リア充ですが何か?
始めましての方は始めまして! お久しぶりの人はお久しぶりです。
短編ではありますが、今回初の一次創作を書かせていただいたヨシュアというものです。
衝動で書いたものかつ、慣れない文を書いているので雑だったり、詰め込みが浅い部分が多々見られますが、一生懸命書きました。少しでもお楽しみいただければと思っています。
尚、この作品に対しての感想を強く希望しています。というのも始めての一次創作であり、この主人公らにどう思われるかと言うのを知りたいからです。
真に自分勝手な都合ではありますが、素直に思ったことを書いてくださればそれだけで嬉しいです。
拙い文ではありますがよろしくお願いします。では。
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場所は屋上の放課後。呼び出し方は下駄箱の中に手紙が一枚。これ以上無いくらいわかり安すぎる古風な方法。
ここまでお膳立てされれば馬鹿でもこの後のことに気付く。
「私と、つ、付き合って、貰えませんか?」
そして案の定予感は的中。
つっかえつっかえになりながら、頬を朱に染めて久遠小百合はそう言った。
ああなんだよくそ。可愛いじゃねぇか。俺だって男だ。そんなに上目遣いされたらドキリとするし、プラスアルファで涙目なんて卑怯な真似しやがってからに。
そもそもだ。何でこうなったんだっけか? ……なんて、逃避はしない。理由だってわかってる。オーライ。任せろってそんな責任転嫁をするつもりなんてない。
事の始まりはあのド腐れ女の紹介から起こったにしろ、了承したのは俺だ。
きっちり決めるさ。クソ野郎が……。
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「ねね、ようちゃんってば! 聞いてる?」
時刻は十二時を過ぎた所――昼休みだ。
俺にとっては貴重な昼寝時間の心安らぐ一時であり、何人たりとも侵すことの許されない神聖な時間――というわけでもないが、自他共に認める超絶寝起きの悪い俺を起こすこと=キレる可能性が非常に高いのでオススメはしない。
「ようちゃ~ん? 起きないとキスするぞ~?
それでそれで、寝ぼけたようちゃんに襲われましたーってセンセーに申告しにいっちゃうぞ~?
いいのかないいのかな~? 優等生の言葉は説得力があるの。ようちゃんなんてすぐに停学食らっちゃうぜぃ?」
オススメはしないっつってんだろうがぶん殴るぞこのアマ。
それでもキレなかったのは話しかけてきたのが唯一の友人と呼べる存在であり、高校二年に至るまでずっと一緒だった幼馴染だからだ。
学校もクラスも学年も隣の席もコイツがいなかったことなんかない。
遊びはもちろん。一緒に食事も普通にしてたし、一緒に海水浴は当たり前。混浴だって完了済と来た。
最早目の前で服を脱ぐないし、脱がれた所でなんの感慨も抱かない。幼馴染オブ幼馴染の称号を持つ少女だ。
「それとも何か! もっと先まで要求してきてあれやこれやして欲しいってか!」
あー、うるせぇ。
相手が俺だって言っても真昼間から女が男にキスするだのあれやこれやするだの言うなよ。
つーかあれやこれやってなんだ? まさかとは思うがその貧相な身体でエロいことするって意味か?
……ッハ! センセーだって俺の肩を持つね! 俺だって襲うならもっと豊満な身体持つ女襲って散ったるわ!
「こらぁ! 寝たふりして変なこと考えてるんじゃな~い! 起きてるってのは知ってるんだから!」
「っるっせーな……。こちとら眠ぃってのに耳元できゃんきゃん喚くな無い乳が……」
「無い乳なのは個性です~。それよか話くらい聞いてくれたっていいじゃん?」
「お前が巨乳になったらな……」
「なったら肩こるからヤダ」
「さもいつでもなれるようなこと言いやがってからに……」
あれだぞ? 胸の重みで肩こるってのは女の夢らしいぞ? 見るからに地平線を表してるお前の胸じゃ一生かかっても無理だろうに。
とかなんとか、アホなこと考えてたら折角のまどろみタイムがどっかに飛んでったじゃねぇかこんちくしょう。
ボヤけていた意識は鮮明。目の前には嬉々とした表情でいる幼馴染。残りの昼休みはたっぷりと三十分以上。
全く、溜息吐き出したくなる。っつうか現在進行形で吐き出してる。
だって、聞くしか暇つぶしをする手段がないんだから。
「んで?」
「んで?」
「俺の真似してどうする……。俺になんか用があったんじゃないのか、みぃ」
「あ、そうそう! 忘れてたよ。流石幼馴染のようちゃん。そっちから聞いてくれるなんて嬉しいぜぃ♪」
……ああ、この晴れやかな笑みを涙に代えてやりたいとこれほど思う相手も珍しい。
それくらい鬱陶しい。無い乳のくせして態度だけは超でけぇ。きっと胸に行く分の栄養をこの態度に食われたに違いない。
このアマ、もとい、無い乳もとい、椎名湊は昔からというよりは昔より酷い。胸の成長分を性格が食ってるんだから当たり前か。
一応断っておくが、恋愛感情とかそういったものは一切無いし、これから生まれる予兆も無い。ただの腐れ縁だ。
「そんな腐れ縁女のみぃさんは俺に何を要求するのだろうか……」
「腐れ縁って傷つくなぁ。いくらなんでも思ってることを口に出しちゃうなんて……」
「おっと失礼」
「酷い、酷いよ……」
「思ってもないくせに」
「事実だね」
「「よし」」
何がよしなんだろうかと自分でも思うが一つの区切りみたいなもんだから気にしないということでお互い納得している。
こんな風に別にこういうこと言い合っててもお互いなんともない。クラスの連中だって最初のうちはみぃに肩を持っていたっぽいが無駄ってことに気付いたのかもう慰めや非難の声は一切無い。
とまぁ、区切った所で本題だ。みぃの頼みをまだ聞いてない。
「んで?」
「んで?」
「そのネタはもういい」
「つれないようちゃん……」
元々ノリなんてもんは持ち合わせていないし、お前だってそれくらいわかってるだろうが。
みぃ以外の学生と話すこともせず、成績だって良くは無い。目立たず、騒がず、可能な限り他者から認識されず、静かに毎日を送り、こうしてたまにみぃと騒ぐくらいで十分だ。
世の中たくさん友達を作りたがるやつもいるが、それは他者の話。いたほうが楽しいだとか、そんなことは知らない。
俺は一人でいたいんだ。別段孤高の存在になりたいとかそんなことを思ってるわけじゃなくて、話だってそれなりにするし、喋ること事体は嫌いじゃない。少なくともみぃと喋ってる時は楽しんでると思う。
楽しければいいじゃないか。友達がいなくても、無理に作ろうとしなくても。
「実はね、ようちゃんに会わせたい子がいるの」
「……またか」
「うん♪ 大人気だね♪」
そんな俺には悩みがある。
「久遠小百合ちゃんって言ってね? 凄く可愛いんだ。なんとなんと、校内将来お嫁さんにしたいランキングナンバー1!」
「へ~……」
「バレー部の期待の新人さん。今度の日曜にデートの約束取り付けといたからよろしく頼むぜぃ♪」
「また余計なことを……」
沖田陽介。あだ名はようちゃん。
年齢、十七才
職業、高校二年生。
趣味、特になし。
現在一人暮らし。
特技、仕方なく料理。
備考、アルバイト生活を強いられている貧乏学生。
こんな感じで自分で考えた所で特徴らしき特徴の無い俺に舞い込んでくる都合三十回目の面倒ごと。
そんな俺に周囲はこう言った。
リア充め! と。
だからどうした。それが俺の悩みだよ。
俺の悩み、モテ過ぎること。
三十回とは言ったがそれは直接俺に関わって来た奴らの数だ。みぃに切られた奴の数も含めればもっといるだろう。
目立ちたくもないのに見てくれだけは周囲の好みに生んでくれた母親はもうどこか他の男のとこで寝ているだろうし、父親にいたっては借金抱えて自己破産。今じゃムショの世話になってる始末。当然諸々の金は俺がバイトで稼いで払うってことになる。
おかげで俺の財布事情は寒い。
こんな状態で女共にたかられて嬉しいと思うか? 思わねぇよ普通は!
それでも顔がいいならまだ救いがあるとか言いやがったアホ共。そんなに聞きたきゃ声高らかに言ってやる。
リア充ですが! 何か!
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そんなこんなで具体的な対応策も浮かばないまま流されて日曜日。
待ち合わせは集合しやすい駅前に午前十時より集合となっている。
今はその三十分前。移動時間は十分少々。みぃから貰ったメモの確認時間くらいはあるだろう。
しかし、毎回相手のことを調べてくれる辺り、アイツもマメというか暇人というか……。
久遠小百合
バレーボール部次期エース候補。
性格はとても優しいほんわかタイプ。基本的には聞き上手。
お嫁さん候補ナンバー1というだけあって家事全般が好きで、得意。家庭科の授業では右に出るものはいないらしいよ。成績はなんと私より上なんだぜぃ。
そんな彼女の好物は甘いモノ全般。趣味はようちゃんと同じで料理もそうだし、観葉植物育ててるんだって~。この辺は凄い女の子してるね。
攻め方としては奥手なんじゃないかなぁ? いきなり迫られるなんて事はないと思う。
あ、あと着やせタイプ。あの子脱いだら凄いんだってよお兄さん! ボン! キュ! ボーンで――
よしわかった。前半の情報量よりも後半の話題のが多い気がしたがいつものように無視。どうせくだらないことしか書いてない。
「そろそろ行くか……」
そんな感じで動き出して、到着したのは十分前。
駅前のシンボルであるとも言える時計台の前に彼女――久遠小百合はいた。
特徴は事前にみぃから聞いていた通り、茶がかった髪に短いツインテール。間違いないだろうが――
「アホだ……」
――思わず溜息が出るのを止められない。
今の季節は冬にさしかかる一歩手前。十一月の中盤。
だと言うのに彼女は黒っぽいミニスカートに白のカーディガン、羽織っているのはストール一枚。後はポーチ。
ちなみに今日の気温は十度を割ろうかという勢いで絶賛今年の最低気温を更新中だ。風もきつい。
男ならまだやせ我慢で通るかもしれんが、女がそれじゃいかんだろ。
「あ、沖田先輩!」
俺の視線に気付いたのか、小柄な彼女がテテテと駆けてくる。
にっこりと笑うその顔は陽だまりのようで、くりんとした大きめの瞳に薄い唇。成るほどお嫁さん候補ナンバー1というだけあって可愛い。
「お前、風邪ひくぞ」
なんとも飾り気の無い第一声。
待たせて悪いとか、そういう定番のことを言うべきだったのだろうか?
だが、あいにくと気が乗らないデートにそこまで気を廻してやる余裕はない。
こっちは付き合ってやってる側だ。それで文句を言われた所でそうですかって話だ。
「寒くないです」
「んなわけあるか……。今日何度か知ってんのか?」
「本当に、寒くないんです」
だけど、文句なんて一つも返ってこない。
「だって、沖田先輩が来てくれました。
待ってる間、ちょっと不安でした。来てくれるのかなって。その時は寒かったですけど先輩を見たら暖かくなりました。
今ですね、心臓がトクトク言ってて、寧ろ熱いくらいで。
だから、寒くないんです」
「あー、そう? なら、いいけど……」
「はい!」
くそ。なんつう眩しい笑顔向けやがる。おかげでろくな事を喋れやしない。笑われてるし……。
っつぅか、好意駄々漏れじゃねぇかよ。情報合ってんのかよ? みぃの野郎め……。
「私、頑張っておめかししたつもりです。普段あんまり買わない雑誌も買って、前日にお母さんとお買い物に行ってたくさん悩んでこの服を買いました」
「ああ、うん。似合ってると思う」
「ありがとうございます。それで、ですね、いい、ですか?」
――先輩の、隣を歩いても?
最後の一言は声になってないけれど、それくらいの心情を読み取るくらいは出来る。
三十人を超える女子とこうしてデートしたんだ。嫌でもなれるさ。
正直言って、こういうタイプは一番苦手だ。
はっきり物言いが出来なくて、だけど、好意だけはありありと伝わってきて。
わかるから、こっちも強く出られない。
「どうぞ、ご勝手に」
「……えへへ」
ああ、何やってんだろうな、俺。
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午前中は映画を見て終わった。
というのも、久遠が先輩のしたいことならなんでもついていくって言ったからなんだが……。
「ひっく、ひっく……」
「お、おい、久遠。そんな泣くなよ?」
デートの定番と言えば映画だろうし、考える必要も無く、時間を有意義に使えるってとこではこれ以上の所はないってことで最近流行の洋画を見に行ったんだ。
思っくそ泣いてますよ久遠さん。
いや、別にホラーとかサスペンスとかそんな怖い映画ってわけじゃなくて、洋画によくあるヒーローが悪役を倒してくっていう王道映画なんだが……。
「蜘蛛……。蜘蛛がいっぱいでした……」
「いやまぁタイトルの日本語訳が蜘蛛男だしそりゃでるよ」
「蜘蛛、苦手なんですぅ……」
「そういうのは最初に言ってくれ……」
もう主人公が蜘蛛な時点でアウトじゃねぇかソレ。
ぶっちゃけホラー映画見てたほうがまだ楽しめたような気がしてならんぞ……。
「せ、先輩は?」
「ん?」
「先輩は、楽しかったですか……?」
「ん~、まぁ、有名所だし流石って感じだけど」
あんだけ動き回ってるんだ。CGの技術やらスタントマンやら、相応の金をかけてやってるんだろう。
さして映画が好きでも無い俺が魅入るくらいだし、素晴らしい出来に入ると思う。
映画好きの方々からすればここがこうでアレが何々だから凄かったとかコメント出来るかもしれないが、俺は残念ながらパンピーだ。感心されるようなことなんてないぞ。
で、無いっつってんのに今更パンフ広げて理解深めて共感しようとしなくていいぞ。
あげく設定資料に乗ってる蜘蛛にまでびびってるし。
「悪ぃな。苦手なの選んでよ……」
「に、苦手じゃないです! 蜘蛛以外は平気です!」
「続編はトカゲ人間が――」
「ひっ!?」
おもっくそびびってますやん。
ちなみにトカゲ人間なんてのは嘘だ。続編があるかどうかすら俺は知らん。
「でも、良いです……」
あーもう、なんとなく予想が出来るから経験って怖いわ。
「先輩が楽しかったんなら、私も嬉しいです……。また、見ましょう? 続編も、また一緒に……」
ほら来たー。
ああもう眩しい。何この子すっげぇ眩しい。ついでにストールで口元隠してるとことか可愛い。そんな殺傷能力抜群な微笑みを俺に向けんでくれ。溶ける。そりゃあもうでろんでろんのどろっどろに溶けちゃうって。
……というのは冗談にしろ、たまーにいるんだよな。こういう真っ直ぐな子。
「皮肉なもんだ」
「え?」
「いや、主人公とヒロインの関係がさ」
「ああ、ヒロインさん、最初は除け者みたいな感じでしたもんね?」
「あんな男に惚れなきゃ、もっと普通に幸せになれたんだろうにな」
「それじゃあ物語が始まりませんよ~」っと笑う久遠。そうだなと曖昧な相槌を打つ。
確かに主人公とヒロインが関わって初めて物語は動き出す。
なら俺は、始まらない物語があったっていいと思った。
だって結末が決まりきったお話なんて、ヒロインが可哀想なだけじゃないか……。
そんなお話、いらねぇんだよ。
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映画を楽しんだ俺達は空いた腹を満たすため館内にあるフツーのファミレスに入ることにした。
「せ、先輩、あーん」
「ふぅ……」
前略、みぃ様。
死ね。
朝の一件から怪しかったが、俺はお前の情報源を頼りにして、全幅の信頼を寄せていたというのに、その信頼を返してくれ。
ぶっちゃけ信じるもんがみぃの情報しかないからおのずと全幅の信頼になるんだけどな。俺、ぼっちだから。
取り合えず今の状況、見たまんま。ファミレスの店内――しかもど真ん中の席――で弁当――久遠作――をあーんをしています。
まぁ? 料理が得意だって情報にはあったし? 俺みたいに嫌が応にもやるしかないって奴よりそりゃ美味いんだろうよ?
ただ? それをファミレスのど真ん中で広げる度胸と? あーんするってとこからして?
ど! こ! が! お! く! て! だ!
思いっきりガセじゃねぇか。
そりゃあアレですよ? 別にいまどきのカップルは普通にそういうことするし、別に弁当もって店入るくらい珍しくないんだろうけど、あーんは無いだろ。しかもど真ん中で! 律儀に声までだして!
それもいいだろう。全然良くないけど良しとしよう。
問題はあーんをするその前だ。発端は全てそこにある。
「せ、先輩? お願い、きいてもらってもいいですか?」
「ん? あぁ。俺にやれることならやってやる。つっても、貧乏だから金を貸せとかは無理だぞ?」
「違います違います。寧ろ先輩にしか出来無いというか、したくないといいますか……」
「だから、金のこと以外ならやってやんよ。言ってみ?」
「じゃ、じゃあ――」
死ねよ!! 俺! 死ねよ!!!!
な~にが言ってみ? だ! バカじゃねぇの!?
みぃの誤情報に油断するからそうなんだよバーカ。バーカ。俺バーカ。見せ物みたいに注目されてんのも全部お前のせいだよバーカ。
けど、それは俺のミスであってコイツは悪くない。金以外の願いならやってやるって言ったのも俺だしな。
「あ、あの、先輩? 嫌なら無理してきいていただかなくても……」
「あぐっ」
「あ……」
どうせ恥ずかしいことに変わりない。だったら、嫌々よりも美味そうに食ってやるのが一番良い。
久遠が遠慮して下げかけた卵焼きを一口で食った。
薄くも無く、濃くもなく、丁度いい。何より砂糖ではなく出し巻なのがグッド。
弁当で半熟っぽいのにするのはなりに手間がかかるんだがそれも見事。
文句なしに美味い。卵焼きなんてのは弁当の基本だが、基本だけに最も味が分かれやすい。その中で美味いって感じるんだから料理の腕は本物だろう。
「お、お味は? どうですか?」
「次」
「え? え?」
「次、くれ」
そう言って俺は口をあけた。
どうだいーだろ羨ましいか野郎共。お嫁さんにしたい候補ナンバー1の超絶可愛い小動物系女の子があーんしてくれるんだぜ? アホさらしてでも食いたいだろ?
「あ、あーん……」
「んぐ。美味ぇ美味ぇ」
やらねぇけどな!
「もっと食べます?」
「おう。全部食う。滅多に食えねえからなこんな美味いもん」
「えへへ。ありがとうございます」
結局、久遠の弁当はあーんによって全て俺の胃袋に納まった。
久遠はと言うと、自分の弁当より数段劣るであろうファミレスのパスタを終始笑顔で食べきった。
「バーカ……」
「はい? 先輩、何ですか?」
「ほっぺにソースついてるぞ。子供かお前は……」
「あとと……」
恥ずかしそうにこちらを見ながらハンカチでソースを拭き取る久遠。
俺の視線を気にしてか顔を背けて拭き取るその仕草はとても可愛いと思った。
俺はこんな可愛い子とデートしてんだぜ? 羨ましいだろクソ野郎共が……。
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食事の後のデートはどこへ行くと決めるでも無く、ただ街中をうろうろと歩き回った。
カテゴリーに入れるとすればウィンドウショッピングだろうか? 都合五件目となる洋服屋に俺達は滞在中。
柄じゃない。とは自分でも思うさ。
普段ぼっちなやつがウィンドウショッピングなんて楽しむと思うか? そりゃあ世の中にはナルシーな連中もいるからして、自分を着飾って惚れ惚れするやつもいるんだろうさ。
「……これの何が楽しいのかね?」
最も、その片鱗すらないのが俺。
だいたいだな。モテたくないっつってんのにわざわざ自分を着飾る理由が無い。
久遠が一緒じゃなきゃ絶対来ないという無駄な自信に満ち溢れてるぜ。
とは言うものの、他にすることもないのでソレとなしにとった上着を羽織って鏡の前に立ってみる。
鏡にはやたらダメージの多いジーパンと柄の悪そうなTシャツ&皮ジャンを纏った誰かが立っている。いや、俺だけど。
ふぅ、やっぱ似合わな――
「わぁ、先輩かっこいいです! とてもよく似合ってますよ!」
――マジか久遠さんよ。
失礼かもしれんがお前のセンスは信頼していいのか? こういうのはガタイがごつい男が着て初めて光るもんだと俺は思うわけよ。
お世辞にも俺の身体は筋肉質とは言えないし、着させられてる感MAXだろ。
「ロックな感じだろ?」
「はい! バンドとかにいそうな雰囲気でてます!」
「ねぇよ……」
「え?」
否定を期待してふざけてみたらまさかの同意。ありえん。ありえんよ久遠。
自分で振っといて何だが、こんなんがバンド組んでたら空き缶飛んでくるっての。
「先輩、もしかしてお洋服屋さん嫌いなんですか?」
「ああ。実の所面白くもなんともない」
「そう、ですか……」
俺の返答に明らかに落ち込む久遠。
でもな、男なんてもんはそんなもんだよ。付き添いかなんかじゃなければ買い物なんて行く気にもならない。
洒落てる奴は大概は見得だ。本当に好きでこんなことする男なんて少数派なんだよ。
本来、デートという名目で来ているのだから俺はそんなことないよと言うべきだったのかもしれないが、あいにく俺は他人を気遣うなんてことはしないし、出来無い。
「じゃあ、違う所に……」
「いいだろ別に」
「ど、どういう?」
鈍いぞ久遠。
だから、お前も気にしなきゃいいんだよ。
「言ったろうが。金のこと以外ならやってやんよって」
俺が洋服屋を嫌いだろうが、仏頂面してようが何だろうがお前は気にせずに引きずりまわせばいいんだ。
男なんてどうせ財布か荷物もちくらいしか役に立つとこねぇんだから。
財布は貧乏な俺には無理だから、せめて荷物持ちくらい全うしてやる。
「先輩は、優しいです」
「アホ抜かせ」
何をどう解釈すれば俺が優しいやつになるんだか?
優しい=荷物持ちの法則が成り立つんならそれもありえるかもしれないが――
「あの、先輩、次は……あそこに……」
「おう。行って来い」
「え? 来てくれるんじゃないんですか!?」
「下着コーナーなんて男がいけるか!!」
――ほらな? 優しくなんてないだろ?
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トクトクと早まった鼓動が収まらない。
今日の朝から? 違う。約束してもらえた時から? 違う。みぃちゃんさんに頼んでから?
違うよね。きっとこの鼓動が早くなったのは沖田陽介先輩に会ってからだ。
理由なんて単純極まりないけれど、今時そんなのは遅れてるなんてことも言われたけれど、それでも後悔なんかしないよ。
「どうすっかなぁ……」
「どうしましょうね~?」
洋服屋を一頻り堪能した後で、私の隣では先輩が次にどこに行くかを頭を悩ませていた。
本当なら悩む必要なんて無い。移動距離を広げればどこにだっていける。そうしないのは先輩が優しいから。
「確か絵画の博物館がこの辺りにあったろ? 行ってみるか?」
「はい♪」
見るからに興味の無さそうな表情で先輩が進んでいく。
事実、歩いて数分の所にあった博物館は綺麗ではあったけれど到底面白いというようなものは私から見ても少ない。
先輩が絵を好きだなんて噂は聞いたことが無いし、みぃちゃんさんからも特に変わった趣味は無いと聞いている。
先輩もとてもつまらなさそうに絵を流し見してるくらいだし。
「興味ないなら帰ればいいのに……」
「っ……!」
すれ違い様、そんな声が耳に届いた。
確かに先輩の態度はあからさまで、興味のある人たちからすれば反感を買っちゃうのかもしれないけれど、わかって欲しい。
違う。違うよ。先輩は悪くないのに。
「久遠」
「は、はい?」
「無視だ無視。慣れてる」
「先輩……」
浴びせかけられた罵倒に眉一つ動かさずに先輩は私の頭に手を置いた。
ドキリとする以上に、悲しかった。何でこの人はこんなに優しいんだろう。元を辿れば私が悪くて、先輩は私に合わせてくれてるだけなのに。
「ったく、無視しろっつってんだろうが。露骨に沈むなアホ」
「すみません……」
「あー、くそ……」
イライラした声が降ってきた。
今、先輩はどんな顔をしてるんだろう。きっと怒ってる。それとも呆れられてるかな。
ごめんなさい引きずる女で。ごめんなさい暗くしちゃって。ごめんなさい気を使わせちゃって。
折角お洒落してきたのに、慣れない服を来て、普段やらないお化粧も挑戦して、何時間もかけて準備してきたけれど、やっぱり先輩とデートするにはまだちょっと早かったみたいです。
「行くぞ。久遠」
「……はい? わきゃ!」
「猿かお前は」
気付いた時には手を握られて歩いて――いや、走ってた。
掌から伝わる体温。先輩の掌はちょっと冷えてて大きいな……ってあれ? 私、今、手を、繋いでる? 先輩と? うわぁ、うわぁうわぁ!
「ちょ、ちょっと待って!」
「面倒だ。後にしろ」
そうじゃなくて、手なんて繋がれたらどきどきしすぎて心臓が! 心臓が危ないんです! 顔だって真っ赤だろうし、皆見てるよぅ。ああ、ごめんなさいごめんなさい。こんな人と手を繋いでごめんなさい。
パニックってこういう時のことを言うのかな? 考えが全然纏まらない。言葉が出ない。行動にも出来無い。
「せ、せせ、先輩! ひっじょ~に! 恥ずかしいのですが!」
「手が嫌ならおぶされ」
「もっと無理です!」
先輩は恥ずかしくないんですか? 私はこんなにも恥ずかしくて、心臓の鼓動が外に聞こえそうなくらいうるさいのに。
聞いたら、何て答えてくれるんですか先輩?
「あー、疲れた……」
「走る必要は無かったんじゃないかと……」
「そうしないと一人泣きそうなってた奴がいてだな」
「う……嘘はいけませんよ?」
「黙れよ泣き虫」
「うぇーん」
ややあって、私達はとあるカラオケボックスの中で落ち着いていた。
それにカラオケが好きというわけでも無さそうに見えるし、実際そうだと思う。
それでも選んだのはここが全ての条件に当てはまるから。
私が周囲を気にせず、かつ、駅から近い。
「先輩。もっと他に行きたい所あるならいいんですよ?」
「別に。行きたいとこなんてねぇから近場を適当に選んでるだけだよ」
「ふふ……。わかりました」
「何だよ。いきなり笑いやがって変な奴だな……」
本当に先輩は優しい人だ。
口では適当だとか言いながら、私に気遣ってばかり。
近場を選んでいるのは私の格好が防寒に乏しいから。博物館からカラオケボックスに変えたのは自分が罵倒されるよりもそれを気にする私がいるから。
口は悪いけれど、行動を省みればすぐに先輩は優しい人なんだってことがわかる。
「折角ですし、歌いましょうよ。先輩!」
こんな風に周りの人たちから見たらとてもデートには見えないと思うけれど。
「パス。音痴だし」
先輩は突き放したような態度を取るけど。
「先輩先輩」
「ん?」
「お金以外のことなら叶えてくれるんですよね?」
「あーー…………」
「えへへ♪」
「お前、自分の笑顔が卑怯レベルだってこと、理解しろ」
「はい?」
「あんま音域高いのいれんなよ?」
「はい! ”陽介”先輩♪」
「あー、くそ……」
今、胸を張って言える。
私は、満ち足りてますよって。
「あー、喉いて……」
「お疲れ様でした~。また行きましょう?」
「気が向いたらな」
なんだかんだ言いつつも、先輩は夜八時までカラオケに付き合ってくれた。
見送ってもらった後、みぃちゃんさんに電話で聞いた話、その日、先輩はバイトだったそうで、知らなかった私は彼女から先輩の電話番号を聞いて謝りました。
とは言ってもバイト中だったから繋がらなかったわけで、正確には先輩がかけなおしてくれたんですが。
返ってきた答えは――
『一々気にする奴だな。用件そんだけなら電話代もったいないから切るぞ?』
――先輩流、気にするな。でした。
そんな不器用で優しい先輩が私は大好きです♪
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
そんなこんなで……。
「私と、つ、付き合って、貰えませんか?」
久遠小百合は俺の前に立っている。
お世辞抜きに言おう。コイツは可愛いと思う。
ああ、そうだよ間違いない。デートした女子合計にして三十人以上の俺が言うんだ。そんじょそこいらの男よりは信憑性があるだろう。
上っ面だけの中身が伴わない奴じゃないし、容姿、性格、その他諸々含めて文句なし。
付き合ったら楽しいだろう。充実した毎日が送れる。本当の意味でリア充になれるんだろうな。
だから、だから――
「お前と付き合う気はない。噂、知ってるんだろ?」
「……ッ」
――突き放そう。
俺がお前みたいな子と付き合う資格なんて無い。
お前だって噂くらい聞いたことはあるはずだ。
「お前がそのことでどう思ってたかは知らん。でもな、事実だよ」
付き合う気も無いくせにデートだけは断らない。女心を弄ぶ最低野郎の存在を。
他評だが、間違いじゃない。実際断ったことは俺からは無いしな。
今は噂で済んでるが、久遠を振ったとなれば話は別。なんたってコイツは校内お嫁さんにしたいランキング一位の女子だ。俺が振ったって話は一瞬にして広まるだろう。
そうすれば俺は晴れて最低野郎に昇格する。付き合いたいなんて考えるバカもいなくなるだろう。
「泣くなよ……」
「だって……だって……。先輩は、先輩はそんな人じゃないです……」
「そんな人なんだよ。お前がどう思おうが」
なのに、何でお前が傷ついてんだよ。関係ないだろ。お前はお前のことだけで泣けよ。お前は今振られた直後なんだぞ? わかってんのか?
相手のことなんて考えるな。いっぱいいっぱいのくせに俺のことなんか気にしてんじゃねぇよバカたれ。こんな奴のために泣くな。もったいない。
お前の涙はもっと相応しいやつのためにとっとけよ。ここで流すもんじゃない。
「そんな最低な人を、私は好きになったりなんて、しません! 私は! 私の恋は、そんなモノなんかじゃない!」
ああ。俺が最低じゃないかどうかはともかくとして、お前の想いは本物だったよ。受け入れてやりたいと想うほどに。
ごめんな。泣かせて。慰めてやれるならそうしてやりたいよ。
けど、けどな。それは俺の役目じゃないんだ。
「じゃあ、恋じゃ無いんじゃねぇの?」
これからコイツは泣いて帰ると思う。
だからさ、どっかの誰か知らないけど、コイツを慰めてやってくれないか? 自分でも他力本願だと思うけど、支えがいるんだ。
「……恋じゃ、無い?」
「ああ。ただの勘違い。ほら、俺さ、見てくれだけはいいからパッと見でドキッとしたのを恋と勘違いしたとか。案外よくある話だろ?」
久遠は良い子だぜ? 俺が保障してやる。久遠以上の可愛い子なんて滅多にいるもんじゃない。チャンスは今日だ。逃してくれるなよ? つーか、スルーした野郎は俺が殴るから。
「私の恋は、その程度だったって……。見てくれだけに振り回されてた憧れに過ぎないものだったって、そういうことですか……」
俺はどうなんだよって? もちろん決まってる。
「ああ。所詮俺達は高校生。ぶっちゃけ本気で恋なんて、ありえねぇだろ? 時代錯誤も良いとこだ」
「あ……う……!」
テメェが殴りに来い!
「こんな奴と付き合って後悔なんてしないうちに目ぇ覚ませ」
「やめて……」
だから、久遠、今は辛いだろうけど、頑張れよ。
「お前は一時の熱に当てられて勘違いしてるだけなんだよ」
「違う……」
お前みたいな可愛い奴、ほっとく男なんていねぇよ。
俺なんかのろくでなしなんかより絶対良い奴いるからさ。
「違わねぇよ。大して面識も無い奴にベタ惚れするなんざ変だろうが」
「違う……。違う違う違う! 私は……私は!!」
「あーはいはい。わかりやすい答えが欲しいんだろ?」
さぁ、こっからが正念場だ。
何度やっても慣れない心が締め付けられるような拷問めいた感覚。
ああそうさ。揺れに揺れてるよ。こんな感覚慣れられるわけが無い。
でも、崩れるんじゃねぇぞ。俺が迷えば久遠に未練が残るかもしれない。
伊達に振りまくって来たわけじゃねぇんだろうが。意地を通せよ沖田陽介!
「お前、鬱陶しいんだよ。お前がいくら俺を好きだろうが関係ない。
俺はお前が好きじゃない。寧ろ嫌いだ。
お前みたいな奴はな、俺みたいな日陰もんにはきついんだ。
気付いてるか? お前は俺に貴方はその程度の人間ですよってのを突きつけてるんだ。
眩しいんだよ。お前の存在は!」
「せん……ぱい?」
「言ったろう。優しくなんて無いって……」
言った。言い切った。多分顔には出て無かったと思う。
証拠に久遠の中で俺の像が砕けていくのがわかる。
わかっていたこととは言え、きつい。
「あ、ぅぅ……」
ポタポタと久遠の頬から落ちる涙は止まらない。
辛いよな。痛いよな。だから無理すんな。こんな奴見限って忘れろ。
「ッ!」
願いが通じたのか、走り去っていく久遠の足音が遠ざかっていく。
終わった。やり方はどうあれ、久遠の中で俺への恋愛感情は砕け散った。
はは。どうだよ。やってやったぜ。
達成感に酔いしれてどうかしそうだ。万歳したい気分でさえある。こんな気分を味わえるのはリア充である俺だけで良い。
「……くそが」
真横にある給水タンクに血がついている理由と、俺の右手から血が噴き出している理由を知るのも、リア充である俺だけで良い。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
振られた。振られた振られた。振られた振られた振られた!
「ひぐっ……」
完全に、あまつさえ嫌いとまで言われた。
覚悟はしてた。噂だって知ってたし、元々望み薄なのはわかってた。
「痛いよ……」
だけど、心がどうしようもなく痛い。
構えてたとかそんなこと別次元で関係なくて。
「先、輩……」
心が悲鳴を上げてる。血を流して止まらない。
「陽介先輩……!」
好きだったよ。大好きだったよ。
叶ってもいないのに受け入れられた後のこと考えて、振られたことのことなんて考えずに想いを馳せた。
もう一度デートに行きたかった。怖がりながら映画の続編を見て、またどこかで私のお弁当食べてもらって、先輩を連れまわして。
次へ行こう次へ行こうって急かす私。先輩はいじわるだから中々来てくれない。
仕方ないなお前はって呆れるの。呆れるけど、なんだかんだで一緒にいてくれて、それがずっと続いて。
たまにみぃちゃんさんとかがちょっかい出してきたりして、私がそれにヤキモチをして、板ばさみになった先輩は理不尽だってイラつきながらにこう言うの。
《お前は俺の何だよ》
でも嫉妬してる私はいつもみたいに理解出来なくて喧嘩みたいになっちゃって。
気付けバカって言うみたいに呆れて、そのまま――。
「う、く……。ぁぁぁぁぁあああ!!」
なんて少女マンガチックな展開。
でも、憧れた。そんな日々を送れたらいいなって考えてた。
聞いてる周りが恥ずかしくなるような、私の恋の幻想。
けれど、叶わない。砕けた。
後から後から涙が溢れて前が滲んで何も見えない。どこにいるのかもわからない。
それでも良い。前なんて見たくなんてないから。
「小ー百ー合ーちゃん♪」
「……え?」
そんな矢先、場違いな明るい声がした。
ほとんど同時に背中に温もり。どうやら抱きつかれたらしい。
「どうしたの? ぐっしょぐしょじゃん?」
「みぃちゃんさん……」
「はーい。皆大好きみぃちゃんさんですぜぃ♪ 取り合えず顔をふきふきしましょうねぇ♪」
「んむ!?」
有無を言わさずとはこのこと。反論の余地も無くハンカチを押さえつけられてごしごしされた。
びっくりして涙は止まったけど、相変わらず強引な人だなぁ。
「んで?」
「……」
「あー、ようちゃん風に言ったつもりだったんだけどなぁ……」
「ッ……」
「なんだ。やっぱりようちゃん絡みか」
過剰な反応を示した私から察したのか、みぃちゃんさんは目を細めた。
「そんなことだろうと思ったんだよね~。振られたの?」
「はい」
「で、ようちゃんを置いて一人来た、と」
「……はい」
振られた。その一言だけで私の心がズキンと疼いた。
また涙が滲んでくる。
けれど、みぃちゃんさんはそんなことに頓着しなかった。
「小百合ちゃんさぁ、なんで逃げてんの?」
「なんでって……」
理由なんて振られたからに決まってる。
先輩だって、こんな子の相手するのは面倒だろうし、これ以上先輩に甘えて嫌われたくなかった。少しでも私という存在が先輩の心に綺麗に残るようにしたかった。それだけ。
「振られたら逃げるの? 苦しいから? 悲しいから? まぁどのみちさ、自分を守るためでしかないよね? それ?」
確かにそうだけど、嫌われたくないっていうのは私の願いで、我侭でしかないけれど、傷ついたのだって事実。
何も今、そんな事実を突きつけなくてもいいじゃないですか……。自己嫌悪なら後でいくらでもします。だから今は、放っておいてほしいのに。
「小百合ちゃん、ずるいね」
「……ずる、い?」
私がずるいの?
どうして振られた側の私がそんなことを言われなくちゃならないのか。
悲しみはまだある。けれど、それ以上にこの先輩に怒りを感じる。あまりに理不尽じゃないですか。
「理不尽だって顔してるね?」
「だって……」
「理不尽なのはどっちだ!!」
「ッ!?」
いきなり笑っていたみぃちゃんさんの表情が怒りに変わった。
素直に驚いた。だって、この先輩はいつでも笑ってて、人気者で、誰にでも分け隔てなく接して、怒るなんて所、見たことなかったから。
「傷ついてるのは自分ですって顔してさぁ! そりゃ傷ついてるのはわかるよ? 振られたんだから当たり前だよ。同情するし慰めてもあげたいよ。
けど、ようちゃんはどうなんの? 振った側なら傷ついてないって? ふざけろ! あのイケメンはさぁ! 基本的に言動と心情が間逆なの! 無駄な所で無駄にかっこつけたがりだから表には出さないけど、脆いんだよようちゃんは!!」
「あ……」
言われて今更気付いた。
デートの時、散々そうだった。
口と行動ではなんとなくだとか、仕方なくだとか、そんなことばかり言っていたけれど、先輩は第一に私のことを優先してくれていた。
本当に、優しい人なんだ。
私はそれを昨日はわかっていたはずなのに。
「イケメンとデートしたーとかほざいてる同情も出来無いような屑女への返答にさえようちゃんは迷って傷つくの! 削れていくんだよ!
じゃあ紹介しなきゃ良いって? 私には私の考えがあってそうしてるし、本気の子以外は通してない。貴女もそう。
なのにさ、ほったらかして逃げるって何? 屑と変わんないじゃん。一番しちゃいけないよね? あぁ、被害者面してれば慰めてもらえるなんて甘ったれた考え? 反吐が出る!」
「ごめん、なさい……」
自然と頭が下がった。
みぃちゃんさんの言う通りだ。傷ついてるのは私だけじゃない。同じくらい――ううん、それ以上に陽介先輩は傷ついてる。
自分だけが、そんな考えだった自分が恨めしい。
「ごめん、勝手にカッカして」
「いえ、当然だと思います」
「ようちゃんのことになるとさ、抑えがあんまし効かないんだよね。
見下してるみたいな大層なこと言ったけど、私も私の考えがあってそうしてる。ようちゃんはそれを知らない。黙ってこんなことをしてる辺り、私も屑には違いないんだよね」
怒ってごめん。そう言ってみぃちゃんさんは頭を下げた。
貴女が屑なわけがない。他人のために怒れる人を屑なんてことはありえない。陽介先輩だってきっとそう言いますよ。
みぃちゃんさんは私を立たせてくれた。ちょっと躓いちゃったけど、また走り出せるから。お陰で目が覚めました。お礼を言いたいくらいです。
ただ、少しだけ気になることがあるんです。
「みぃちゃんさん?」
「あ、はいはい?」
「みぃちゃんさんも陽介先輩のこと、好きなんでしょう?」
「……私はようちゃんの幼馴染だよ。それ以上にはなれない」
みぃちゃんさんも好きだと思う。
でも、返ってきた答えは想像とは違っていて。
気になるけど、これ以上問い詰めるのは私じゃない。
だから、言葉を残していこうかなと思います。
「気付いちゃったら止まれないんですよ。みぃちゃんさん」
「その先が鉄壁だったら?」
「その時はその時、砕け散るのみです」
「一途だねぇ」
「大好きですから!」
もう止まらない。
走り続ける。ずっと、ずっと、先輩が私を見てくれるその日まで。
▼▼▼▼▼▼▼▼
何をするでもなく、給水タンクの横で寝そべり空を見上げてボーっとしていた。
やけに静かだ。
普段意識してないだけにこういう沈んでる時ってのは周囲の音が大きく聞こえるもんだ。
吹奏楽部が鳴らしている楽器や、野球部などの運動部の声。いつも通りのありふれた日常を送る奴らの声が響いてくる。
変わらない。何一つとして変わっていない。
だからこそ、余計に一人だということを感じるのかもしれない。
「別に俺が一人なのは今に始まったことじゃない……」
そりゃあ昔は少しは俺の周りにも友達がいた。
そろいも揃って曲者ばっかで手を焼かされたけど、今よりは笑って過せてたと思う。
でも、そいつらも消えていった。それなりに悲しかったさ。でもどうすることも出来無い。成人もしてないガキに変化を起こす力なんてもんは無い。それが現実。
流されるままに、引きずられるままに生きてきた。
「わかるだろ? 慣れてんだよ。今更何も思わない」
思わないんだ。
同情なんていらない。理解者もいらない。
俺の巻き添えくって損するなんて馬鹿げてる。
「そんな悲しいこと、言わないでください……」
なのに、何で帰ってきた?
身を起こせば隣には久遠が立っていた。
振った。泣いていた。崩れていた。
あれが夢だったなんて言わせない。俺自身の感覚が覚えてる。あんな感覚忘れたくても忘れられるもんじゃない。
なのに、久遠はそこにいる。
「一人は悲しいです。一人は寂しいです。慣れるなんてこと言わないで……」
「あのなぁ……」
お前、振られたんだぞ? 何でそんなこと俺に言える? 苦しかったんだろ? あんなに泣いてたんだ嘘だったなんて言わせない。
だから、お前はここにいるべきじゃないんだ。
「”独り”は、辛いんですよ。陽介先輩……」
「黙れよ」
何してんだよお前……。
「嫌です」
何してんだよお前。
「久遠、俺は――」
「嫌です」
何してんだよ! お前!
「嫌なの!!」
何で、また俺に好意なんてもんを向けてんだよ!
「先輩が独りになるなんてヤだ! そんなのに慣れて欲しくない。そんな先輩見たくない!」
優しい通り越してお前はバカの領域にいるんだ気付いてるか?
立ち直ってくれたのは嬉しいよ。けど、同じ方向見てどうすんだよ意味ねぇだろ。何のために振ったと思ってる? 俺から引き剥がすためだぞ?
「眩しいな。久遠は……」
本当にお前は眩しい。お前の近くは暖かいよ。
「眩しいから――」
いつまでもいたくなる。甘えそうになる。後輩なのにな。
「――嫌いだっつってんだ!!」
だから、お前は俺なんかにはもったいないんだ。
向けるべきなのは俺じゃない。俺じゃないんだよ。わかれよ。
「でも、私は好きなんです」
なのに、このバカたれが。
「大好きなんです。陽介先輩」
成績優秀なんだろう? こんな初歩の初歩の解答間違ってんじゃねぇよ。
「劇的な出会いなんかじゃなかったですよ? 些細なきっかけだったかもしれません。
それでも私は、貴方に出会えたことが嬉しい。どんな映画にも勝る素敵な出会いだったと信じてます。
安っぽいなんて言わせない。この胸にある気持ちに嘘なんてつきたくない」
そう言って、久遠が笑った。
「本気だったことが何よりの誇りになるように」
本当にコイツは太陽だ。
絶対壊さないと、貫くと決めた意地にあっさりと亀裂が入った。
ああ、今更だしな。言いつくろっても仕方ない。見惚れたよ。
「だから、全力で走るんです!」
はいはい。なんとなくわかってましたよ。
見透かされてた感はデートの時からあったしな。
久遠が立ち直って帰ってきた時点で俺の負けは確定してたんだ。
ったく、誰だよこのバカ立ち直らせたのは……。
「お前に何言っても無駄だってのはわかった。けど――」
「分かってます。まだ付き合う気は無いんですよね?」
「ああ」
妙に物分りが良い。
と、思ったが若干日本語が変だった気がする。
そしてそれは間違いじゃないと久遠の笑顔が告げていた。
「振り向いてもらえるまで走ります」
「お前な……」
「それで、ですね、いい、ですか?」
――先輩の隣を歩いても?
出会った時と同じ言葉。声にならないけれど、わかってしまう心の声。
つーかだな、久遠。俺の返事わかってて聞いてるだろ? この際別にいいけどな。
たまには思い通りに動いてやるよ。
「どうぞ、ご勝手に」
「……えへへ。大好きです。先輩♪」
くっそ、この小悪魔め……。
いかがでしたでしょうか?
お読みいただいた方はある程度予想がついていらっしゃるかもしれませんが、連載のほうも視野に入れての作品となっています。
実の所まだ迷っている作品ではあり、この主人公を皆様に受け入れてもらえるかがとても不安です。
前書きにも書きましたが、この作品に対して、主人公に対して、文に対して、なんでも構いません。
厚かましいのは承知でお願いします。次なるステップアップのためにご協力をお願いします。