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「おもしれー女」と、皇帝陛下に言わせたい!【SS一話】  作者: 雪城 冴


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1/1

マリアンヌの場合

 マリアンヌが宮廷に来てから一ヶ月が過ぎた。皇帝アルベルトの寵姫を夢見て門をくぐったものの、待てど暮らせど彼は来ない。


 美人なだけでは、生き残れない。


 宮廷は才覚と努力の化け物で構成されている。美人なのは大前提。

 乗馬や剣術をこなす少女は珍しくなく、皇帝陛下は書類の山を瞬時に片づけ、政治に明け暮れ、女遊びなど興味もないという噂。


(どうやって皇帝に覚えてもらうのよ……!)


 鏡の前で自分の美しい顔を見ながらため息をつく。その時リュシアンナは一つの結論にたどり着く。


――皇帝に「おもしれー女」と思わせるしか道はない。


 決意した瞬間。

 マリアンヌの中で、何かが弾けた。




 翌日の朝。皇帝アルベルトの執務室の窓がゴトンと揺れた。

 執事は、見てはいけないものを見たような顔で固まる。その視線に気づいたアルベルトは窓の外を見て目を見開いた。


「……マリアンヌと言ったな。なぜ窓の外に逆さにぶら下がっている?」


 マリアンヌは頬をひきつらせつつ、笑顔を作った。


「ほほ、こうしたら皇帝陛下にお会いできるかと思いまして……!」


「妙なことをするやつだな」


 マリアンヌの心臓が震えた。


(今、“おもしろい”の片鱗言った!?)


「……落ちるぞ」


 アルベルトが窓を開けて手を差し出す。

 その瞬間——


 ぐらりとロープが揺れた。


「きゃあっ——」


「馬鹿者!」


 手首を掴まれ、マリアンヌは皇帝の腕の中へ落ち込むように引き上げられた。


 近すぎる距離に少々ドキッとしたが……

(これで名前と顔は覚えてもらえたはず!)

 心の中ではガッツポーズだ。



「あ、あの……お助けいただきありがとうございます」


「命懸けでふざけるな」


 叱りつける言葉なのに、声色は少しだけ震えていた。




 執務室に座らされたマリアンヌは、出された紅茶に口を付ける。全然悪いとは思ってないが、一応眉を下げて慎ましやかな表情を作っておいた。


「陛下、私……どうすればあなたに、興味を持ってもらえるんでしょうか」


「自分で言うものか、それは」


「だって、寵姫になりたくて……!」


 皇帝の手が一瞬止まる。

 だがすぐに淡々と答えた。


「美しさだけでは私の隣には立てん。宮廷はそんなに甘くない」


「……やっぱり、そうですよね」


 一瞬マリアンヌは落ち込む。しかしすぐに顔を上げた。


「でも!  私、諦めませんわ! 」


 その叫びに、皇帝はしばし沈黙し——やがて小さく笑った。


「……ふっ」


「えっ、笑いました!?  今!  陛下が!」


「やかましいな。だが——」


 アルベルトは腕を組み、彼女をまっすぐ見た。


「おまえは確かに、妙に目を引く。普通の女よりずっと……おもしろい奴だ」


 リュシアンナの心臓が跳ねた。


(出た!!  ついに!!  おもしれー()!!!おもしれー()まであと一歩!!)


 両手を挙げて喜ぶを彼女を見て、皇帝はわずかに頬を緩めた。


「ただし。寵姫になりたいのなら——努力も覚悟も示せ。外にぶら下がるのはやめろ」


「……はいっ!」


 この一言で十分だった。



 その日の午後、宮廷では噂が広がった。


「皇帝が……笑ったらしいぞ」


「え、あの無表情の陛下が!? 何があったの?」


「どうも、新入りの妃が“窓から逆さにぶら下がって”……」


「マリアンヌ!? あの子、死ぬ気なの?」


 侍女たちが騒ぎ立てる中、当の本人は胸を張っていた。


(よし。ここからが本番よ!)


 皇帝に“おもしれー奴”と言わせた少女の宮廷生活は、こうして幕を開けた。

 その先に恋があるかは——女神のみぞ知る。



――完――

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