第五話「散策」
目が覚めると、扉に紙が挟まっていた。
「何の紙だ?」
目を擦りながら紙を取ると手書きで書かれた魔王城の地図だ。俺は監視も含めてだろうが、使われていない部屋に住まわせてもらっている。
―いつ見ても慣れないな。ベッドデカすぎる。
掛け布団を整えながらため息をつく。魔王浸食に向かうまでに準備をしろとのことで二日の猶予がある。
「街…行くのありだな。」
そう窓の外を眺めながら呟く。魔族の奴らは点のようにしか見ることができないが、動き回っている以上栄えているんだろう…。
すると後ろから声がした。
「『ありだな。』じゃないだろう。行きたくて気になっているじゃないか。」
「無断で人の部屋に入ってくるな。」
声の主はキロランケだ。魔王浸食で仲間となるらしいが、馴れ馴れしい。
「君はこう思っているね?『魔族の街かぁ、困ったなぁ、どこに行けばいいか分からないや。』って。」
「じゃあ、案内してくれ。」
「反応薄いな、君は。もっと反発してくれたっていいのに。」
そう言いながらキロランケは扉の方まで歩き俺を見る。
「行くぞ、魔王城下町―パロマへ。」
「ああ。」
俺は靴を履きキロランケの後ろをついていった。
城下町―パロマは正直、拍子抜けだった。
―賑やかだな、思ったより。
暗いというよりもむしろ明るく喧騒が響きあう。人間の街となんら変わらない。ただ人間が魔族にすげ変わっただけだ。
「驚いているな、少年。」
「ああ、流石にな。もっとジメジメした感じかと思っていたが…。」
「ナメクジのような性格ではないからな。アッハッハ。」
そう言ってキロランケは笑う。
「なぁ、いい鍛冶屋はどこにあるのか?」
「公爵にそんなこと聞くのか、無礼な。」
「いきなり公爵ぶりやがって。」
「と言っても今日はそれがメインだからな。」
俺の手を掴みキロランケは俺速足で歩き始めた。俺はキロランケとの歩幅に合わず、少し引きずられる。
「ここだ。」
そう言って案内してくれたのは裏道を二本通った隠れ老舗の鍛冶屋だった。
「おう、キロランケ様じゃねぇか!」
「旦那!コイツに見合う武器を探しててだな。大丈夫か?」
「あぁ、お得意様の公爵様だからな。任せとけ。」
人より小さい…子供のようなおじさんがいた。鼻は少し長く目の堀も深めだ。
「あぁ、アンタが噂の兄ちゃんか。」
「噂の?」
「知らんのか?こんな隠れジジイでも知ってるのに。」
「知らないな…。」
俺が首をかしげるとおじさんはニヤと口角を上げて俺を見上げる。
「『期待の新星』って呼ばれてんだぜ、兄ちゃん。カッコいいじゃねぇか。」
「…そう…だな。」
―期待の…新星?
考え事をしながら武器を見て回る。俺に目利きがいいという程の自信はないが、どれも丁寧に精巧に作られている。
「なぁ、兄ちゃん。アンタはどんな武器をよく使う?」
「軽めの剣だな。片手で持てる…。」
「そうか…。だがよ、兄ちゃんには少し合わねぇかもしれねぇと俺は思うぜ?」
「…というと?」
「俺はだな…。」
そう言って店の棚をぐるりと周り、大き目な武器のコーナーのところで足を止めるおじさん。
「見た目にはあまり出てないが、兄ちゃんの筋肉量は大したもんだ。こういう重たい武器をお勧めするぜ。」
「ああ。ありがとう。」
そう言って俺は色々な武器を持ってみた。斧に鎌、大剣にハンマー、棍棒のようなものだって。だが、そこまでしっくりくるものがなかった。
―どうしたものか…。重たいのに慣れてないだけか?
俺はそこからも手当たり次第で持ってみる。おじさんが言っていたのが間違いには思えない…。俺の筋肉に気づけるのだから。
「おい、少年。それ、持ってみなよ。」
キロランケは一番上の棚にある大きなハルバードだった。
「ああ、分かった。」
まだ見落としていたのだろう。魔族は体が人間よりデカい。そのせいで棚もとても高い所まである。
俺は背伸びをしてキロランケが指すハルバードを持ってみると、その武器からの衝撃が体を駆け巡った。それは脳にまで届きこの武器を瞬時に理解できたような感覚に陥る。
なんと店内での狭い通路でも思う存分振り回すことができる。
「すごいね。流石、繋がりはあるのか。」
キロランケの小さな声が俺の耳に入ってきたが、俺にはよく分からない。ただ、これだけ体に合っている武器はそうそう見つからない。
「これにするか…。値段は…。二十エテル?!」
魔族の国のお金の単位は分からない。だが、キロランケに聞いていた話では武器は百~千が一般的だという。
「旦那、なんでこんな安いんだ?」
キロランケが聞くとおじさんは言った。ハルバードの刃を指さす。
「ここに刻まれているのは聖紋だ。勇者が仲間にあげたと言われているが本当なのかは分からない。ただ、聖紋と魔族は相性が悪いんだ。よっぽどのもの好きがいねぇと売れ上げだったからな。」
そう説明してくれた。俺にはちょうど百手前のお金を持っている。そのため躊躇いなく買った。だが、そこでおじさんがサービスでつけてくれた。
「聖紋…兄ちゃんみたいなのは大丈夫だろうがな、癖が強いのは確かだ。そこでこのガントレットをやるよ。」
「…え、いいのか?」
「ああ、これも聖紋がないとはいえ勇者が作ったからか、売れねぇんだよ。」
そう言って笑みを浮かべるおじさん。ガントレットは肩まであるもので黒地に金色のラインのものだった。俺はそれを抱え、ハルバードも背中に背負う。そして俺たちは店を後にし、キロランケの案内が再開する。




