第四話「覚悟と証」
―人間側に逃してもらえないか…。どうすれば…。
レヴィアの紅い瞳が、逃げ場を塞ぐ。
―人間側に戻る道はない。
それはもう、分かっている。
それでも俺は、すぐには口を開かなかった。
この選択は、生き方そのものを差し出す行為だ。
俺は拳を握る。
―クソクソクソ!クソ食らえ!
固まっていた足を動かして立ち上がり投げやりに豪語した。
「お前らの言う魔王に仕えよう。」
―あぁ、ガビに会ったら剣を向けられるのか。
「命を奪われるのは癪だ。」
―自分の命を惜しんだ奴と蔑まれるのか。
「思う存分、使えばいいさ。」
「その言葉に噓偽りはないな。」
俺を見下すように、そして胸の内を覗くように紅い目を向ける。
「あぁ、もちろんだ。」
「では、決まりじゃ―。」
「だが!」
レヴィアの言葉を遮り、俺は全魔族に聞こえるかのように言った。
「俺は魔王を好いている訳じゃねぇ!だから心まで捧げる気は無ぇ!」
怒っている奴もいるだろう、俺をよく思う奴なんて少ないだろう。今レヴィアがいるせいで俺に手を出せていないだけだ。だが、嘘ついて入ったって信用されない。
「ただ!……お前らが俺の命を狙うんじゃないなら、魔王に忠誠を誓ってやる!」
俺は言い放ち、レヴィアの目を見る。
―俺は言ったぞ。
様子を窺うように、身構える。
すると―レヴィアは腹を抱えて笑い出したのだ。
「アッハハハハ!面白い。其方、気に入った。流石、アヤツと繋がっているだけある。」
内心ではとても安堵した。レヴィアの手で殺されていた可能性もあったのだから。周りの魔族に受け入れられるかは心配だが…。
レヴィアは立ち上がり集まっている魔族の前で言い放つ。
「以後、ラヤ・ボナパルトは我らの仲間じゃ!だが、忠誠を確かめるために〝魔王浸食〟へ向かってもらう!異論はあるか?」
見渡すレヴィアに周りの魔族は反応する。
「大分、浸食されてたしな。」
「ちょうどいいかも…。」
「人間にできんのかな。」
少しずつ聞こえる話し声。だが、そこまで気にするほど反対の奴はいなさそうだ。
「では決定じゃ。解散!」
そうして謁見式は終了した。俺は来た道を引き返し、またメイドの元へ戻る。
「なんでしょうか?」
「道分からない。」
そういうと少し呆れたように案内してくれた。
「魔王様に無礼を働くなと…。」
「アイツは魔王の代理だ。魔王じゃない。」
「でも、今の立場は魔王様で…。」
「お前ら魔族は魔王を信じている。で、アイツは魔王に信じてもらえた。魔王が信じているなら俺たちもってことだろ?」
「……。」
「それじゃあ、アイツを敬ってるわけじゃねぇ。それでいいだろう?貴族なりの立場はあるんだろうが、魔王に対するのと同じにする必要はない。」
メイドは面食らった顔で俺を見る。そして一言。
「…そうですか。」
その後は無言のまま案内され少し気まずかった。
部屋の中ではベッドに寝そべるしかやることがなかった。
持っていたはずの武器だって今はない。武器の手入れや筋トレ以外は本当にやることがない。
―絶対安静はきついな。
そう思っていると扉が開いた―キロランケだ。
「やぁ、少年。」
俺は起き上がり、そのまま座る。
「もう、少年と言える年齢じゃないが?」
「私にとっては変わらんからな。それはそうとさっきの思い切りは面白かったぞ。」
「そうか。そりゃよかったな。」
やれやれという顔で俺は話す。
「魔王浸食は知ってるのかい?」
「『魔族の支配域に生まれる奇妙な地域』と言われてたが、よく知らん。」
「大分、アバウトだな。まぁ、あれは魔王様が生き返ろうとしている証拠だ。魔王様の力が独り歩きしようとすると生まれるんだ。」
「力が独り歩き…。スケールが化け物だな。」
「魔王様だからな。」
魔王浸食とはよく分からない。ただそういう物だと無理やり頭に押し込んだ。
―力が大きすぎるのか…馴染まないのか…。
考え出したら止まらない。そこで気づきに近いが、一つ気になることが出てきた。
「なんで、そんなに教えてくれるんだよ。」
キロランケはポカンとしながらも答えた。
「君も魔族側になったから…というか、魔王浸食を抑えるときに付添人として私も行くんだよ。」
「じゃあ、お前と浸食を止めるのか。」
「まぁ、そうだな。」
その言葉に驚くが、こうなるんじゃないかと思っていた自分もいる。
「俺の父親を殺したお前と共闘…。狂ってんな。」
「お互い様だろ。」
そう言ってキロランケは出て行った。
「ではな、少年。」
「ああ。」
―狂っている世界だ。本当に。
すると、とうとう睡魔が俺を襲う。疲れたのか緊張が切れたのか…。何も分からないまま寝てしまった。




