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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 一冊目
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十日目 あいつと俺の距離

「んぅ……?」

「起きたか。もうそろそろ帰らんと暗くなる」


 皆が帰って一時間後、ようやくヒメノが起きた。


「ギルマス………? 皆は?」

「もう帰った。あとは俺とお前だけだ」

「え、あ、ごめん……起こしてくれればよかったのに」

「起きなかったんだよ」


 揺すっても起きないってどんだけ寝起き悪いんだよ。一回チョップ入れたけど反応無かったし。


「ギルマスってどうやって来たの?」

「新幹線と電車。何本乗ったか覚えてないけど………」


 そういや俺帰れるかな。どうしよう。あ、携帯あるわ。


「新幹線って高くない?」

「高いな。あんなにかかるとは思ってなかった」

「お金あった?」

「賞金あるからな」


 毎年入るし今年はほぼ圧勝だったから武器の直しもしてない。


「ギルマス」

「ん?」

「付き合ってください」

「またかよ」

「良いっていってくれるまでやります」

「恐ろしいこと言うな………」


 ストーカーみたいだ。ストーカーがどんなものかよく知らないけど………


「俺、よくわかんないんだ。ヒメノは好きだけどそれがお前の好きとは違う意味の好きなのかどうか」


 気のあう友人として好きなのか、本当に恋愛の相手として好きなのか。今まで考えたことがなかったし。


「だからさ、もうちょっと時間が欲しい。俺の好きがなんなのかわかるまで」

「それ狡いよ。ギルマスは」

「俺は狡さで世界大会行ってるからな」

「知ってるし、待ってる。ずっと待ってる。僕以外の男なんて目に入らないようにするから覚悟しておいて」

「お前そんな性格だったか」

「さぁ?」


 面白いやつ。でもやっぱりいいやつなんだろう。俺のことを好きでいてくれる、それだけで。


「送るよ?」

「いいよ別に。俺だって大人だからな」

「そういってるうちは子供だと思う」

「煩いな。あ、そろそろ行かないと不味い。じゃあまたな」

「また、ね」


 こんな風にさっさと別れ際で挨拶できるうちは、恋なんてしていないんじゃないかなって思ってしまう。


 あいつは延ばしたいようだけど。


 正直、俺にはよくわからない。


 恋とか愛とか、そんな形のないものなんて。


 電車の窓をぼんやりと見ていたらヒメノが手を振っていた。俺が見ていない可能性もあるのに、遠目で見てもはっきりわかるくらい大きく。


「ねぇ、あの人格好良くない?」

「イケメンだね。誰に手、振ってるんだろ」


 隣にいる多分俺とそう変わらない年頃の女子達がそう話している。ヒメノって遠くから見てもイケメンだよなぁ。中身は置いておくとして。


 ああ、でもそれもいいのか。ギャップ萌えってやつ?


 小さく、あいつに手を振る。見えてないかもしれないけど、ヒメノはその瞬間笑ったような気がした。









「あー、疲れたっ」


 なんでオフ会で遊びに行って疲れてるんだろ。でも、


「楽しかったな………」


 そう、楽しかった。ただ、ひとつだけ気になることっていうか、改善点があるな。


 人の顔を見ること。これが俺の改善点。ヒメノのイケメン具合だって大分後に判ったくらいだし、ハッキリと顔が思い出せるのはダイテークとヒメノとルートベルクの3人だけ。


 町中で会ったら反応できない自信がある。


 ゲームは今日はしない。いや、できないっていうのが正解かな。今は一人の時間が欲しいし親父がすぐ近く………多分姉の部屋にいる気配がする。


 もう人間の限界を越えていると思う。俺の親父との距離を感じとる力。


 姉がオフだろうが親父の会社が休みだろうが俺には関係ない。知ったことではない。


 どうせ俺なんて失敗作。演技力やスタイル抜群の天才の姉にどんなテストでもノー勉で満点叩き出す天才の妹。


 妹の天才ぶりはゲームでも発揮されかけた。だって考えてみてよ。初心者が世界大会の決勝まで進むってあり得ないだろ普通。


 俺でも一年かかったわ!


 なんだかんだ言って天才なんだようちの姉と妹は。超ど真ん中の俺にはなにもない。なにもかも超ど真ん中。それが俺だ。


 恥さらし。それが俺には丁度いい。


「わっ………と」


 突然鳴った携帯にビビりながらもL○NEを起動するとヒメノからのメッセージが届いていた。


 俺はそれを読んでからもう家に着いたことを打って送信する。


「って早い!」


 女子か! どんな早さで指動いてんだよ。


 読んでみると、来週遊びに行けないかという誘いだった。いきなりだなぁ………まぁ、暇だしいいけど。ただ、新幹線はちょっと疲れた。


 もっと近場にしてもらえないかな。


 そんなことを書いて送ると、


【じゃあそっちに行きます!】


「マジで⁉」


 結構遠いよ⁉


 いや、来てくれるのは有り難いんだけど俺の良心が痛む。


【大丈夫です!】


「いや、お前ならそういうと思ってたけど………」


 俺の住んでるところ何もないし。一番近い店っていったらコンビニになるレベル。しかもそのコンビニ今度潰れる。


 なんにもないし、やっぱり俺がそっち行く方がいいんじゃないかな。


【じゃあ丁度真ん中にするってどうですか?】


 真ん中?


【今日集まったところからギルマスの家まで真っ直ぐ線引いて丁度その真ん中にすればお互いに相手の負担気にしなくていいですよ】


「天才かっ!」


 それでいこう!


 というわけで早速。中学の時に使ってた地図帳を引っ張り出してきて今日集まったところらへんから家まで一本線を引き、定規で計って二分の一する。


 えっと…………山梨県。………ってなにがある?


【遊園地だと富士急○イランドが。スキー場とか美術館とかもありますよ】


「おお、遊園地かぁ。昔行ったことあるなぁ、富士急ハ○ランド」


 まだ人間不信じゃなかったとき。あ、なんか悲しくなってきた。昔のこと考えるの止めよう。


「美術館………はあんまり興味ないかな。っていうかヒメノはどうなんだろ」


 聞いてみると、


【スキー場行ってみたいです】


 なるほど。スキーか。一回だけ行ったことあるんだよな。金ならあるからそれほどお金は気にしなくていいし、ヒメノが行きたがってるならそこでいいかな。


 俺たちは細かな連絡をして話を終えた。………あ、風呂入らないと。







ーーーーーーーーー《ヒメノサイド》







「で、どうだった?」

「今週末スキー行くことになりました」

「え、OK貰えなかったのか?」

「なんか、ヒメノは好きだけどそれがお前の好きとは違う意味の好きなのかもしれなくてよくわからないからとりあえず整理できるまで待ってって言われました」

「おお、頑張れ………」


 社員食堂でルートベルクさんとあった。


「初デートがスキーか。お前滑れるのか?」

「いえ、そんなには」

「おい、大丈夫か? ギルマスって運動神経相当いいらしいぞ?」

「え、そうなんですか」

「450人いる中で7位だってさ」


 あんなに小さくて可愛いのにスポーツできるって神ってる。


「本当に神がかってますよね」

「お前ギルマスの話になると周り見えなくなるよな………」


 だって可愛いじゃないですか。あのちょっと大人ぶってるところとか、上の方に手が届かなくて一生懸命顔を赤くしながら背伸びしてるところとか、


「俺とか言いつつも口調がちょっと幼めに見えるところとか笑顔を少しだけ恥ずかしがってるところとか」

「おい、戻ってこーい」


 っと、声に出ていたかな。


「でもギルマス今は知らないけどいつか一気にモテ期が来そうだよな。あの顔でゲームの腕は世界レベルで運動神経抜群ってそうそういないし」

「ハッ⁉ じゃあ今すぐギルマスとあれやこれやして既成事実作っちゃってもう他の男のところいけないようにすれば………」

「絶対駄目だ。ギルマスに逃げられるぞ」

「確かに」


 ギルマスって強引なタイプ嫌いだし、その通りかもしれない。


「でもお前も気を付けろよ? ギルマス以外には興味ないだろうけど」

「勿論です」

「真顔でいうなよ………あそこで狙ってる女子達が不憫だ」


 僕はギルマス以外どうでもいい。会ってから余計にそう思うようになった。


「…………ギルマスってなにが好きなんだろ」

「ゲームだろ」


 いやまぁ、そうでしょうけども‼


「なんかプレゼントしたいんですよ」

「それ、ギルマスには通じない気がするぞ」


 脳裏にギルマスが笑顔で受けとり拒否している映像が浮かぶ。怪しいもの絶対に貰わない人だもんなぁ………

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