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黒のケーキ



 屋上に顔を出すと、強い風に顔面だけ打ち付けられた。目をつむって、屋上の淵に捕まって、風が弱まるのを待つ。

「シロくんおそいよー」

 懐かしい少女の声が聞こえた気がした。

 太陽によく映える笑顔で矛炒ちゃんが笑った。

 帽子を被って、繋ぎ姿の、自称発明家の男、泡立あわだてくろが、芝居がかった声で、

「やあ、少年。よくこの場所がわかったね」

 と言った。

 気付くと、ホースから発射されていた白い玉が止まっていて、変な天気もやんでいた。

「完成だぜ、二人とも」

 兄貴の声に釣られて、矛炒ちゃんと僕はこの『この町で一番高い場所』から町中を展望した。

「あ!」

「わかったか、矛炒」

「うん、すごい! これ、クロ兄がやったの!?」

「そうだぜ、なんせオレは天才発明家だからな」

 矛炒ちゃんと兄貴が盛り上がっているが、僕にはまだピント来ていなかった。

 『この町で一番高い場所』から、数百メートルに渡って、町が真っ白になっている。確かに、町をこんなにめちゃくちゃにしちゃうのはびっくりするというかもう頭おかしいなこの兄貴と思わざるを得ないけれど――。

「矛炒ちゃん、テンション高いね」

「えー。テンションあがるよそりゃ! だって私たちの町がケーキになっちゃったんだよ! スウィィィィィィィィィィツタウンだよ!」

「は?」

 なにケーキ? 矛炒ちゃんに「ほら」と手を引かれて歩く。屋上を一周するように。景色はどこから見ても全部同じ白色で、『この町で一番高い場所』を中心に円を描くように真っ白に染まっていて、まるでホールケーキの中心のろうそくの上から見下ろしているみたいだ。

「……ね、ケーキでしょ?」

 矛炒ちゃんが僕の顔をのぞき込んだ。紙なら破けてしまいそうなほど、くしゅくしゅな笑顔で。

「ケーキだ……」

「でしょーーー!」

「ケーキだー!」

「ケーキだよぉお!」

「ケーーーーキ!」

「おいしぃいいい!」

「あ! ずるいぞ矛炒ちゃん! 僕も食う!」

「おまえたち!」

 兄貴がハイテンションな僕と矛炒ちゃんを大きな声で静めると。

「約束のでっかいケーキだ。喧嘩しないで食えよ!」

「「はーい!」」

 矛炒ちゃんも兄貴も、破けそうな笑顔だった。

 たぶん僕もそう。

 たったひとつの約束があった。

 そのおかげで……いや、きっとそんなのは理由のひとつにすぎないんだ。いつまでたっても、僕たちの中でつながっている、小さな幸せの種みたいなものは変わってないんだなと。

 この町で一番高い笑い声に思った。

「カーーーロリィィやばぁぁぁぁあああああ!」

 矛炒ちゃんは少しだけ昔より女子になった。



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