「……両方?」

「ああ、ごめん。説明不足だった。三つ子だよ」

「「三つ子⁉」」


 珍しいよな三つ子って。俺の勘で言えば男二人女一人だ。


「世継ぎが一気に三人も……!」


 嬉しそうで何よりですね。なんか羨ましいくらい幸せそうだ。


【あら、羨ましいの?】


 ここまで喜んでるのを見れば誰だってそう思うだろ。


【産みたいの?】


 お前、それ意味わかって言ってる?


【当たり前じゃない】


 じゃあわかるだろ。俺は痛い思いはしたくない。


【ああ、そう………】


 なんでそこで残念そうな口調になるんだよ……


 幸せそうな二人はとりあえず置いといて。


「えっと、俺は明日もうここを発つよ」

「早いな」

「そろそろ魔大陸にも拠点を作っとかないといけないからね。その為の準備期間ってところさ」


 魔大陸にいる魔物は大抵強い。この世界の冒険者ランクで言えばFが見習い、Eが駆け出し、D、Cがベテラン、Bが一流、Aが憧れの存在、その上のSは化け物ってなってるんだけど。


 ウィルドーズ周辺の魔物は強くてもCランク、普通に分布している分ではEかDの魔物が多い。


 魔大陸の魔物はそれを遥かに上回りBが標準、場合によってはSもごろごろ存在する。


 最近の調べではさらに強く、さらに増えているらしい。


 俺がこの世界に飛ばされた理由。人の産み出す負のエネルギーの浄化が間に合わなくなってきた証拠だ。


 地球では二酸化炭素が増えて温室効果ガスがうんたらかんたらって事態になるけどこっちの世界では魔物が増えるという事態になる。


 それを何とかしなければこの世界はいつか滅んでいくだろう。


 だが、俺一人がただ魔物を駆逐していったって絶対に間に合わない。俺は結局一人しかいないんだから。それに、いつか死ぬ。


 なんだかんだ言って俺もこの世界が好きだから。何とかしてやりたいと思う。


 その方法のヒントは、魔大陸にある。それは一年前に気付いたんだ。乗り込む勇気が無かっただけで。


「これからのことは任せた。暫く音信不通になるかもしれないからな」

「……ああ。気を付けろよ」


 なにか言いたそうだったが、堪えてくれたようだ。


 ありがとう、ゼイン。心配かけてごめんな。

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