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昨日の夜の出来事は健太にとって悪夢であった。
いや、夢であればこんなに悩むことはないであろう。
確かに蒼髪の少女の糸を断ち切った。
胸の中に入れる感触は、沼に手を突っ込む感覚。
糸を断ち切る感触は、ゴムを引き千切る感覚。
まぎれもなく空想ではなく真実。
その感触を思い出すたびに、胸が肉壁を叩いてきた。
警察に自首しに行くのか悩んで現在、教室の自分の席に座っていた。
健太は隣の空席を見る。
御園の席だった。
健太にこの事を相談できる人間などいなかった。
だから事件の当事者である御園に相談するしかなかった。
「・・・よう」
「おい、女の子が挨拶してるのに無視はないだろう?」
「えっ?」
聞こえた方を見ると、慎二がそこに立っていた。
「おはよう、前田君」
健太は平静に見せようと挨拶をした。
「慎二でいいよ、というか横の女の子が挨拶してんのに、何で挨拶返してやらないんだよ?」
健太は御園の席を見ると、女子が座っていた。
「おはよう、御そ・・・」
健太は挨拶をしながら、横にいる御園に話しかけるが、顔を見て驚愕する。
御園の席に座っているのは御園 春香ではなく、健太が二度と忘れることが出来ない顔だった。
その席に座っているのは、蒼髪蒼眼が美しい女の子だった。
「おはよう、都筑君」
昨日、まぎれもなく健太が殺した少女だった。