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未来の息子シリーズ

婚約破棄でテロ勃発!無表情令嬢、魔道具で即制圧します

作者: *ほたる*
掲載日:2026/08/14

※本作は単独でお読みいただけます。

 王宮の大広間。

 王太子アレックスの腕には、金髪の令嬢マリアがしなだれかかっていた。


「公爵令嬢シルフィーネ。貴様は無表情で何を考えているか分からん!

 ――婚約は破棄する。マリアの方がよほど相応しい!」


 ざわめきが走る。

 シルフィーネは一言も発しなかった。

 理解されないことは、もう慣れている。

 腰まで流れる銀髪。深緑の瞳の奥で、視線は静かに前を向いている。


 まるで、その場の喧騒が彼女の周囲だけを避けて流れていくかのようだった。


 次の瞬間――


「殿下!!」


 甲高い叫びと共に、部下が広間へ駆け込んでくる。


「テロです!

 時限爆弾式の魔道具が、王宮各地に設置されている模様!

 ――三十分以内に爆発します!!」


 大広間は一気に騒然となった。

 悲鳴、怒号、混乱。

 貴族たちは色を失い、先ほどまでの断罪の空気は跡形もなく掻き消える。

 もはや、婚約破棄どころではなかった。


 シルフィーネの眉が、ピクリと動く。

 しかし、彼女は動かない。


 その時。

 広間の空気が、不意に揺らいだ。

 淡い光が、ゆっくりと広間の中央に灯る。


 誰もが息を呑んだ。

 光は瞬く間に膨れ上がり――


「――母上!」


 眩い光が収まると同時に、一人の少年が姿を現す。

 銀色の髪、薄茶の瞳。年の頃は十にも満たない。

 少年は迷いなくシルフィーネを見つめ、叫んだ。


「もう、我慢しなくてもいいんです!!

 今こそ――その力を発揮してください!!」


 ざわめきが一段、強まる。

 だが、シルフィーネは慌てなかった。


 王太子の婚約者。

 高位令嬢。

 その立場で、機械や魔道具に深入りすることは――“はしたない”とされてきた。

 だから黙っていた。


 ――でも。


 シルフィーネは静かに懐へ手を伸ばす。

 細身の眼鏡を取り出し、鼻梁へとかけた。

 指先が縁に触れた瞬間、レンズがキラリと光を反射する。


「……場所は?!」


 初めて張りのある声が、大広間に響いた。

 視線が広間を走る。

 王宮の構造が脳裏によみがえった。


「サリード様!」


 迷いはない。


「――いつもの一式を!!」


「……了解」


 その声と共に、王弟サリードが一歩前へ出る。

  落ち着いた薄茶の瞳が、彼女を捉えた。

 無言で部下に指示を飛ばすと、次々と黒塗りの箱が運び込まれた。


 ――工具、解析盤、魔力増幅器。


 見慣れた一式。

 シルフィーネは迷わずそれに手を伸ばす。

 解析盤に魔力を流し込むと、光の線が走り、複雑な式が次々と浮かび上がった。


「起動式は旧式第三系統。この配置……設置者は王宮構造を完全には把握していない」


 指先が解析盤の上を走る。

 一瞬で、地図が頭の中に描かれていく。


「爆発点は――東塔、地下書庫、迎賓回廊。残りは囮です」


「王宮全体は、一つの魔力網で繋がっています。主核は一つ。魔力の流れが甘い」


 彼女は淡々と告げる。


「解除方法は単純です。――三分、ください」


 ざわり、と空気が揺れた。

 三分。

 三十分ではない。

 サリードは一切疑わず、頷いた。


「全員、下がれ。彼女の邪魔をするな」


 シルフィーネの指は止まらない。

 調整、遮断、逆流――。

 最後の刻印を書き換えた瞬間。


 ――光が、ふっと消えた。


「……解除、完了」


 どこからともなく安堵の息が漏れる。

 爆発は、起きなかった。


 大広間は、静まり返っていた。

 王太子アレックスは、呆然と立ち尽くしている。

 腕に縋っていたマリアも、声を失っていた。


 その沈黙を破ったのは、銀髪の少年だった。


「彼女の実力は本物です」


 少年は真っ直ぐに言い切る。


「この国に必要な人です。……そして」


「王太子の婚約者では、荷が重い」


 ざわ、と再び空気が揺れた。

 少年はサリードへ向き直り、はっきりと告げる。


「母上に必要なのは、才能を隠して生きる未来ではありません」


「その才能を、一緒に育ててくれる人です」


「父上なら、母上を支えられる」


 サリードの目が、大きく見開かれた。


 ――数年前。

 倉庫の片隅で、銀髪の少女が魔道具を分解していた。

 目を輝かせ、危険も忘れて、夢中で。


 本来なら止めるべきだった。

 だが、彼は何も言わなかった。


 翌日、サリードは作業台を用意した。

 工具を揃え、部品も補充した。


 それが、いつの間にか

 “いつもの一式”になっていた。


 彼女を表で守ることはできなくても、

 裏で支えることならできた。


 少年は一歩、前へ出た。


「これは――母上が、これから作る未来の魔道具一覧です」


 空中に光の線が走り、いくつもの断片的な設計式が浮かび上がる。

 防衛、医療、輸送、そして――時間干渉。

 大広間が、息を呑んだ。


「これは、父上と結婚しなければ成し遂げられない」


 少年はすっと前を見据える。


「資金も、権限も、理解も必要だからです。

 ……僕がここに来られたのも」


 一瞬だけ、視線がシルフィーネへ向いた。


「母上の発明のおかげです」


 少年の身体は光に包まれていく。


「では! 失礼します」


 そう言って彼は、にこりと笑った。

 次の瞬間、その姿は光となって霧散する。

 大広間には、理解が追いつかない空気だけが残った。


 やがて――

 サリードとシルフィーネの視線が、ふと重なる。


 どちらからともなく、そっと逸らされた。

 ほんのりと、頬が熱い。


 幼い頃から、何も言わずに見守ってくれた人。


(……サリード様となら)


 シルフィーネは、小さく息を吐いた。


(――共に、歩めるかもしれない)


 二人の間にあるのは、優しい沈黙だった。


 王宮の大広間に、

 新しい未来の始まりだけが、穏やかに満ちていた。


お読みいただきありがとうございます。

次回の投稿は8月24日(月)21時頃を予定しています。


未来息子シリーズの中編をお届けします。

少し長めのお話になりますが、最後まで執筆済みです。

お楽しみに✨

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