泡立白―四駆―
「――えええええええええええええええええ?!」
どうしよう。いや待てって。本当に? 誘拐とかある? なんで?
ちょっといくら何でもそれは発想が飛躍しすぎでしょう。だけど、嫌な予感は当たると相場が決まっているし(誰だよ決めたの)。
迷ってる間に、とにかく外へ出る。
鉄の重い玄関扉を押し開くと、廊下の柵の向こうの景色は、巨人が空の上の机から、消しゴムのカスを払い落としているような不可解な天気で、依然として汗は止まらない熱気に満ちている。果たしてあれは、ちゃんと排水溝に流れるタイプのものなのだろうか。結構それは重要な問題だと思う。
って、そんな場合じゃなかった。
「矛炒ちゃん!」
柵から上半身を乗り出し、正面の別棟に声が反響するくらい大声で叫ぶ。
と、団地の間の私道に、SUVが一台止まっている事に気が付いた。別に変わった風景じゃない。団地の住人が少し止めているだけかもしれない。実際、自動車やトラックがその道に止めてあることはよくあった。最近は研究や開発が忙しいらしくて会ってないが、発明家(?)の兄貴もSUVに乗っていて、「SUVって、スポーツ・ユーティリティ・ビークルの略なんだぜ」と教えてくれた。ちなみに当時はスポーツ以外の意味は分からなかったので、僕は「ふぅん」と答えるのみで、どちらかと言えば、「4WDだぜ」という一言の方がずっと魅力的に聞こえた。うん、四輪駆動車なら、この白い何かが積もった道路も走って行けそうだな。
しかし、僕がその車に注目したのは、それが四輪駆動車だったからではない。帽子を被っていて顔は見えないが、そのSUVの後部座席のドアの前に立つ男が、僕の知っている少女――久矛炒ちゃんを車内へ押し込んでいるところだったからだ。




