第七話「肺腑にしみる魔王浸食」
魔王浸食されている地へとうとう向かうことになった。昨日はよく休み、武器たちを体に慣らすだけにした。
今、朝日が昇っている。俺たちは魔王浸食に近い前哨基地で準備をしていた。たとえ魔族だって武器や装備は欠かせないらしいから。
「どんな感じなんだ?魔王浸食。」
俺は武器たちと装備を装着しながらキロランケに聞く。
「まぁ気持ち悪いかな…。ご飯中には見たくない感じの。」
臓物とか肉塊のようなものなのだろうか…。俺には様々な想像が過るが、ぼんやりしている。
「君、よく鎧を着ないよね。」
「軍にいた時は着ていたがな…。だが、鎧を着れば機動性が落ちるし、ましてや今回は超巨体な相手だ。機動性が無ければ活躍なんてできっこない。」
「ふ~ん。確かにね。」
俺がローブを羽織りガントレットに腕を通して装着させて準備を終えると、足音が聞こえてくる。
―二人ぐらい…。走って向かってきている!
振り返り、入口の方を見るとそこには角の生えた姉弟がいた。背丈は俺より少し下と魔族の中では小柄なんだと思う。
「誰だ?二人は。」
「……。」
「ああ、今紹介しようと思ったところさ。二人とも。」
キロランケは二人を片腕一人ずつ抱き上げる。
「この子らはヤシャ家の鬼人だよ。両親は領主でこの子らは―って見れば分かるか。」
その鬼人の姉弟の腕にはたくさんの書類と書物があった。キロランケに紹介されたこの子たちは俺やキロランケに構わず仕事を続けている。
「一の六の西に異変があると伝達。」
「九の二の異変は後回しで大丈夫。端の方は変化しやすいから。」
魔王浸食の場所を区分けした名称で呼び、職員たちに指令を下していく。子供っぽい見た目だが、いい仕事っぷりだった。
「…ふう。自己紹介が遅れました。伯爵家であるヤシャ家の長女―ヤシャ・ユズキと―。」
「ヤシャ家の長男であり、ユズキの弟―ヤシャ・クシロです。」
「「魔王浸食の抑制作戦。よろしくお願い致します。」」
二人はスッと頭を下げる。俺もそれを見てすぐに頭を下げた。
「よろしくな…。」
東の帝国の人間みたいだなと思った。礼儀を重んじ、仕事最優先という感じが。
そしてその子らはすぐにキロランケの腕から降りて仕事に戻った。
「静かな子供だな。」
「まぁね…。職業柄と言ってもいいぐらいまで大人っぽい。」
「全くだ。」
水を飲み、屋外のベンチに腰を下ろす。すると、弟のクシロが俺の元にやってきた。
「ねぇ、人間。姉さんは言わなかったけど、迷惑だから。」
「―は?」
「人間は弱い。魔王様から守るなんて無茶を僕たちに押し付けてさ。いい気になってんの?」
「なってねぇよ。さっきとはキャラが違うな。」
「姉さんにこんな言葉遣いできないよ。…まあいいや。お荷物にならずに頑張ってね。」
クシロは中に入っていき、姿が見えなくなった。
―お荷物に何かなって堪るかよ。死なねぇように勝たなきゃいけねえ。
こぶしを握りしめ、空に掲げた。
その後、作戦会議が開かれた。
「作戦を言います。」
ユズキの声で場が引き締まる。それは刃物を突き付けられるものではないもの。威圧による統制ではないからか、とても新鮮に感じた。
「前衛をキロランケさん及びこちらの精鋭部隊である程度の魔物を掃討してもらいます。ここの魔王浸食は最近ではないため、魔物が多く発生していますが、大丈夫でしょうか?」
「問題ないよ、ユズキちゃん。精鋭も殺させはしない。」
キロランケの言葉に頷き、ユズキは続きを話す。
「後衛として私とクシロ及び後衛部隊で援護をします。そこで安全に核の方まで行けるルートを算出します。クシロは万が一の後衛での保険です。」
「……俺はどうすればいい?」
ユズキは俺の声に冷静に対応する。そこにはなぜかクシロとは違い、蔑みではないものを感じる。
「おさらいです。魔王代理―レヴィア様からは『忠誠の証を示せ』と仰られたはずです。そのためこの作戦の最重要任務をあなたに与えます。」
「…なるほど。」
「その任務とは簡単な話―核を破壊してきてください。核は魔王様の能力の根源ではありますが、能力の大事な部分は得ているとレヴィア様と研究部が仰っていたため、遠慮はいりません。」
「わ、分かった。」
ユズキの口からは情報量の多いように思えても難しくないことを要求されていることが分かる。
そして前哨基地からは基地にいる地竜に乗ることに決定した。
「そんなに珍しいのかい?少年。」
「ああ、まあな。貴族でもトップ層じゃなければ乗れないんだよ。数が居なくて。」
「じゃあ、いい体験じゃないか。」
「いい体験だ。」
俺は大きく跨り地竜の顎下を撫でる。心地よいのかその地竜は俺に頭を寄せて喉を鳴らす。
―懐いてくれるなら願ったり叶ったりだ。
そう思っていると皆も準備ができたみたいだった。キロランケの所にはヤシャ家の二人が、他は一人乗りだ。
「「魔王浸食地へ!進めー!」」
ユズキとクシロは連れて行く兵に聞こえるように叫び仲間を鼓舞した。
―仲間が多い=監視が多いか…。クシロみたいに思っているやつもいるんだよな。
「な、なぁ。魔物ってどんな奴なんだ?」
俺はたまたま隣にいる兵士に声をかけてみた。すると兵士は親切に話してくれた。
「知らねぇのか?!まぁでも人間には身近じゃねぇのか。魔物って奴は魔王浸食で生物が浸食されてできるんだ。」
「強いのか?」
「個体によるな。だが、お前は初めて戦うんだ、強い相手と思っていた方がいい。」
「そうか、ありがとう。」
「いいてこったぁ。」
そう教えてくれた兵士はトムというらしい。人間に忌避感がある感じではなくて助かった。
そして俺あちは山を越え大きな森に入ると見えてきた。肉塊が鼓動に合わせるように脈動し、何かが蠢いているような圧迫感があった。浸食地を歩いている化け物が魔物なのだろう。動物の身体に侵食している痕があり、体の構成が変わっていた。
「デカい豚に目がたくさんの狼。他も似たのばっかりだ。どんだけいんだよ。」
俺は少しビビって声が漏れる。だが、キロランケの視線を感じたのだろう。弱音を言っている場合ではないと思い知らされる量だ。そう思っていると冷静の中に恐れが混じっている大きな声が聞こえてきた。
「ここにいる魔物の数は通常の約五十四倍!魔物の種類も通常より多少、多いでしょうが、レヴィア様からの命令です!様子見します!」
周りがざわつく。だが、これで撤退になった時、ガビに嫌な思いさせてまで生きてきた今を許せずに死ぬ。
―こうするしかないだろう!ラヤ=ボナパルト!
俺は魔王浸食に飛び出したのだった。




