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健太は中心街にある小さな公園にいた。
目的は子猫を埋める為だった。
動物で、しかも死期が近いモノを断っただけだった。
しかし理由はどうあれ、小さな命を殺した自分が赦せなかった。
だからこそ責任を負うべく、子猫を埋葬していた。
「無事に天国に行けるといいね」
健太の横で御園 春香が悲しそうな顔をしながら話す。
皆も行こうかと言っていたが、健太は懺悔の念からか一人で埋葬したかった。
しかし春香は、健太の後をこっそりと追いかけ、今に至る。
「・・・だといいけど」
健太はそう言うと、すっと立ち上がる。
「どこに行くの?」
「コンビニ。子猫が食べられそうなものを買ってくる」
「私も行こうか?」
「直ぐに帰ってくるさ」
公園に向かう道中、近くにコンビニがあったのを確認していた。
時間にして5分。
直ぐに帰ってこれる距離だ。
「直ぐに戻ってくるから」
「うん、わかった」
公園を後にし、考える時間が欲しかった。
だから、健太はどうしても一人になりたかった。
命を断つという事は覚悟がいるという事だ。
健太は、この街で起きている猟奇殺人事件犯の気持ちなど微塵も共感できないでいた。
初めてあの能力を使ったのは事件の後、検査の為に入った病院の部屋だった。
病室の横にあった花瓶に入っていた花。
その花から白い糸が映えていた。
何だろう、初めは興味本位だった。
その糸を引き抜いた直後、活き活きと育っている美しい花が枯れ果て、生気を失ったのは・・・。
初めは夢だと思う事にした。
だが、その《糸》が生活の一部となってしまっていた。
――神から賜ったモノなのか、悪魔の子になってしまったのか・・・。
そう考えただけで、健太は恐くなっていた。
この事を考えていると、コンビニに着いていた。
コンビニの時計を見ると時刻は二十二時を回っていた。
流石に女の子一人はまずい。
健太は牛乳と食パンを買うと、公園へと急いで戻る。
公園が見えてきた場所で異変が起こった。
「な、んだ、ここ・・・」
健太はとてつもない恐怖感に駆られた。
全身鳥肌が立ち、空気が重く、息苦しくなる。
この先に行くと間違いなく災いが招く。
健太の第六感がそう囁く。
――ココハ、キケンダ!
誰かが忠告する声が頭の中で響いている気がした。
健太は立ちくらみがし、電信柱にもたれかかる。
ふと、もたれかかった電信柱を見ると、はがきぐらいの大きさの紙が貼りつけられていた。
「くそっ、こんな時に」
紙に描かれていたのは六芒星。
健太には忌まわしい儀式の象徴だった。
「こんな物・・・」
健太は脱力した身体だったが、紙に映える《糸》を断ち切った。
断ち切るとその紙は粉々に破れていく。
その直後、先程までの恐怖感が失っていった。
――どうなっているんだ?
直後、悲鳴が上がる。
考える暇などなかった。
御園だ。
健太は春香の安否が心配になり、急いで公園に向かった。
公園の入り口まで来ると春香が恐怖に脅え、座り込んでいた。
全身黒色のローブを纏った者が春香の眼前に迫っていた。
その両手には西洋式の短剣を握りしめ、春香に近づいていた。
――御園が危ない!
ためらいなどなかった。
刹那、健太はそいつに向かって走り出す。
距離にして20メートル。
「都筑君!」
「うおおおおおお!」
健太はそう叫ぶと、そいつの胸めがけて右手を伸ばす。
「っつ・・・!」
不意を突かれたそいつは、標的を春香から健太へと変え、短剣を健太に斬りつける。
しかし、刃物が健太を斬りつけるよりも健太の右手の方が速く、《糸》を断ち切った。
その直後、ローブの者は糸を断ち切られた人形の様に地面に崩れ落ちた。
「速く逃げろ!」
「でもっ・・・!」
「いいから・・・!」
困惑する春香を怒鳴ると、春香は言われるがまま、ダッシュで公園から姿を消した。
《糸》を断ったが、人間に使うのは初めての経験だった。
生きているのでは、そう疑問を感じながら、健太は息を切らしながら、恐る恐るそいつに近づき、脈を確認する。
――脈がない・・・。
顔を隠していたローブを脱がせ顔を確認する。
「外人の女の子?」
ローブで隠された顔立ちは、短髪の蒼髪蒼眼の少女だった。
眼はくっきりと見開き、生気がまるでなかった。
その眼は、とても綺麗で、とても恐ろしく感じた。
健太は眼を直視すると、嗚咽感が襲い掛かった。
「おぇぇ・・・!」
自分が人を殺した・・・。
健太はその考えから涙が溢れてきた。
小さな公園で大きな命が息を引き取った。