第5話 もしかして私の幼馴染って私だけに甘い……?
あのあと、お母さんが帰ってきて、ひなたは隣の家に帰っていった。
「ゆき、じゃあね。また明日、学校で会おうね。ゆきのお母さんも、お帰りなさいです」
「あら、ひなたちゃん。来てたのね。ゆきのこと、ありがとね」
「はい。では」
「じゃあね〜」
ドアが閉まる音。
ひなたの気配が消えると、部屋が急に静かになった。
「お母さん、ただいま」
「おかえり、お母さん」
「うん。もう、遅いから寝なさい。おやすみ」
「おやすみ〜」
……ひなたといると時間があっという間に過ぎちゃう。
なんか、私の時間はいつもひなた中心に動いてる気がする。
♢♢♢
「おはよう」
「おはよう、ゆき。早く準備して学校に行きなさい。朝食は準備してあるから。それじゃ、私は仕事に行くからね。今日も遅くなるけど、明日はおやすみだから、一緒にいようね」
「わかった。行ってらっしゃい、お母さん」
「うん、行ってきます」
明日はお母さんと過ごせるんだ。嬉しいな〜
でも、早く行かないと遅刻しちゃう。ご飯食べて、走って行こう!
「行ってきま〜す!」
朝の登校はいつもひとり。
下校の時はひなたと一緒だけど、登校は別々だ。
ひなたは生徒会の朝会とかあるから、いつも誰よりも早く登校してる。
……あれ、そう考えると、ほんとにすごいな。私、毎朝ギリギリなのに。
「よし、今日こそ間に合う……!」
靴を突っかけて全力疾走。風が頬に当たって痛い。
でも、もう慣れた。これが、私の登校スタイルだもん。
♢♢♢
「ふうっ……つ、着いた……!」
教室に駆け込むと、ちょうどチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン。
「ゆきちゃん! おはよう〜!今日もギリギリ間に合ってよかったね!」
「おはよう、ミサトちゃん〜。ほんと、セーフ……!」
机に座って深呼吸。ひなたを見ると、もう席についてノート開いてる。
はぁ……朝から完璧だなあ。
髪も整ってるし、姿勢も良くて、先生よりも先生してる感じ。
「ひなたー、今日さ、提出物忘れちゃってさ〜。答え写させてくれない?」
「それはダメっ。ちゃんと自分でやらなきゃ」
「え〜〜! けちぃ!」
「けちじゃないよ。ちゃんとやってきたら褒めてあげる」
「はぁい〜」
ああ、ほんと、ひなたは誰にでも優しいけど、甘くはない。
みんなから頼られるタイプ。
……でも。
「え、私も宿題やってない……!」
頭の中が真っ白になった。昨日、途中までしかやってないや。
「ミサトちゃん〜! やばい、宿題忘れた!」
「うわ、それ終わったね……」
「どうしよ、先生に怒られる……」
そのとき。
「ん? ゆき、どうしたの?」
「ひなた……あのね、宿題忘れちゃった」
「そっか。じゃあ、私の貸してあげるよ」
……え?
「えー!? ひなた、私のとき貸してくれなかったじゃん!」
さっきの子が目を丸くして叫ぶ。
「ゆきは、昨日頑張ってたからいいの」
「えぇ〜、そんな〜!」
頑張ってた? 昨日、宿題ひなたがほとんどやってくれて、私何にもしてなかった気がするんだけど……。
「ほら、ゆき。写しなよ。先生来ちゃう前に」
「え、でも、ひなた言ってたじゃん。ダメだって」
「ゆきはいいの。昨日、ちゃんと終わらせたでしょ?」
「……う、うん」
「だから、大丈夫なの」
にっこり笑うひなた。それだけで、罪悪感よりも安心感のほうが勝っちゃう。だめだ、完全に甘やかされてる。
「白石さんって、ほんとゆきちゃんにだけ甘いよね」
ミサトちゃんが半分呆れた声で笑う。
「え、そんなことないよ」
「あるよ〜。だって他の子にはダメって言ってたもん」
「だって……ゆきは、大切だし」
「えっ」
ひなたの声が優しすぎて、顔見られない。
「ねえひなた、私ばっかり甘やかされてたら、ほんとにダメ人間になっちゃうよ」
「なってもいいよ。私がちゃんと隣で見てるから」
「な、なにそれ……」
「ゆきはゆきでいいの。できないことがあっても、私が助けるから」
「そ、そんなこと言われたら……もう……」
ほんとにずるいよ、ひなた。
優しさの向け方が、ずるすぎる。
私、また今日もひなたに甘やかされて、なんか心が溶けそうだ。
♢♢♢
放課後。
「ねえ、ひなた。ありがとね」
「いいよ。だって、ゆきだもん」
「うん……」
「ゆきのこと、大切だもん。先生に怒られてるところ見たくない」
「……もう、ひなたったら、そんな言い方」
甘やかしてくれるのは嬉しいんだけど、本当にダメ人間になっちゃうよ〜ひなたって誰にでも甘くってみんな私とおんなじかなって思ってたけど、私に甘いんだ……。
私だけがダメ人間になってくじゃん。
そろそろ、ひなた離れしないとかも……。
「ひなた」
「なに?」
「やっぱり、もう少し頑張ってみる。自分でできること、増やしたいから」
「うん。頑張るゆきも好きだよ。でも、ずっと一緒にいれば、自分でやらなくってもいいから、大丈夫だよ」
「そんなことできないもん」




