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人気者の幼馴染は私を離してくれない〜なんでわたし以外を見るの? わたしのものなのに〜  作者: ねねねねこ


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8/10

第8話 お母さんだいすき。

「んむぅ〜」


少し明るくなった部屋の中で、ゆきは布団の中でもぞもぞと動いた。

目の前で、ひなたがじっとこちらを見ていた。

その視線に気づいて、慌てて上体を起こす。


「ゆき、おはよう。もう、帰るんだよね」

「うん。今日は、久しぶりにお母さんと過ごせる日だから、帰るね。ごめんね、ひなた」

「ううん。昨日から言ってたことだしね。わかってる。いってらっしゃい」


ひなたは笑ってそう言った。けれど、声が少しだけ震えていた。ゆきは靴を履くとき、何も言えずに「じゃあね」とだけ言ってドアを閉めた。心のどこかが少し痛んだけど、お母さんと過ごせる日は本当に少ないし……会いたいっていう気持ちの方が勝っていた。


♢♢♢


玄関の前に立つと、家の中の電気がついているのが見えた。久しぶりに、人の気配がする。胸が少し高鳴る。


ガチャ。


「ただいま」

「おかえり。朝までどこ行ってたの?」


キッチンから、お母さんの声がした。エプロン姿で、少し眠そうな顔をしている。


「ひなたの家」

「そう。ひなたちゃんには迷惑かけてばっかりね。しっかりお礼しなさいね」

「うん。わかってる。それより、今日は一緒に過ごせるんだよね?」

「ええ。今日は仕事ないから、ゆきと過ごそうと思って」


やった。今日は、日曜日で学校も休み。お母さんと一日中過ごせるなんて、いつぶりだろう。それだけで、胸の中がぱっと明るくなった。


「朝ごはん作っておいたから、食べなさい。食べてないでしょ?」

「やったぁ〜オムライスだ!」

「そうよ。ゆき、オムライス好きだからね。昨日、帰りに買ってきておいたの」

「ありがと。そういえば、お母さんって何時に帰ってきたの?」

「うーん。二時くらいかな。ゆきがいなくって驚いちゃった」

「ごめんね。ひなたにうちに来ない?って誘われちゃって」

「驚いただけだし、ひなたちゃんならいいのよ。家近くだし」

「うん」


オムライスをスプーンで割ると、黄身がとろっと流れた。少し冷めてたけど、おいしい。お母さんが作ったごはんって、やっぱり違う。その隣で、お母さんがゆっくりコーヒーを飲んでいる。なんでもない朝なのに、すごく幸せな気がした。


♢♢♢


「そうだ。最近ゆきの話、あまり聞いてなかったから、今日はたくさん聞きたいな」

「わかった」


そう言われても、何から話せばいいかわからないや。なに話そう?


「学校のこととか、ひなたちゃんのこととかね」

「うーん。学校では、ミサトちゃんっていう友達ができたの。初めて、高校で友達できたから嬉しいんだ」

「そう。よかったわね。ゆきもついに、ひなたちゃん以外の友達ができたのね。お母さん、安心したわ」


「あとね……ひなたとは、今日も泊まったみたいに仲良いと思うよ。でも、最近頼りすぎてる気がするの。だから、できるだけ、自分の力でって思ってる」


お母さんは、ゆきの顔をじっと見て、やさしくうなずいた。


「いいことね。ひなたちゃんに頼りすぎはいけないもの。いつかは、ひなたちゃんもゆきと一緒にいられなくなる日が来るのだから。ゆきって、何にもできないものね」

「うん。勉強も、ひなたがいなかったら赤点だし。頑張る」

「そうね。いい子だわ」


その「いい子ね」という声を聞いた瞬間、少し胸の奥が熱くなった。ひなたに頼っていたことを、ちゃんとお母さんも気づいてたんだ。でも、怒るでもなく、責めるでもなく、ただ静かに言ってくれた。


「それと……ゆき。悲しいんだけどね」

「なに?」

「お母さん、来週からまた出張なの。今度は少し長いかもしれない」

「そっか。いつも大変だね」

「ううん。ゆきが頑張ってるから、お母さんも頑張れるのよ。ありがとう」


そう言って、頭をぽんぽんと撫でてくれた。その手の感触が懐かしくて、思わず目を細めた。


♢♢♢


お昼は二人で近くのスーパーに行って、材料を買ってきた。一緒にカレーを作って、おやつにはプリンを食べた。テレビを見て笑ったり、お母さんの昔話を聞いたり。気づけば夕方になっていた。


「ねぇお母さん。出張が終わったら、また一緒に過ごせる?」

「うーん。たぶん難しいけど、頑張って予定を調整してみるわね」

「やった。ありがと」


やっぱり今日みたいな日は難しいかもしれないけど、考えてくれるだけで嬉しかった。今日みたいな日がなくってもお母さんと過ごせるんだったら十分だと思った。


♢♢♢


夜。

お風呂上がりの湯気の中で、お母さんが髪を乾かしてくれた。ドライヤーの音が心地よくて、少し眠くなってくる。


「ゆき、私がいなくっても頑張ってて偉いわ」

「うん。ありがとう」

「無理はしないでね。ダメだったらひなたちゃんにも頼っていいんだから。ゆきはゆきのままでいてもいいのよ」


「……うん」


そう言われて、胸の奥がじんわりあたたかくなった。それだけで十分だった。何も特別なことはないけれど、こうやって誰かに見守られてるだけで、安心できた。


♢♢♢


ベッドに入ると、カーテンの隙間から街の灯りが少しだけ見えた。お母さんの寝室の明かりがまだついている。何か書類を見ている音が小さく聞こえる。その音を聞いていると、不思議と落ち着く。


今日はたくさん笑った。たくさん話した。お母さんと一緒にいる時間が、こんなにも短くて大事なものだったなんて、少し忘れていた。


「お母さん……また一緒に過ごせるといいな」


小さくつぶやいて、ゆきは目を閉じた。心の中で“ありがとう”を言って、静かに息を整える。あたたかい気持ちのまま、眠りに落ちていった。


「お母さん。だいすき」

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