悪役に仕立て上げられた私はそのまま悪食黒龍様の贄に捧げられましたが、なんか気に入られて聖女になりました
我が国には生贄制度がある。他国の人間には、なんてことをするのかと言う人もいる。けれど、我が国はその生贄制度で栄えてきた。そのおかげでみんな飢えずに済むのだ。
黒龍様の好む『魂の穢れた者』を毎月数人捧げるだけで、黒龍様のお力で不毛の大地であったこの国でも沢山の農作物が実るようになった。
罪人なんて国中探せば毎月幾人も見つかるので生贄探しにも困らない。特に、公には裁けないが罪を重ねたワケあり貴族の断罪にはぴったりだ。
一応、表向きには国の為に身を捧げた尊い命とされるので残された者たちにとってはむしろ名誉となる。残された者たちに金銭の報酬もある。アフターケアもばっちりだ。王族や貴族は生贄制度の真実を知っているから、影では色々言われるが。
しかも、冤罪だった場合黒龍様の好む『魂の穢れた者』判定から外れるので食べられない。むしろ身の潔白を証明して生還できる。
「セシリア!君はこの国の筆頭公爵家の娘でありながら男爵令嬢のリリーを虐めたな!そんな女とは婚約破棄だ!そしてここにリリーとの婚約を誓約する!」
「…あらあら」
私はこの黒龍の国の筆頭公爵家の娘、セシリア。
目の前にいるのは婚約者である王太子殿下と、彼に肩を抱かれている浮気女リリーさん。
私はリリーさんを虐めてなんかないし完全に冤罪だが、あの二人は勝手に盛り上がっていた。
彼らの突然の断罪劇に、聴衆と化した貴族連中は騒めく。
家族は私の無罪を信じて敢えて口を出さない方針らしい。
「な、何を落ち着いている?」
「いえいえ、なんでもございませんわ」
「ぶ、不気味だな…まあいい!そして罪人である君は黒龍様への贄とする!」
さらに騒めく聴衆、裏切り者の王太子殿下への怒りに顔を真っ赤にするお父様とお兄様。
お母様だけは平然としているが、あれは私が贄に出されてもすぐ帰ってくると知ってのことだ。
もちろんお父様とお兄様だって私の無実は知っている。
リリーさんは挙動不審になって王太子殿下を止めようとするがもう遅い。
というかあの慌てよう、やはり冤罪の自覚はリリーさんにはある様子ね。
「ええ、わかりましたわ。お父様、お母様、お兄様。行って参ります。多分すぐ帰りますわ」
「ええ、道中は気をつけて」
「帰りも気をつけて帰ってくるんだぞ」
「その間にお父様とお兄様がきちんと王家に仕返ししておくからな」
「お兄様、シャラップ」
不敬なことを口走るお兄様を扇子で軽く叩き黙らせる。
お兄様はそれでも私を心配そうに見つめてくれるんだから、本当に優しい人だ。
お父様にも、お母様にも恵まれている。
友達の高位貴族令嬢たちも私の身の潔白を信じてくれているようで、見れば遠くから応援のハンドサインをくれていた。
「では皆様、またすぐにお会いしましょう。ごきげんよう」
美しい礼をして私はその場を離れる。
神官と屈強な男たちに連れられて、黒龍様の元へ向かった。
なお逃げる様子のない私を見て、屈強な男たちはそっと寄り添うだけで乱暴な連行はしないでくれた。
「…ふふ、というのがここに来た経緯ですわ」
『なるほどなぁ、人間って相変わらずバカが多いな』
教会の奥にある黒龍様のために設えられた部屋で、私は優雅に紅茶を飲みながら今回のことの経緯を黒龍様に話す。
「ええ、全く仰る通りですわね。そろそろ王太子殿下とリリー様が贄として到着する頃かと」
『どんだけ穢れた魂なんだろ、楽しみー!』
「ふふ、黒龍様ったら」
―…結局のところ。
私は黒龍様直々に無罪放免を言い渡された。
だがすぐには公爵家に帰してもらえなかった。
なんと、黒龍様が『こんなに可愛い子初めてー!めっちゃ魂綺麗じゃん!好き!俺の番にするー!』と仰ったことで黒龍様の番になることが決定したのだ。
こんなことは歴史を紐解いても初めてだったらしく教会は大混乱の末、結局は私を聖女として迎えることを決めた。
今頃実家も王家も大騒ぎになっているだろう。
教会はそんな『聖女様』を贄に捧げようとした王太子殿下とその浮気相手であるリリーさんを『贄』として差し出すよう王家に求めに行っているから、余計に。
『セシリア、王太子って奴とリリーって奴を食べるところ見る?』
「私そこまで悪趣味ではございませんの」
『だよねー。まあ諸悪の根源は俺の腹の中に入れるから安心してよ!』
「ふふ、ええ」
まさか自分が黒龍様の番になるとは思わなかったけれど、裏切り者二人もまとめて破滅してくれたしまあいい。
これこそ巷で流行りのざまぁという奴だろうか。
たしかにカタルシスはある。
「ところで私、聖女として教会預かりになるのはよろしいですけれど両親や兄とは交流し続けていいんですの?」
『もちろん!文を出してもいいし、面会だって許しちゃう!可愛いセシリアのためだもん!』
「あら、ありがとうございます」
『ちなみにご両親や兄君との面会の時は俺も呼んで欲しいな!ご挨拶は大切だし!』
「でも、黒龍様を前にしたら恐縮して倒れてしまうかも」
私が冗談めかしてそう言うと、黒龍様は笑った。
「大丈夫、俺こんな風に人型にもなれるし」
「まあ!」
そこには黒髪褐色赤目のエキゾチックなイケメンが。
え、黒龍様ずっとこの姿のまま居てくれませんか?
好きなんですが。
どタイプなんですが。
「人間の真似くらいお手のものってね!どう、惚れ直した?」
「惚れましたわ!今一目惚れしました!」
割とガチで黒龍様の人間形態に一目惚れしてしまう。
こんなにかっこいいなんて反則でしょう?
龍の姿は龍の姿でかっこいいけど、かっこいいのベクトルが違い過ぎますわ。
「ええー?龍の俺の方がかっこいいと思うんだけど…まあこの姿はこの姿で俺であることは変わらないしいっか!」
「ええ、素敵ですわ!かっこいいですわ!」
「セシリアも可愛いよー!んー、ちゅっ」
「もう、黒龍様ったら」
好みのイケメンに頬へのキスをされ赤面する私を、黒龍様は満更でもなさそうに見つめる。
ああ、その赤い目がとても素敵…。
「名前で呼んでよ、セシリア」
「黒龍様のお名前は世間に公表されていませんのよ」
「なら今名乗るよ、俺の名前はね―…」
その後私は、超スピードで黒龍様の正式な番になった。
国民からも王家からも実家からも祝福されて、大々的な式も挙げて幸福一直線だった。
「ちょっと前まで悪役に仕立て上げられそうになっていたなんて思えませんわね…」
「そうだね。セシリアを助けられてよかったよ」
「ふふ、本当に感謝していますわ」
「それほどでもー。無罪放免を言い渡しただけだし、求婚しただけだしね」
元婚約者とリリーさんはもちろん、黒龍様の血肉となっていた。
王家は第二王子殿下を新たな王太子として、国は特に問題もなく回っている。
王家の心情は知らないが、黒龍様に生かされている国なんだから王族が贄になることもたまにあるので案外なんとも思ってないかもしれない。
そして今日も私は、黒龍様に溺愛されて過ごしている。
「セシリア、あーん」
「あーん、んー、美味しいですわ!」
「俺にもあーんして」
「はい、あーん」
「あーん」
イチャイチャしすぎて教会の神官たちからは呆れた目で見られてますけど、幸せですわ!
ちなみに黒龍様は龍の姿では悪食ですが、人の姿だと普通の味覚なので一緒にご飯も食べられます。
「愛してるよ、セシリア」
「こちらこそですわ、愛おしい人」
婚約者の浮気に胃をキリキリさせて、婚約者の浮気相手に冤罪をかけられてまた胃をキリキリしていた日々。
そんな日々から解放されて、今あるのは大切な旦那様との幸せだけ。
これからもこの幸せは、ずっと続きそうです!




