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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 一冊目
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一日目 ギルドメンバー

 初めましての方は初めまして。龍木と申します。


 ストックは結構あるので一日に二回更新くらいの速度で、そこから先はゆっくりと他の作品も投稿しつつやっていこうかと思っています。


 拙い作品ではありますが、読んでくださると嬉しいです!

 目を開けると飛び込んでくるのはお洒落な木で出来たランプが吊り下がっている天井。


 顔を横にすると小さな机と椅子があったり、この前ポイントで買ったばかりの品の良い防具が飾られている。


「んーん、やっぱ落ち着くなぁ」


 一週間もログイン出来なかったからな。久々だから腕が鈍ってるかどうかが心配だ。


 手を動かし、足を動かし。いつもの感覚に自然と頬が緩む。


 直ぐ様立ち上がって防具を身に付ける。大分前から気になっていたやつだから早く使ってみたかったんだよね、これ。


 カチャン、と武具をつける度に心が浮き立つのが分かる。相変わらず単純だな、俺。


 貯め続けていたポイントをほぼ全額使っちゃったのは気にしない気にしない。気にしてたら外に出れなくなる気がする。


 いつもの相棒(ゴーグル)を額につけて外に出た。


 太陽が俺を激しく照らす。でも皮膚が日焼けしているような感覚はない。視界の端に映るアイコンをタッチするとメールが一気に俺の目の前に展開された。


「うわっ、今日メンバーで集まる日じゃん!」


 ここ一週間で俺のもとに届いたメールの数々が今日の予定を教えてくる。


 このまま走ってもいつものところにたどり着かねぇな………よし。


 家の隙間に入り込み、思いっきりジャンプする。勿論それで上に行けるはずがないから落ち始めた瞬間に両側の壁を蹴る。


 二回ほど壁を蹴ったら屋根の上に出れた。


「えっと………あっちか」


 マップの矢印を見ながら屋根と屋根の隙間を飛び越えつつ目的地に走る。集合は12時。今は………


「やっべぇ! 後5秒じゃん⁉」


 全速力で走って全身のバネを使って屋根から飛んで着地、そのままの勢いで酒場に転がり込んだ。


「っつぅ………頭うったぁ………」

「おいおいギルマス。遅刻だぞー」

「心配してよ⁉」


 皆は酒を手に持ちながら爆笑している。急いでいてあまり気づかなかったがかなりの勢いで転がり込んだために三回転くらいしていたらしい。


「そうだぞギルマス。これで何回目?」

「6回じゃないか?」

「いや、8回だろ?」

「え、お前ら新人か? 俺は少なくとも10回は見てるけど」


 くっそ。16回目だよこのヤロー。俺の遅刻癖は多分治んないから見逃してくれよ。


「えっと、大丈夫?」

「ああ、大丈夫、大丈夫。ギルマス元々タンカーだったから。ダメージ入ってないだろ?」

「少しは心配しろよ………入ってないけど」


 割りと痛かった気がしたんだけどHPのゲージは全く反応してくれなかった。解せぬ。


「っていうか、俺リアルではそれなりに忙しいから時間設定俺がいないところで毎回やるのやめてもらえない⁉」

「ギルマスの武具カッコ良いな」

「そこに突然話振るのやめてくんない⁉ ………まぁ、高かったけどね」


 そう。これは滅茶苦茶高かったのだ‼


 課金していないプレイヤーとしては滅茶苦茶な高値‼


「なんてったって………いや、やめとこ」

「言えよー」

「言ったら面白くないだろ? 見つけてこそ醍醐味じゃないか」


 酒場が一気に笑いに包まれる。別に面白くもなんとも無いって思うかもしれないけど、これ俺の口癖なんだよね。


「出たよ、ギルマスの『醍醐味じゃないか』が」

「なんだ、駄目なのか」

「いや? それでこそギルマスだ」


 酒場のマスターにエールを樽で頼んでから席につく。俺の席は一番奥の右側って何故かいつも決まってるからそこだけは空いてるんだよね。


「おーいギルマス!」

「ん?」

「こいつら新人なんだ。見てやってよ」


 前に出てきたのは女二人組だった。


「装備からして盗賊シーフ法術師ソーサラーか?」

「あ、はい! そうです! この度はメンバー入りをさせていただきたく………」


 長々と挨拶が続く。っていうかよくそこまで息が持つな。俺だったら絶対に息継ぎする。


「そんなに固くならなくて大丈夫だよ。さっきの見ても分かると思うけど俺ボケ担当だから。ここではギルマスっていう名前だけだよ」

「そうだよなー、ん? ギルマスって何ていうネームだったっけ」

「ひどっ! それは酷いぞ!」


 いやまぁ確かに気づいたらギルマスとしか呼ばれなくなってっけど‼


 俺だってちゃんとした名前があるんだよ!


「なんだっけ?」

「セドリックだよセドリック‼」

「ああ、いい感じの厨二ネームだよな」

「誰が厨二だ!」

「どうやって決めたんだっけ?」

「名前ジェネレータで」

「「「おい」」」


 え、駄目だった?


 だってどんな名前使えばいいのかわかんなくて、悩みに悩んだ末のジェネレータだよ?


 この俺にネーミングセンスを求める事が間違っているのさ!


「えっと、シャクヤクとボタン………は最初からペアだったの?」


 届いた酒をギルドメンバーで適当に開けながらそう聞くと、


「はい、その、やっぱり離れなきゃいけないでしょうか。ここ人数多いし………」

「まぁ、普通だったら離すだろうけど。今時盗賊(シーフ)やってる人少ないしね」


 どうしても地味だって見られがちなんだけど絶対にパーティに一人は要るんだよね。罠の解除とかタンカーじゃキツいし。盾邪魔だから。


「やっぱり……」

「とりあえずグループ6に入ってみて。あそこって今探知系の人居なかったよね?」

「そうだったと記憶しています」

「じゃあそこで。二人ともそこに入ってみて。合わなきゃ辞めていいよ。無理に引き留めるつもりはないからさ」


 エールを飲みながらそういうと二人ともキョトンとする。


「他のところでは絶対に離すって言われました」

「俺は別にいいと思うよ? ねぇ皆」


 盗賊シーフは中々いない職業だからそれなりに沢山居る法術師ソーサラーと一緒にすると偏るからね。


 普通はダメっていうだろうさ。俺は楽しめたらいいと思うから別にその辺りは気にしない。


「いいんじゃない?」

「ギルマスが決めたんなら」

「そうそう」


 適当に返事してくるなこいつら………。


「ってことで。6番のリーダーはエッグだったよな?」

「ああ、俺だよ」

「わからないことがあったらこの髭のおっさんに聞いてくれ。それと、治癒師ヒーラーは………メグだっけ?」

「はーい」

「パーティのルールだったりクエストの事を教えてあげてくれ」

「りょーかい。宜しくね、二人とも」


 俺の声ひとつで皆が動き始める。俺は酒場のマスターに一番いい飲み物を出してもらい、二人に渡す。


「さて、まぁ、色々と不安はあるかもしれないが。何かあったらこのギルドに居る限り俺達がサポートする。他のギルドのメンバーと遊んでもよし、ここで駄弁ってもよし! 俺達のモットーは『兎に角遊べ』だしな」

「何でこのギルド崩壊しないのかしらねー」


 俺の横でエールを俺のコップで飲んでいるヒメノがそんなことを言ってくる。


「そんなことは今に始まったことじゃないだろ。っと、こんな風にグダグダなギルドだがそれなりに腕も立つ。折角こういう遊びがあるんだからとことん遊びまくるのが醍醐味ってもんだろ! そうだよなお前らー‼」

「「「おー!」」」

「まーたこいつら雰囲気で酔ってる……」


 誰も実際にアルコールなんて摂取していないしな。俺達は雰囲気に引っ張られるやつらの集まりだし。


「長くなったけど、俺達は君たちを歓迎するぜ‼ 新たな仲間に、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 全員が飲み物を上に上げる。ぶつぶつ文句を言っていたヒメノも一応あげているんだから、やっぱりこういう雰囲気って大事だよな。


 二人が自分の席に戻ったので俺も自分の定位置に座る。


「ギルマスー飲んでっかー」

「シナガワ………ログイン前に飲んだ?」

「飲んでねえ。素面だっ」

「よくそれでそのテンション維持できるよな」

「ギルマスには言われたくないと思うわよ」

「ウッ………」


 反論できねぇのが辛い。俺だってリアルでこんなテンションで居ることができたらどんなに嬉しいだろうか。


「ところでさ、ギルマスって中の人幾つ?」

「おまっ―――それはルール違反だろう」

「えー? だって気になるじゃん」


 後ろから抱きつかれて酒が溢れそうになった。


 この胸の大きさは………シオンだな。


「俺は永遠の男子高校生だぜっ」

「永遠の三歳児の間違いでしょ」

「さっきから毒吐きすぎじゃないか」


 俺をなんだと思ってやがる。


「だってギルマスってオフ会にも来ないしー。ワールドマッチでも遠方参加じゃんか」

「ワールドマッチはテレビ来るから嫌いなの。っていうか俺の中身見たら笑うよ?」


 ワールドマッチっていうのは世界大会だ。俺は一応チャンピオンってことになってるけど、ぶっちゃけここでこんな風に遊べたらどうでもいい。


 それでも出るのは大会で優勝すると貰える賞金の為。


 このギルドそのものもチャンピオンという俺の名前を一切出さずに作った。まぁ、結局ギルド自体が大きくなってるから俺の名前とかほぼ関係ないけど。


「ワールドマッチは賞金貰えるから出てるだけだし、無かったら出ないよ」

「オフ会は?」

「ごめんって。俺だって事情があんの」

「あ、もしかして」

「ん?」

「ヨボヨボのおじいちゃんとか…………?」


 エールを吹きそうになってしまった。誰が爺だコラ。


「永遠の高校生だっての」

「それ意味不明」

「はいはい、この話終わり。クエストどうする?」


 そういった瞬間に全員が俺の方を向いてくる。


 こういうときってこいつら動き揃うよな。


「行くのか?」

「時間的にはいいだろ。で、どうする?」

「氷の城行きたい!」

「あそこは先々週入っただろ。切断の林とかどうだ?」

「えー? じゃあ炎熱の砂漠がいい」


 ワイワイと盛り上がる皆を見ると、こんな俺にも慕ってくれる人が居るんだなってそう思える。


 だから、止められない。俺の気が本当に安らぐのはここしかないのだから。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 目を開けると飛び込んでくるのはVRゲームのディスプレイとそこに表示された俺のアバター。


 濃い青色の髪に、切れ長の目、身に付けている物の数々。自分でも中々いいキャラメイクが出来たと自画自賛している。


 現実の俺とは大違いだ。


 脱ぎ捨てていた制服をハンガーにかけ、制服以外なにもかかっていないクローゼットにしまう。


 ヘッドホン型のVRゲーム器をパソコンから取り外して俺の部屋にあるトイレのタンクの裏に隠す。ここじゃないと見つかる可能性があるからだ。


 それからタンクにも仕掛けがある。とある手順でやらないと開かないように改造した。ゲームの為ならやむなしと寝る間も惜しんで家族が寝静まった夜中に一人で改造していた。


 窓は絶対に開くまいと黒いシャッターが常におりていて、扉は最新式のカードで開く鍵をつけた。こうでもしないと誰か部屋に入ってきてしまう。


 水道水で顔を洗ってタオルで拭く。鏡に映った顔は本当に平々凡々で姉さんや妹には絶対に勝てっこないものだ。


 音を立てないようにこっそりと一階に下りると偶々姉と鉢合わせてしまった。…………最悪。


「ちょっと、帰ってたならそう言いなさいよ。私今日オフだって言ったよね?」

「………今度からいうよ」

「それこの前も言ってなかった?」

「覚えてない」


 本当は覚えてる。けど、そんなことどうでもいい。クソ、飲み物を取りになんて来なきゃ良かった。水道水にすれば良かったのに。


 完全に俺のミスだ。戻ろう。


「ちょっと、なんでどっか行くのよ」


 うわっ、掴まれた。


「姉ちゃんには関係ない」

「関係あるよ! ねぇ、なんでそんなに避けるの? なんでご飯も一緒に食べないの?」


 でたよ姉ちゃんの質問攻め。もう放っておいてくれ。


「お父さんもちょっと悪いことしちゃったなってこの前言ってたよ? ほら、仲直りしよ?」

「ちょっと悪いことしちゃったな…………?」


 今、何て言った?


「うん。そう言ってたよ」

「………それ以上もそれ以下も言ってない?」

「うん。その質問の意味がよくわかんないけど」

「じゃあ一生あの人とは仲良くできない。以上」


 そもそも根本的に合わないんだよ。俺とあいつ(父親)は。


 あいつも俺を理解しようとしないし俺もあいつには興味など欠片もない。俺が誰にも負けないってそう言える物を、あの人は全て文字通りぶち壊したのだから。


「理由くらい教えてよ!」

「誰も謝罪なんか求めちゃいない。理解しようとしないならこちらも理解しない。それだけ」


 部屋の扉を閉めた。ガチャン、とオートロックで扉がしまる。


 俺のこの部屋はまるで鳥籠だ。

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